天国の苦しみ

無いと有るもの・・

有ると無いもの・・

それはなあ~に。



原爆が落とされて3年後に私は生まれたんです。

まだ冷蔵庫も無かったし、もちろんテレビも無い時代でした。

学校の給食でカレーライスが出ると皆んなが喚声を上げて喜んだものです。カレーの味がしない、あの不味いカレーでもね。


あの時代はまだ国民の6割は農民で・・戦争に負けたせいでも有るのですが、日本中が貧乏で・・子供用の自転車なんて乗ってたら逆に虐められました。今の社会に比べたら本当に何も無かったんです。


でもね・・何故か幸せはあったんですよ。


当時は幸せが転がっていたんです。例えば学校給食のカレーです。あんな物でも一日幸せになれたんです。川遊びに行って大きなナマズでも釣れたら10日は幸せでした。

中学性になって、始めて自転車を買ってもらった時は嬉しくていつも磨いていましたよ。1年ぐらいは磨くだけで幸せになれたものです。


ある時、父が何かの気まぐれで大きな地球儀を買ってきてくれたんですね。私は何故かドキドキして眠れなかった。世界と私が繋がったような気がしましたよ。地球儀を見ると幸せな気分になったものです。

そのせいか、私は今でもグーグルアースが手放せません。

兎も角あの時代は幸せはどこかに転がっていたのです。



それから時代が変わって、日本は高度成長時代になり、私も結婚をしました。

あれは息子が15歳ごろの事です。

息子の誕生日の数日前の事・・


「今度の誕生日に何か買ってやるから欲しい物が有ったら言ってよ。」と私が言うと少し考えて息子が言ったんです。

「誕生プレゼントか・・ 欲しい物は大抵持っているから、今回はいいや・・」

・・今回はいいやって・・

私はてっきり喜んでくれるものと思っていたので驚きました。


大抵の物があるから欲しい物は無い・・

そうか、ここは天国なのか・・

全てが揃っている・・

確かに・・


現代ではカレーなんかじゃあ幸せになれないのです。自転車も幼稚園の頃から有るし、パソコンもゲームも・・全てが揃った社会では幸せになる材料が無いのです。

大人は食べ過ぎてダイエットをしているぐらいなんです。


全ての揃った現代では失う不安しかないのですよ。

「失う不安」それが現代社会の不安の正体だったのか・・

私は息子の言葉に返す言葉が有りませんでした。


その時思い出したんですよ。私の子供の頃・・

我が家に初めて冷蔵庫が来た時の事です。

妹たちが粉ジュースを水で溶いて製氷皿に入れて凍らせたんです。出来上がった合成オレンジの味のする氷を頬張る妹たち・・

その時の妹たちの目の輝き・・

間違いなく、あの輝きは幸せの輝きでした。


無いと有るもの・・

有ると無いもの・・

それはなあ~に。


では又(^_-)-☆





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