25話 私から世界へ送る【◾️◾️歌】



——創世。復元。生物は美しき世界わたしの礎になりましょう…幸福も平穏も、永遠すらも…これから等しく始まりを告げます。顕現なさい……



解脱永劫回帰天祝い豊かなる、等しき生命


………


……



軍服の男の手が止まり、ふと曇天を仰ぐ。


「…あ?何、よそ見してんだよ!!」


既に両足が切断されているうつけ者は激昂するが、それを無視して軍刀を鞘に納めた。


「何のつもりかな。散々、私達を妨害して…」


話を遮るように男は私に接近して、私を宙へと蹴り飛ばした。


「……!!」


蹴られた痛みでお腹を抱えながら、さっきまで私がいた場所に咲く一輪の花を見て思考を巡らせる。


(花…?ここは確かレンレ荒野…そんな物が突如として咲く環境ではない………まさか。)


そうでなければ説明がつかない。下手くそ気味に背中を地面に体を打ちつける前に抵抗するうつけ者を小脇に抱えた男が私を空中で攫った。


「……おい何すんだよ!?テメェ、マジで死にてえ様だなぁ…!!!」


「少し黙れ…舌を噛むぞ。」


地面に着地した後、男は速度を上げて荒野を駆け抜ける。


「説明しやがれよ!!って…あ?」


うつけ者は後ろを見て少し言葉を失っている様だった。


「…なあ博士。花ってのはよ…あんな速度で増えるもんなのか?」


一輪だけだった花が瞬きをするよりも早く増殖して、その一帯を美しい花畑へと変えてゆく現象を見て私は目を瞬かせる。


「あり得ないよ。へえ…これが神の権能って奴なのか。もし害がなければ、ずっと観察したいものだな。」


「あれに害があるのかよ?俺様にはそう思えねえが…」


足を止めずに男は懐からライターを取り出して、火をつけた状態で花畑の方へと投げた。


「君…結構器用だね。」


「ヘッ…俺様は無害の方に賭けるぜ?花なんてよ、所詮火の前じゃあ無力だしな。」


「私は逆でいくよ。君は…」


男に問いかける前に、ライターは花畑へと向かってそのまま…


——色とりどりの花吹雪へと変化した。


「っ、おいマジかよ畜生…!!!!」


「あははっ。今回は私の勝ちだね…って、それどころじゃないな。」


(ライターが花吹雪に変わる?……冷静に考えておかしな話だ。)


だがそんな現象を目撃したからには、認めざるを得ない。


(花畑がある地点の空だけは青く澄み渡っているのもかなり不気味だね…もうこれは……)


———私達の手に余る案件となった。


「うん…賭けに勝った私から、君に提案があるんだけど…」


「……撤退するべきってか?」


「その通り。ここで綺麗な花畑に囲まれて死ぬよりも、やっぱり私達の様な奴らは、地獄みたいな戦場で散る方がお似合いだろう?」


少しの沈黙の後、うつけ者は言った。


「チッ…いいぜ。賭けに勝ったのはオメェだ。しゃあねえから従ってやるよ。」


「…ありがと。」


本を取り出してパラパラとページをめくり帰還の準備をしていると、男は立ち止まって私達を丁重に地面におろした。


「…ちなみに君はどうするつもりかな?」


「会うべき奴がいる…だからここまでだ。」


「ヘッ。そうかよ…次会ったら確実にぶち殺してやる……その時まで生きてろよテメェ。」


うつけ者なりの最大の敬意を受けた男は、軽く頷いてから、私達から背を向けて増殖し続ける花畑の方向へと歩き出す。


——その姿がどうにも、彼女を彷彿とさせて…


「名前…教えろよ。」「君、名前は?」


撤退する直前に、私とうつけ者は気になってしまったのか声をかけていた…男は振り返る事もなく淡々と答える。


「佐藤零士だ。」


それを聞いて納得しながら、私達『傾奇者』は異世界アリミレから撤退した。



……



「…我が王!!」


(……ここまでか。)


乗せてある荷物の殆どを捨て、極限まで速度を上げて来たが、これ以上は逃げ切れない事は既に分かっていた事であった。


「…後、一国だけだったのだがな。」


久々に負け惜しみを吐きながら、小さく笑った。その時、馬車がピタリと止まり勢いそのままに外へと投げ出される。


(それでも……何故だか心地よい。)


遠くから忠臣が奮闘する声を聴きながら倒れたまま空を見つめる。


真っ青で、雲一つない…晴天。


「皆が…ポースやラナドが側にいてくれていたならば…満点であったよ。」


いつの間にか、忠臣達の声が聞こえなくなり花やお日様のいい匂い…しがらみのなかった幸福な少年時代で胸が一杯になり、そのまま目を閉じようと…



——らしくもねえな、我が王。いつまで相手の掌の中で踊らされてるんだ?



瞬間、閉じかけていた目が開く。


「…っ、幸福感を相手に強制させるなぞ…悪趣味極まっているな…」

「いいえ。私の幸せは皆の幸せなのです。あなたもそうでしょう?」


体がどんどん何かに変わっていくのを感じながら、最期の最期まで少女を観察し、思考する。


少女はその事を全く気にする事なく、ただ幸せそうに微笑んでいるだけだった。



……



性竜の迷宮…最深部にて。


「ゲヒヒ…久々に会ったと思ったら、殺し合いとか…本当に品性ないでありんすぇ?…おいらの失敗作??」

「…否定は、しませんよ………お父さん。」


巨大な鉈で斬りつけながら灰色髪の男…グラは苦笑いを浮かべる。


「お父さん…ねえ?ちな、何処ほっつき歩いていたんですぅ??どーせ見知らぬ女とイチャコラしてたんでざんしょう?」


「違いますよ。貴方に捨てられた後…僕はレン師匠に拾われて料理の修行をしたり、そこで色んな事を学んで…」


「「「くっだらね!!!」」」


グラに向けてブレスを吐き出すのを見て、小さく呟いた。


———食事の時間ですよ…トニー。分からせてあげて下さい。


「…ウッヒャア!!!飯、飯ですかぁ!?」


人格が変わった様にゲラゲラと笑いながら、息を大きく吸い込んでそれらを全て飲み込んだ。


「ぷはぁ…ふむぅ。苦くて不味いですがぁ…実に味わい深いっ!!!命の味ですねぇ?」


「「「うわっ、キモ。」」」


さっきとは打って変わって、狂笑を浮かべながら鉈を無造作に振り回し、屠って啜って骨や血の一滴も残さずに喰らっていく。


「おやおや…まだまだ沢山ありますねぇ。食べ甲斐があるってもんですよぉ。」

「……ゲヒヒ。」

「…?何のつもりですかぁ??」


両腕を上に上げて、うんざりした表情で言い放った。


「萎えたわ。孕ませてもすぐに消化されちまうから、クソ程つまんねえ……で、何の用でありんす?用があったからここに来たんじゃ…」


「まだ、お腹一杯食べてないですぅ。もっと下さいな?」


「ウゲェ。話になんねえ…だから嫌なんだよ。こういう欲望に忠実な奴なんかは、特に…」


「それは父さんにも言える事じゃないですかぁ…父さんは性欲に忠実じゃないですかぁ??」


「ええ、ええ!!到底、俺達には分からない価値観ですよぉ。相手のお腹を一杯にして自分が飢えてどうするってんですかぁ?」


「…食欲にしか脳のないおいら達の失敗作に言われたくないでありんす。」


「相手を満たす事への幸福感が分からないから、いつまでも経っても独りよがりの自慰童貞野郎なんですよぉ……分かりますかぁ?」


段々と、グラ…否、トニーが集まってくる。


「お腹…減りましたよぉ。ここに食べ放題のレストランがあると聞いてやって来ましたぁ。」


「匂いは兎も角、お肉の香りが良さそうですぅ…腐っていそうな感じも中々…んんっ!!」


「おい失敗作共……さっきの話、聞いてた?」


トニー達は話を、やめてにっこりと笑いながら、焦点が合わない目でヨダレを垂らして、こちらを向く。


「これは…早い者勝ちですよねぇ?」


「ブッフェ、ブッフェ!!!!」


「あ。尻尾は俺が食いたいですぅ。」


「じゃあ、臓物は俺が…」


「いやいや、俺がそれを狙ってたんですがぁ?」


「睾丸も美味そうですよねぇ。中身までギッシリと詰まっていそうで……」


「じゃ、俺が先に頂きますよぉ!!!!」


「エヒヒ……手に負えねえ。」


舌打ちしながらセクロスは、襲い来るトニー達を相手取った。


……


残り一体になるまで食い尽くされた後、やって来たトニー達は満足そうに帰っていった。


「…折角増えて来たってのに、まーた減らされたでありんす。どう責任取るんだよ失敗作?俺のチ◯コまで食いやがってぇ…暫くは禁欲生活なんだが?」


「…ごめんなさいお父さん。皆が、最近食べ物にありつけてなかったから…つい。」


「アヒャヒャ…おいら達の特性上、増えるのは仕方ない事でありんすが、その分しっかりと責任取って養わなきゃ駄目でざんしょう?」


「…う、うぅ。」


隣で項垂れるトニー…グラに戻った男を軽く叩き、思いっきり壁に体をめり込ませた。


「あ。ごっみーん☆加減を間違えたでありんす…ま。これで憂さ晴らしはここまでとしまして…お前、こんな所に何の用で来たんだ?」


頭から血を流しながら、グラは立ち上がった。


「この世界はもう…危険です。エンリちゃんが…」


その話を聞いて、おおよその事は把握した。


「エンリ…?あぁ。あの時のクソガキか。やっぱり、ありゃあ……」


膨大なドス黒い気配を溢れさせながらも、どこか、神聖な雰囲気を感じた…あの女。


「…あのクソガキをお前はどこまで知っているでありんすか?」


「そこまでの事は…えっと、原初の魔王くらいしか分からないです…ご、ごめんなさい。」


(流石に昔過ぎて知らねえ…か。生まれてなかったもんな。)


外は今頃、おいら的には気持ちの悪い空間になっているだろうし、いくら元は『大賢者』が一時的においらを幽閉する為に生み出した迷宮であっても、そろそろ崩壊するだろう。


——息子と話す時間はもう、殆ど残されてはいない。


「あれはかつて…4人の大神で共同で作った、最強の天使だ。」


「…て、天使?」


戸惑うグラに保管していた魔法のスクロールを投げつけた。


「お、お父さん!?」


「…帰って料理の腕でも磨いてな。お前が満足出来る物をおいらに……たらふく食わせたいんだろ?」


「待っ…」


宿っていた魔法の力で、グラは元いた場所へと帰還した。


「…おいらはまだまだ、沢山いるでありんすぇ……でも。」


———性竜セクロスのオリジナルにあたる存在は…おいらだけだ。


「ゲヒヒッ。息子の成長が見られたのは、幸いでありんす……さっさと姿を表したらどうでざんしょう?」


「バレていましたね。流石、腐っても竜。」


天井が消滅して花々が舞いながら、6本の翼を広げた少女がゆっくりと降りてくる。


「あなたは…香りも何もかもがとても穢らわしいので、私が一から創り変えてあげます。そちらの方が嬉しいでしょう?」


「はいぃ?おいらは別に、このドロドロ斑点絶倫ボディに文句はありゃせんよぉ。ん〜」



服が体に合っておらず、色々と肌が露出している事や、前見たよりも少しだけ背丈が伸びた少女の下腹部をチラリと確認してニヤリと笑った。


(ウヒヒッ…もうひと押しでござるなぁ。ヒッ、ヒヒヒヒヒッ…)


「…なんでしょうか。そんなにジロジロと。」


「今はないけど、脳内で勃ちましたぁ!!!!!!よーし、ぶち犯してやりますよぉ…その表情を苦痛に歪ませて、おいらの超絶技巧で即、絶頂させてあげるでありんすぅ!!!!!!!」


「…?…よく分かりませんが、私は既に満たされていますので…ご遠慮します。」


性竜セクロスのオリジナルと、最強の天使である少女との、結末の分かりきった戦いが始まり大方の予想通り、刹那的に終幕した。



……


「はぁ…また家賃払えてねえんだよなぁ。明日の食べる物もないし…このままだと餓死しちゃうな。」


「同情を誘っても無駄だぞ。今度という今度は貸さないからな。博打にばっか金を使いやがって……いい加減、自分で何とかしろよ。」


「つれないなぁ…あ?おい、あれ…」


「何だよ…そんなに体を揺さぶらなくても、いいだろ。どうせ大した事もない……は?」


誰もがその異変を見てすぐにその場から逃げ出そうとする。


「…っ、どうして!?」


「う、動けよ…嘘だろ……」


「嫌、嫌ぁ…!!!」


「く、クソったれがぁ!!!!」


道を歩いていた人々の怒声や悲鳴が何度も木霊するが、すぐに静まった。


——その日。ソユーの町を含めた全ての国々の城壁や城、国境を隔てる要塞は忽然と消失し、町中を歩いていた人々は多彩な花や青々とした木々、可愛らしい小動物と化したのだから。


……



「…伝達魔法によるジニヌ帝国のギルドからの通信が途絶えました。恐らく…もう。」


「……分かりました。では、結界の確認に行って来ます。」


「アン先輩……牢屋を出てからずっと寝てないですよね?今日こそは、」


「私はそこで充分休息を取りましたよ…ここで無理を通さなければ、次にやられるのは私達です。外にいた町の皆さんの様にはなりたくないでしょう?」


「…っ。」


口を噤み俯く後輩に、悟られないようふらふらとした足取りで側に立てかけていたメイスを持って、部屋を出た。


——なあ…いつになったら、終わるんだよ?


申し訳ございません。現在、色々と冒険者の方々と共に手を尽くしている最中で…もう暫くは時間はかかると…


——ねえ。動物になった私の彼氏を元に戻しなさいよ。聞いたわよ…その情報をギルドが持ってるって。


失礼ですが、それは根も歯もない噂です。その方法は今は見つかっていません…残念ですがそれが事実です。ですが、絶対に何とかその方法を探して見せますので、ここは辛抱して頂けると…


——この餓鬼が、俺の分の飯を勝手に奪ったんだ!!何とか言ってやれよ!!!


勝手に食べ物を奪った事は勿論悪い事ですが、年端も行かない子供に対して手を上げる行為にも問題があると思います。今日の所は私の食事を差し上げますので、ここはどうか…




……許して下さい。




私以外立ち入り禁止にした結界の起点…建物の屋上から下の様子を眺める。


「……。」


空は変わらず青く澄み渡る中、木々が生い茂り、風が吹くと花々がゆらゆらと揺れる。そこを楽しそうに小動物達が駆け回っていて…


「………っ、うっ」


左の頬を触れると、絆創膏が貼られている感触を感じられて…フェンスを強く握りしめて1人、涙を流す。


(…泣いた所で、何も解決しないから…意味がないって………分かってるのに。)


ボロボロととめどなく涙が溢れ落ちる。こんなにも晴れてるのに、私はずっと傘を持たずに雨の中にいる様で…嫌になる。


「私……ダメなのかな。」


このまま、結界の外に出たら楽になれるのだろうか。そう考えながら結界の要…地面に突き刺さっているエンリちゃんから貰った黒く変色している鞘を眺める。



——ワシ…とそこの凡人を助けた恩じゃ。くれてやる。万が一この世界がヤバくなったら使うがよいわ…名前?別にないのぅ。しいて言えば、馬鹿な男がワシへ遺していた餞別…かの?スクラップがそれを持っとった時はもっと綺麗じゃったが、使い方ぁ?……言わなきゃダメか??人間相手に丁寧に説明とか面倒で面倒で仕方ないのじゃが…ふ、ふん。別に期待はせぬが…いつか彼奴が言っていたビリヤニとやらを作ってくれるのなら考えてやっても…え、作れるのかの!?ほ、ほう…ならやってみせよ。言っておくが、ワシは食にかなり厳しいぞ。ハハハ…


……懐かしいなぁ。


「…戻りたい。皆と暮らした…あの日々に。」


頑固だけど、カッコいいお父さん。


礼儀正しくて、綺麗好きなお母さん。


よく反抗してきた生意気な弟にも…最近一度手紙を送ったけど、返事がなかった。きっと、アマス王国で忙しくしているのだろう。



——さん——だ!!



そうだ。明日、皆と一緒にピクニックをしよう。家にあるバスケット一杯に皆が好きな食べ物や飲み物を詰め込んで楽しく…幸せな……



———アンさん、駄目だ!!!



「……ぁ。」


フェンスが外れて、そのまま下に落下しようする私の左手を誰かに掴まれた。


「お、お、重いぃぃ…!!!アンさん…無事ですか?!カオスちゃんちょっと手伝ってくれないかな!?!?このままだと僕も…落ちちゃうぅ!!」


「うー?つなひきか??なら、まけないぞー!」


「…タマガワさん?何で…ここに。」


——おーえす、おーえす♪


「話は後でします!!とりあえずアンさん。右手に持ってるそれを離してくれるとぉ!!!!」


お父さんの遺品を…そんな事……出来る訳がない。


「ヤバい…このままだと、う、腕が引き千切れるぅ!?!?限界来ちゃうって…後で、本当に絶対に回収します、ここはどうか僕の腕に免じて…」


「で、ですが…これは…」


——うーーー!!よいしょーー!!!


「な、おわぁ…!?!?」

「え、きゃっ…」


彼の持ち上げる力が露骨に上がったと思ったら私の体が、持ち上げられて仲良く屋上の床に叩きつけられた。


「痛ってえ……無事…ですかアンさん。」


「……私は大丈夫です…が。」


「わーい♪もちあげられたよーーヤスリっ!」


色とりどりの花飾りを頭につけ、不思議な服を着て長い茶髪の虹色の目をした見た感じ、6歳ほどの少女が彼のお腹に飛び乗って、はしゃぐ。


「うぐぇ……よ、よく頑張ったね。カオスちゃん…」


「う〜。がんばったごほうびがほしい!」


「よーし。分かった…なら頑張ったカオスちゃんには僕がこれから全力で体中を撫でまわしてあげようって…アンさん?えっと…どうして僕をそんな目で見て…」


「やはり少女を攫う誘拐犯だったのですね。この騒動が終わり次第…覚悟しておいて下さい。然るべき施設にギルドの権限で私が推薦しておきますから。」


彼は猛烈に焦りだしている間に、私はゆっくりと起き上がり、近くに落としていたメイスを拾い上げようとする。


「…え、アン…さん?嘘…嘘ですよね!?」


「半分は冗談ですよ。子供の前なんですから、そんな野蛮な事はしませんよ。カオスちゃんに提案があるのですが…」


「…うー?なんだー??」


私の頬が久しぶりに緩む感覚がする。


「タマガワさんをこれから…全力でこしょこしょしませんか?」


「…え、そのマジですか?僕、真面目にくずぐられるの苦手なんでs」


「こしょこしょするの、たのしそー♪」


「っ、カオスちゃん!?!?!?こ、来ないくれお願いします何か僕に恨みでもあるんですか?アンさんにそんな酷い事した覚え…待って、やめて…あ、アヒャハャハャヤハャヤ!!!!だか、だからねほんと…ヒヒヒャヒャヒャ!!!!!」


メイスをそっと床に置いてから、彼の方へと歩く。


「……」


また彼と無事に再会出来て良かったとか、この惨状についてとか…やらなくてはいけない事は他にも沢山あるが今だけは考えない事にした。



(捌け口にしてしまって…すいません。)



そう思いつつ、早口で支離滅裂に喋りながら息も絶え絶えになって笑っている彼の体に私はカオスちゃんに続くように、手を伸ばした。


……



???にて。


「まだ…痛いですね。」


腫れた右手やお腹をさすり花畑の中を散策していると、遠くから気配を感じた。


「ついに来ましたか。皆様…あの男を私の元へお連れして下さい…生死は問いません。」



黒髪で可愛い兎の仮面をつけさせた男

右腕がなく代わりに花束を生やした老人

私が一から創り直した全身ピンク色の竜

この世全ての幸福を教えて手懐けた緑髪の青年



———それぞれが一斉に行動を開始した。



「早くまた会いたいものです。今度は…直接。」


誰もいなくなり、あの時の記憶を少し思い出し頬を赤らめて恍惚な表情で呟く。


精神体を創り出し、時空を跳躍して彼女を擬似的に乗っ取った際に流れてきた、私の知らない別世界の知識…様々な幸福の在り方を提示してくれた…あの男。



——タマガワ ヤスリに。



























































































































































































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