稚拙すぎる国家間交渉
16話 VSアマス王国&ジニヌ帝国(前編)
「…ワシの力で征服する…か。」
「……な、何だよエンリ…怖がってるのか?」
「さっきから歩き方が挙動不審じゃぞ凡人。」
僕は足を止めずに、苦し紛れの言い訳をエンリに披露する。
「違うんだエンリさん。これは僕が住んでた世界では『武者震い』といって…この状況に対してただ興奮しているだけなんだ。」
「こんな状況で興奮…?だとしたら、うぬはあのトカゲ並の変態じゃな。」
「は?……あ。まさかセクロスの事か!?だとしたら、それは違っ…」
スッと距離を取った。何とか誤解を解消させんと、僕が口を開ける前にエンリは言った。
「うぬはワシが、王国に住んどる人間共を根絶やしにするかもと心配しておるのじゃろ?安心せい。うぬが思っている事はせんし…どの道、出来ぬよ。」
「……そうなのか?」
「契約時に一応は約束した事じゃからの。だが…うぬがもし命の危機に瀕した場合は…」
「そんな事にはならないよ。だって、僕にはエンリがいるからな……だから、絶対勝てる。」
「ハハハ!!!いらん心配じゃったか。」
段々と、王国を囲む城壁が見えてきていた。
「…ほれ、先に渡しておくぞ。」
「あ、ありがとう。」
エンリは闇から、ドス黒いレイピアを取り出して僕に渡した。
「…使い方は分かるな?」
「……ああ。後ろは任せてくれ。」
「いや任さんわ。凡人に背中を預けるなぞ…酷く悪寒がする。あくまで、万が一の時の自衛用じゃしのう…それ。ワシが基本的に何とかするから…必要ないか……やっぱり返せ凡人。」
「エンリさんさ。遠回しに僕に抵抗する事を放棄して死ねと!?!?」
「うるせえよ!!門の前でペラペラと…何者だ、お前達は。」
いつの間にか僕達は門の付近に到着した。中は活気に満ちているのが遠目でも分かる。
「えっと、僕は冒険者なんです。それで、このアマス王国に用がありまして…」
「要件は分かったが…とりあえずカードを見せろ。」
「あの…見せなきゃ駄目ですか?」
門番はため息をついた。
「普段なら、一々確認しないんだが…今は国のトップ連中が揉めてるらしくてな…噂では、王族の1人が何らかの呪いをかけられたとかで…」
「……。」
僕はそっと、目を逸らした。
「だからさっさと見せてくれ。時間はそう取らないから…まさか、お前…何かやましい事があるのか?」
「いやいや……じゃ、じゃあ…これです。」
恐る恐る僕はカードを取り出して、渡そうとする寸前で体から力が抜けるを感じて…
「…どうした?」
「ここにエンリ…パジャマを着ていた、赤茶色の長髪で金眼の少女がいませんでしたか?」
「いたな。一体どこにい…っ!?」
王国内から激しい轟音が響き、門番が反射的に後ろを振り返り愕然とする。
「…ハハハハハ!!!!つまらんつまらん…所詮は人間か。ほれ…このままだとただの接近戦だけで完封してしまうぞ?」
「…ぐっ、あんな少女1人に負ける訳には…すぐにジニヌ帝国に増援を…何とかして、我らが王が亡命するまでの時間を稼ぐぞ!!!」
「なんだ?…っ、背後に…ぐああぁぁぁ!?」
僕も普通にびっくりしたが、すぐに冷静になって、レイピアで門番の左足をチクっと刺した。
「っお前…な、なんだ…これは。足の感覚が…」
エンリから借りたレイピア…その名は
——チクッと感覚なくなるヨンッ( ^ω^ )
曰く。これで少しでも相手を傷つけた場合、その部分の感覚がなくなる。傷の深さによって…その継続時間が伸びるらしい。
元々はとある鍛冶職人が作った物で、後にスロゥちゃんが魔法を付与して名付けたものを借りパ…譲ってもらった物だとエンリから聞いた。
(優秀だよな……これ。スロゥちゃんのネーミングセンス以外は完璧なんじゃないか?)
「っ、おい。何だよこの気持ち悪い傷口は!?!?」
地面に倒れながらも、刺した傷口が( ^ω^ )の形になっている事に激昂する。
「なんか…ごめんなさい。一日くらいで、消えて、ちゃんと動けると思うので……我慢してくれると。」
「ごめんですまねえよ!?…というか、お前らは何者だっ!!!」
「僕達は…」
耳を少しすませると、遠くからエンリの愉しそうな声や、苦痛にうめく声や叫び声が聞こえてくる。
僕は苦笑いを浮かべて答えた。
「て…テロリストです。」
その日、アマス王国は数刻の内に陥落した。
……
…
上空から俯瞰していた映像が一度切れた。重苦しい空気。蝋燭の火が辺りを照らす中、厳つい玉座に座る男が呟いた。
「ここまでは…我々の計画通りだな。」
「ソユーの町に落ちていた例のナイフは現在、こちらで研究をしております。もう少しで形になるかと。」
「こうして準備を整えれるのは…あの性竜が時間稼ぎしてくれたお陰ですな。そのせいで魔物連合の兵士の大半が犠牲になりましたが…」
「てか、同じ四天王なのにテネホはすぐ死んじゃったよね?アレ一応は悪魔だろ…マジ弱すぎ(笑)」
「やめよ…ミン。奴が先鋒として、あの転生者と対峙したお陰で『あのお方』の存在に気づけたのだ。」
ミンと呼ばれた緑髪の小人は口笛を吹いた。
「…私達はまだ動かなくても宜しいので?見ていた限り、あの転生者はお世辞にも強くはありません…これなら、闇討ちも可能なのでは?」
「今…戦いを挑むのは愚策だ。人間共にうつつを抜かしている間にこちらも転生者と『あのお方』の為の準備を整える。」
「内通者がいるのに慎重ですな。でも仕方ありませんなぁ。何せ相手はよりにもよって『あのお方』なのですからな。」
「……『あのお方』って、結局何なのさ。」
バツが悪そうに言うと、ミン以外の面々は目を丸くした。
「ほほ…久々に笑える話ですな。」
「ミン……知性ある魔物なら絶対に知っている筈ですよ。それと何故もっと早くに言わないのですか?」
「そう言うなカーマ。こいつは、まだ生まれたばかりの奴だ。知らないのも仕方なかろう。」
「…これでも数百年くらい生きてるよ!?」
ミンがブチギレる中、男は言った。
「…『あのお方』は、全ての魔物の祖だ。もしも名前を口に出して言えば、すぐに企みを察知され…殺される。」
「……サビ様でも?」
「魔物でも…魔王でも例外はない。だが…幸運にも対抗できる物を入手できた。これが完成すれば…確実に『あのお方』に勝てるだろう。」
「ほほほ…上手くいけば……ですがな。」
「上手くいかなければ、死ぬのは私達です。口を慎みなさい…ギャレト翁。」
「……これは手厳しいですなぁ。」
老人は小さく笑いながら、木の杖をついて去って行った。
「では、私もこれで。サビ様の為、必ずや完成させてみせます。」
「…ああ、励めよ。」
金髪の女性は床に溶けるように消えて行った。
男は玉座から立ち上がって、ミンの前に立つ。
「何…問題はない。もしもの時は我…僕がどうにかしてやるから。」
「…分かった。」
皆の前では決して見せない不安そうな表情のミンの頭を撫でながら、男は呟いた。
「すぐに……楽にしてやるからな。」
(———エンリ。)
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