17話 VSアマス王国&ジニヌ帝国(中編その1)

「…緊急、緊急っ!!王国内に侵入者あり!!騎士団で対抗してますが…既に半壊状態で…」

「第二区画にて火災発生!このままでは…早急にこちらに人員を…」

「っ!?混乱に乗じて、窃盗する者が現れたとの報告が!」

「は……相手は1人の少女!?現場指揮官は何を見て言ってるんだ。そんな冗談に付き合う暇はねえだろ!?!?きっと、パズ共和国とかの刺客に決まって…」

「国民の安全を第一に、残存兵力で避難誘導するべきだ!!」



「——鎮まれ。」


王の一声でしんと静まり返った。


「…死亡した者はいるか?」


「ぁ…負傷者は多数ではありますが、死亡した者はいないとの事!!」


「現在、王国内にいる負傷者を含めた使用人や兵士、騎士団に伝えよ…この地を離れると。」


「…ジニヌ帝国へ亡命をするのですか?」

「残された国民はどうするおつもりで…」


王は立ち上がった。


「すぐにジニヌ帝国にこの事を連絡せよ。分かったか?」

「…し、しかし…」


若い兵士がそう言い淀むと、何人かの騎士が口々に言った。


「この王は、正室がいらっしゃらない事以外は歴史上類を見ない程に完璧な王様だ。何か考えがあるんだろ…俺は従うぜ。」


「私は馬車を確保しに参ります。では…」


「安心せい。我らが王はその事をしっかりと考えた上でこの判断を下したのじゃよ。のう…ランページ王。」


「…そうだ。今は会議をする時間すら惜しい。皆の者、すぐにとりかかれ。侵入者への報復は…その後だ。」


『はっ!!!!!!!!!』


その場にいる全員がアマス=ランページの命令に従い、行動を開始した。


……



王を含めた騎士や兵士が撤退し、アマス王国を征服した直後の事。


「エンリさん、エンリさん…これからどうしよう……僕達…主にエンリが、圧倒的過ぎてこのままだとジニヌ帝国から…下手をすると、他の国々から大量に増援が来ちゃうよ!?もっと優しく穏やかに出来なかったの?交渉相手の王様は…もう逃げちゃったし!?!?」


返り血をペロリと舐めながら、エンリは嗤う。


「は。来た奴らを全員返り討ちにすれば、いずれ降伏するじゃろ?残った国民は…交渉材料として利用すればよい。既に『監獄コウフク』を城壁外の全面に展開しておる。2週間くらいは効果が持続し、ワシ以外は出られる心配もない故、安心じゃな。」


「ならひとまず安心…いや、ん?…それだと、僕も出られないんじゃ…」


僕は国民の方々から罵詈雑言と石とかを投げつけられながら、王城へと向かう。


「さっきから…痛いな。体も…心も…何でエンリには投げられないんだ?」


「単純に戦いを見とらんかったからじゃろうな。それにしても、この国の王は中々に優秀じゃぞ凡人。国民の危機察知能力が異様に高い。日頃から訓練をして備えているのじゃろう。」


「成程な…あっち視点ではエンリが年端もいかない可哀想な捕虜に見えてるのか…?とんでもない誤解なんだけど…」


「なら…殺すか?ワシなら出来るが…」


「駄目だからなエンリ。これは十中八九…僕の考えが甘かったんだから……!」


もっと、エンリの行動パターンを把握しておけば…きっと、こうはならなかっただろう。全面的に僕の勉強不足だった。


僕はエンリに微笑みかける。


「僕は、もっと上手く…エンリを使いこなしてみせるよ。」


「……」


その発言が気に入らなかったのか、右の拳が僕の腹に炸裂し、遠巻きに眺めていた国民はこぞって、エンリへ拍手喝采を送っていた。


……



そうして、13日後の朝。僕は寝ぼけたエンリを連れてアマス王国で見つけたとある場所へと来ていた。


「よーしこれから散髪をするぞ、エンリ!!」

「……マジか。凡人。」


エンリはため息をついた。


「あ…れ?てっきり僕は喜ぶかと思ってたんだけど……。」


「あーそうじゃな。確かに心が踊るくらい嬉しいぞ…しかし、ワシが言うのもアレじゃが、国を一つ征服した後にやる事ではないと思っただけじゃよ。」



(っ!?エンリが珍しく、常識的な事を言っている…だと。)


そう結論づけたと同時に左足を踏んづけられ、数秒間、僕は悶絶した。


「っ……エンリさん…僕、また声に出してたのかな!?」


「ん…いや?何となくワシへの悪口を言っていた気がしてのう。」


「…まさか、エンリ…お前。いつぞやのテレパシー的な奴で僕の心を読んだな!?」


「そうじゃ…悪いか?凡人。」


(コイツ…開き直りやがった。)


「……いい加減、話を進めろよ。凡人。」


「いや誰の所為だと…っ!?」


エンリの表情と今までの経験則上、これ以上文句を言うのはマズいと僕は判断した。


(我慢…我慢だ。僕は一応、大の大人なんだからな…うん。冷静に行こう。)


僕が心を落ち着かせていると、エンリは心なしか戸惑いながら僕に聞いてきた。


「散髪は確かに、ワシがしたいと言った事じゃが…ここで…やるのかの?」


「…そうだけど…準備は昨日徹夜でやったから。道具とかは揃ってるし問題ないと思う。」


「だとしても流石に……浴場に行く必要は…」


何故か焦っているエンリに僕は空気も読まずに発言する。


「まさか…お風呂嫌いだったりする?」


「……っ!?そ、そ、そ、んな事…あ、あり、ありおりはべりいまそかりじゃ!!!」


「懐かしいな。ちなみに僕は大嫌いだったよ…古典。ていうか、アンさんといた期間はどうしてたんだよ?」


「適当に…香水とかで誤魔化しておった。」


「………。」


すぐさま着ていた服を脱ぎ捨てて、僕は紳士なので、下半身にタオルを巻いてから無言でエンリに近づく。


「これ以上近づくなよ…変態が。問答無用で殺すぞ?」


「おいおい…声が震えてるじゃあないか。それに、初日の疲れが溜まってるんだろ?僕に対する踏みつけが少し甘かったのがその証拠だ。いつものエンリだったら、僕は数時間はその痛みで動けなくなるだろうからな!!!」


「いや、ずっと思っとった事じゃったが、どう考えてもそれはうぬが弱すぎなだけじゃろ!?今回は凡人に情けをかけて手加減をじゃな…」


「エンリさんや…考えてみて欲しい。僕に対して一度でも手加減をしてみせた事があったかな?例えば初対面の時とか…性竜の時とかも…まあ今はいいや。とりあえず両手を上にあげなさい…エンリ。」


「…ま、待っ…待つのじゃ。はっ…うぬがよく話しておった…あ、あれじゃ!?話し合いをしてやろう…じゃから…」


僕は涙目になりながらも必死に抵抗するエンリを押し倒し、服を脱がせようとする。


「暴行じゃ!!犯罪じゃーーー!!!」


「いつも僕が酷い目にあうから…今日ぐらいはいいだろっ、おい…抵抗すんなっ…服が脱がせにくいだろうが!!」


右腕を噛まれながら、僕はエンリが着ていた服を脱がせた。


……




「今日あった事をワシは未来永劫忘れる事はないじゃろう…覚えとれよ。今…うぬの死が確定した。」


「…いや、エンリさんや。日本人は1日一回お風呂に入らないと死ぬんだぜ?僕はよく耐えれたと思うよ。」


「だからって…ワシにその風習を押し付けるなよ。もし、全盛期に戻れたら手始めに…うぬがいた国を滅ぼす……絶対にじゃ。」


浴場には無論シャワーは存在しない。なので仕方がなく、僕達は湯船のお湯を容器ですくって体を流した。


エンリに浴びせたお湯が一瞬でどす黒く濁ったのを見て、内心ゾッとした場面もありつつ、今に至る。


「…浴場には…風呂には入らんのかの?」


「うん。髪を切ってからの方がいいかなって。どっちがいい?」


「なら……先に髪を切れ。」


「分かった。じゃあ…あそこにある大きな鏡の前にある椅子に座ってくれ。」


エンリは無言で椅子に座った。


「いらっしゃいませ〜本日の髪型は如何しましょうか〜」


「……何じゃそのノリは?気持ち悪いのう。」


「こっちではこんな感じなんだが…えっと髪型は、」


「適当でええわい…髪が地面につかなければ、なんでもよいわ。」


「…了解。」


僕は昨日から配置していた鋏でエンリの湿った赤茶色の髪のカットを始めた。


「痛くないか?エンリ。」

「……問題ないの。」


チョキチョキとその音が浴場で反響する。


(…ん?エンリの髪色って、こんなに赤み強かったっけ?背中にも少し違和感があるような…?)


唐突にエンリが口を開いた。


「…緊張しておるじゃろ?うぬ。」


「は、はひっ!?」


僕は紳士なので断じて、小さな女の子の裸に興奮した訳ではない…普段なら絶対にまじまじと見られない綺麗な肌に、少しだけ魅入ってしまったのは…否定しないが。


「ふん…おかしいと思っておったんじゃ。突然、散髪をしようだの…その為の準備をしていた事も含めて…夜、うぬが眠れない事はワシにとってはお見通しじゃ…一度鏡を見よ。」


僕は髪を切りながら鏡を一瞥すると、目に黒クマが浮かび、憔悴しきった顔の男がいた。


「…あはは。確かに。」


「じゃろ?所詮は凡人。分かりやすいったらないわい。一度始めたからには諦めるか、やり切るしかないんじゃから。」


「……そうだな。」


こんな姿を見たら流石の僕でも分かる。その反応に満足したのか、エンリは髪を切り終えるまで、目を閉じて何も言葉を発さなかった。


「……目を開けてもいいよ。」


「…ん。少し寝ておったわ。さてさて…どうなったか…」


エンリは鏡に映る姿を凝視していた。その姿に僕は若干、不安になる。


「…あ、あー…エンリさん?僕また何かやってしまいましたかね?」


「……事じゃ。」


エンリは目を輝かせながら、僕の方を向いた。


「見事じゃと言った。これは何という髪型なんじゃ?教えろ…凡人。」


「えっと確か…ロングボブっていう髪型だったと思う。」


「ははは…そうか。この髪型なら、もう2度と髪を引きずる生活とはおさらばじゃな!!!」


「まあ…定期的に切らないといけないけど。」



椅子から立ち上がって、普通の少女の様にはしゃぐエンリに僕は少し罪悪感を覚えながら、言った。


「喜んでいる所、水を差すようで悪いけどこれからお風呂に入るぞ。切れた髪を洗い流さないと…新しく作った服を着た時にチクチクするかもしれないから。」

「……。」


エンリは反射的に走って逃げようとしたが、見事に滑って、浴槽の中に落ちた。


「あ…、溺れっ…こうなったら、奥の手を…」

「底は浅いから、足をつければ…っ…ああもう…仕方ないな……お風呂場で走っちゃ駄目だろ!!」



僕はエンリの行動に呆れながらも、助けに行くべく、浴槽に入った。


……



「…これも、制服って奴かの?…おい、凡人…聞いておるのか?」


「あ、うん。そうだよ…高校生の時の奴で…」


「…中々に奇抜な服じゃ……ワシは気に入ったぞ。」


エンリにはあの人の為に手がけた改造制服Ver.1を着せている…ちなみに徹夜で作った。僕はといえば…


「…似合ってないのう。凡人。」

「……分かってるよ。それくらい。こんなのただのコスプレだ。」


僕が着ていた高校の制服なんて、作る気も起きなかったが…エンリの髪型といい、やっぱり…まだあの時の事を引きずっているんだと思う。


「あ…下」

「いらん。捻るぞ?」


そんな感傷に浸りながら、僕は脱衣所から出ようとすると背中に指が当てられた。それが誰なのかは分かるし、容疑者は1人しかいない。


「…どうしたんだ?エン…」



「——『悪夢アンラク』」



僕はその意図や意味すらも全く分からないまま意識が遠のき、その場で倒れた。








































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