13話 講義は、いつも突然に

「……降ろすぞ。エンリ。」

「…すまんのう。」


エンリをベットの上に寝かせて、布団をかける。


「チーズナンはここに置いときますね。何かあれば、リビングにいますので…」

「あぁ。グラ様…感謝します。」


グラは僕達に一礼してから部屋の扉を閉めるのを見て呟く。


「…僕、グラ様みたいな人になりたいなぁ。」


「……やめておけ。彼奴はああ見えて、ワシの次に狂ってる奴じゃからの。」


「またまた〜そんな訳…」


「……。」


盛大にエンリが嫌そうに舌打ちしていたから、絶対に違うのだろうと、嫌でも理解出来た。


「ワシが今、確かに少し弱ってはいるが…思い上がるなよ凡人……つまらん発言を控えよ。次はないと思え。」


「ごめんなさい!!…だけど…あの、どうしてそんなに弱って…」


「……次はないと、ハッキリ言ったぞ?」


「!!!!!!」


少女に対して、全身全霊で謝る大学生の姿がここにあった。


「……。」


「……おい、少しは何か話せよ。うぬが黙っとると…虫唾が…違う。無性に殺意が沸くからのう。それに、黙って良からぬ妄想をしていると思うと…引きちぎりたくなる。」


「矛盾&理不尽!?…後、僕は変態ではない…礼儀正しい紳士だ。安心してくれ…エンリには絶対欲情しないから…それにエンリだってノーパンの露出狂…ぁ。」


「よく言った……ここで死ぬが良いわ!!!」


むくりと起き上がったエンリに顔を掴まれる。


「…林檎の様に潰し…ジャムにして、美味しく喰らうてくれる!!!」

「僕は食べても絶対に美味しくないぞ!…わ、悪かった……話を、そうだ。話し合おう!!!」


そのまま頭潰されて死ぬのは嫌だなと思いながら、咄嗟の生存本能で顔を掴むエンリの手を力ずくで引き剥がそうと……


「…えっ。」


簡単に…ポロッと引き離せた。


(まさか、今までの戦いを通して成長したのか……僕は!!!)


僕はそう思って疑わなかったが…エンリの様子を見て、すぐに考えが変わる。


「……え、エンリさん?……」


僕の体に倒れかかってきて、一向に動こうとしないエンリを軽く揺さぶる。が…反応がない。


「……、……、………っ!?」


流石に異変を感じた僕は、助けを呼ぶべくエンリをベットに寝かせてから急いで、部屋の外に出ようと扉を開ける。


「ギャン!?だ、誰だお前…白っ!?」

「……。」


16歳程の少女が扉を開けた先に立っていた。ロングの髪もアホ毛も白く、ローブも魔女帽子も白い。目も白く、右目の眼帯も、何もかもが白で統一されていた。


「……っう。お前…も『超越者』なのか?」


ただ少女に見つめられるだけで…小刻みに体が震え出し、汗が吹き出す……僕の生存本能がこう訴えかけてくる。


——この少女は、僕のような一般人ではない…選ばれし『超越者』の1人なのだと。



「……。」



少女がエンリの方へと歩いていく。だから僕は震えてその光景を見ている事しか…


「…何。」

「ははっ…通さねえよ。」


あぁ…馬鹿だなぁ……僕。


「…エンリの髪を切る事…とか、パンツを履かせるとか…したい事がまだ沢山あるんだぁ!!!」


「……。」


「っ…だから、僕は…」


「……。」


少女はその場で立ち止まったまま、ピクリとも動く気配がない。


「あ、あの…?」

「……。」


背中を軽くチョンと触ると、受け身もせずにその場に倒れた。


「…いやいや!?おい、何で…ふぉう!?」

「——あんた、何してるのよ?」


声がした方を見ると、部屋の外から18歳くらいの見知らぬ少女がこちらを覗き込む様に見ていた。部屋の中に入ってくる。


(革ジャンに短パン…黒とピンクのまだら髪の短髪。左目が赤くて、右目が青いオッドアイ…体から、幾つか回路みたいのが見えるし…まさか機械…なのか?左腕がないのは…何があったんだろう?)


「…随分、変わった姿形をしてますけど…後、覗き見は情操教育上、良くないと思われ…」

「っ!?それは、そうだけど…あんた2人に何したの?エンリはともかく…スロゥが床で倒れてるのだけど…」


オッドアイの少女が戸惑っている間に僕は床に倒れている白い少女…スロゥをエンリの隣に寝かせた。


「ふぅ。これで、よし…と。ではこの辺で、失礼しますっ!!」


この部屋から脱出しようとした僕の肩をガシッと掴まれた。


「…話はまだ終わってないわ。」


「……チッ。駄目だったか…!!」


「何よその態度…まあ一部始終は外で見てたから分かるけど……」


「それなら!僕は無実ですよね??ただ触っただけで…あ、まさか…僕の力が、」 


「……」


何ともいえない少女の表情を見て…やめた。


「ていうか、もう卒業してるしなそういうの。僕は玉川鑢と言います。名前、教えてくれませんか?」


「何でこの流れで自己紹介を……はぁ…エクスよ。変わってるわね…あんた。物怖じとかしないんだ。」


「エンリとかスロゥちゃんは正直…めっっっちゃ!!怖いですけど。エクスちゃんやグラ様…それとリビングにいた……カオスちゃん?は怖くないですね。殺気とかプレッシャー…があまりないといいますか…」


エクスはじっと見つめてきた。


「…そう。でも気をつけなさいよね。ここにいる全員が…『超越者』なんだから。スロゥが起きたら、エンリの事…ちゃんと聞きなさいよね…あの子は別にエンリを襲おうとした訳じゃないわ…それだけは保証してあげる。」


「…?エクスちゃんは何か知ってたりとか…」


「知ってるけど……言う資格はないわ。それと皆の前で、エクスちゃんって呼ぶのはやめなさい。いいわね?」


「…あ、はい。」


エクスは僕に背を向けて部屋の外へ出ていく。


「そのダガー…大事にしなさいよ。」


ポツリとそう聞こえ…僕が何かを言う前に、扉が閉まった。


「…ダガーってこれの事だよな。まともに使えた試しがないんだが…」


(はぁ…ここに来てから、色んな人…なのかは分からないけど…会ったなぁ。)


——5人。


「『超越者』は7人だから…後2人か。別にコンプリートを目指している訳じゃないんだが…」


僕は簡素な机に置いてあるチーズナンを一瞥する。


「……エンリもこんな状態だから…僕が食べても…いいよな?冷めたら、きっと味が落ちるだろうし…」


僕が食べようとしたその時、お皿が突如浮かんで…それを仕組んだ術者の方へと向かった。


「……。」


目線を辿ってみると、そこにはベットから起き上がり、無表情ながらも心なしか美味しそうに食べる…スロゥの姿があった。


「起きたのか…えっと……スロゥちゃん?」

「……。」


もぐもぐとチーズナンを食べていて、一度も僕を見ようともしなかった。


(……食べ終わるまで、待つか。)


今ここで下手に刺激したら、大惨事に発展するかもしれない。僕はただの一般人で…ひとたまりもないだろうから。 


……



スロゥが心なしか満足そうに魔法か何かを行使したのか…使っていたお皿を消したタイミングで、僕は声をかけた。


——エンリは未だに意識がない。


「教えてくれ。スロゥちゃん…今、エンリの身に何が起きてるのかを。」

「……。」


スロゥはただ黙って、僕を見つめている。


「……スロゥちゃ、」


「肉体の状態…元々施されていた封印が…解かれようとしている。」


「えっと…ん?…封印??」


「カオスとの接触…それがトリガーになったのは…否定しない。」


「……あの、もっと分かりやすく…」


「…でも、こうなった原因は」


言葉を区切り、スロゥは淡々と僕に言った。



———あなた。


「え…僕?」

「……そう。」


頭が追いつかない。思考が全然纏まらない。


「召喚…その定義は無限に存在している。」


「あなたは…『過去召喚』を行使した。」


「過去に存在した人物を魔力の肉体で現界させる……『蘇生魔法』に限りなく近い…『禁術』の一つ…でも…その本質は、」


「待ってくれ。」


僕はスロゥに待ったをかけた。


「…何?」


話を遮られて無表情ながらも、不機嫌そうにこちらを見てくる。ここで選択を間違ったら、一発であの世行きになるかもしれない。


「…話は最後まで聞くよ。だから、僕にメモ帳とか…書ける物を貸してくれないか?」


(スロゥちゃんの話…分かりにくいし…こっちでまとめた方がいいな。)

「…!」



スロゥがピクリと体を震わせた後、無言で一枚の羊皮紙みたいな紙と羽ペンと小さなインク壺を僕に投げつけた。

































































































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