さけぐら/“変わった”日々
カツカツカツ…
いつものように夜道を歩いていたときだった、私は曲がり角を間違えてしまった、それがまずかっ
た、、、
それさえなければ、あの事を知らずに済んだのに。
―――<4日前>――
少しお金が溜まったから、本を買うことにした、どれにしようかなー、ミステリー、文庫、漫画、私
が幼稚園児の頃から続いていて、未だ完結していない児童文庫、よりどりみどりだ。
『児童文庫のシリーズものの新刊は… なし。じゃあミステリーの棚だな、まずは文庫の棚をチェッ
クしよう、次に時代小説、最後にミステリー』・・・頭の中で計画を立てたあと、私は本屋の中をめ
ぐり始めた。
―――しめしめしめのウッヒッヒ。
よりとりみどり、いい本を6冊も見つけてしまった。いやー笑いが止まらない。お金の都合で買うの
は3冊だけど。児童文庫のシリーズものの新刊と、面白そうなミステリーものと歴史関係の本。
レジに向かう途中で面白そうなホラーミステリーを見つけた。「籠メ囲メ」 ・・・峰光さんの新作か、
あの人の小説はタイトルも内容も面白くて読書欲を唆る。でも鬱だから購買欲がわかない。『せめ
て本の中くらい、希望を見させてほしいよね、現実が鬱なんだからサ』 そう心の中で独りごちると
私はレジに並んだ。「籠メ囲メ」は・・・図書室でリクエストしておこうかな。
本を買った帰り道、知ってる顔を見かけた、クラスメートの平畑さんだ、声を掛けようかなと迷っ
ていると、角を曲がって路地裏に入ってしまった。・・追い詰められたような表情をしていたけど、
大丈夫だろうか。
《クラスメートの平畑さん、コミュ力高め、成績中の上の人気者。そんな人でもあんな顔をするん
だなあ》 ・・・一人勝手にそう思った
次の日、登校途中のことだった、「ん?煙?」繁華街の建物から煙が出ている。あの位置は・・恐
らく裏路地の建物だ。
近づいてみると、結構ヤバいことに気が付いた。煙が出ているのは巷で暴力団の事務所だと言
われている建物。そして・・・「危険でーす!!離れてくださーい!! 危険でーす!!離れてくだ
さーい!!」・・・黄色い煙、重武装の警官隊、化学防護服を着けた消防隊・・・多分、毒ガステロ
だ。このまま見物していたい気もあるけど、流石に命には代えられない。一旦この場を離れて、学
校に電話しよう。
学区外、それも生徒の通学路でテロが起きたのだ、当然、学校の授業は中止になった。テレビ、
パソコン、スマホ…持てるメディアを総動員した。新聞も号外がばらまかれていた。夜遅くに、警
察から公式発表があった。案の定、毒ガステロだった、事件現場はやはり暴力団事務所、犯人は
今のところ不明、火災も発生したらしく、証拠の一部が燃えてしまったらしい。被害者は発生時屋
内にいた暴力団関係者全員。他の場所にいた関係者は恐らく無事で警察が接触を試みているら
しい。
<翌日>
登校してみると、みんな昨日のテロの話で持ちきりだった。私含め、現場に居合わせた者・・もと
い繁華街を通学路とするものは全員、教室に入ると同時に質問攻めにされた。とはいえみんな
知ってることはだいたい同じなので、昼頃には落ち着いた。それでも、ざわざわとした熱気は残っているけど。
ふと教室を見回すと、あることに気がついた、『平畑さん、避けられてる?いや平畑さんがみんな
を避けてる?』午前中、テロの話で盛り上がっていたときは、平畑さんもみんなの輪の中にいた。
じゃあ気のせいかな。でも、なんか気になるなあ、、、
次の日、教室には早くもいつもの雰囲気が戻り始めていた。そのおかげではっきりとわかった。
平畑さんは避けられてるし避けている。平畑さんの雰囲気も、ちょっと変わっている、暗いという
か・・、冷たいというか・・。思いきって話しかけてみた。
「平畑さん、おはよう」「あ、おはよ~、どうしたの?」「それはこっちのセリフ、顔色悪いけど、どうし
たの?」「あ~、最近寝れてなくて…」フフと失笑気味に笑う。寝れてない・・・、この間本を買った
帰りに見かけたけど、なんか関係あるのかな、それとも一昨日のテロのこと?『この間繁華街で
見かけたけど、何してたの?』って聞くのは流石に無粋だろうし、何を話そう…、「ねーねー真来
ちゃん、これ見て~」うだうだしてたら知り合いの由良さんが話しかけて来た、しょーがない。「寝
不足は気を付けた方がいいよ、またね」「ありがと、真来さんも気を付けてね」平畑さんとの会話
を切り上げて由良さんの方へ向かった。その日はそれっきり、平畑さんと話す機会はなかった。
私は由良さんに付き合わされたし、私が話しかけたのが切っ掛けになったのか、平畑さんがまた
みんなに話し掛けられるようになったからだ。
―――<冒頭に戻る>―――
そして、今日。3日間前のテロは、あまりに大きすぎる出来事だったからか、早々に誰も気にしな
くなっていた。平畑さんの“寝不足”は治ってなかったけど、他はいつも通り。由良さんも相変わら
ず強引で、キャハキャハしていた。その強引さが、受け身がちな私にはありがたいけど。そして授
業も、部活も終わって、私はいつの間にか夜道になってた帰り道を、とぼとぼ歩いていた。ぼーっ
としていたせいで、曲がり角を間違えてしまった、2本手前で曲がってしまった。道を間違えたこと
に気がついて、戻ってきた私の意識は、目の前の光景を認識した。
人が二人、倒れている、女子高生と男子高校生、血が出ている、人影、ナイフを持ってる、・・・・・
殺人 現場? 腰が抜けた、 呼吸が荒い、 動悸が激しい、 人影はもう消えている、落ち着い
て、落ち着いて落ち着いて、深呼吸、だめだ、叫べない、安心しろ、こんなこともあろうかと、、、ス
マホの電源ボタンを、5回押す、繋がった、「助けて、南町、鴉羽交差点付近、、」 そこまで言っ
て、意識が途切れた、
次の日の9時過ぎに、病院で私は目が覚めた。一瞬、何がなんだかわからなかった、診察の後、
警察の人から説明を受けた。
私が通報してから約1時間後に警察が現場に到着、その少しあとに救急車が到着して、私と、倒
れていた2人を搬送した。私はショックで気絶しただけだったが、倒れていた2人は、その日の内
に死亡が確認された。死因は失血死。身元は判明していて、
由良さんと、大森翔斗という男子高校生だった。
―――その日は学校を休むことにした。
[翌日]
お母さんと退院手続きをして、学校へ向かった。教室に入ると、知り合いが口々に心配してくれた。おかげで少し、楽になった。
先生から、3日後に葬式代わりのお別れ会をやると言われた。
学校の授業が終わった後、帰りの会の前に帰らせてもらって、事情聴取のために警察署に向
かった。知ってることは全部答えたけど、余り多く無い。由良さんと私は、付き合いは長いけど、
関係はだいぶ一方的なものだったからだ。でも、そんな私でも知ってることがある。由良さんには
ガラが悪い一面があるということ、大森翔斗って人は由良さんの彼氏みたいな人で、本物の不
良、、、所謂半グレ?みたいな人だということだ。そこまで話したところで思い出した。大森翔斗っ
て人が入ってる不良グループは、この前テロにあった暴力団とつながりがあったはず・・・嫌な予
感。警察の人も、その線を追っているのだろうか。目からも表情からも、何も読み取れなかったけ
ど。
警察署からの帰り道、繁華街を歩いていると、平畑さんを見かけた、待ち合わせかな?・・・話し
掛けてみよう。 「平畑さん、えっと、こんばんは」「あ、こんばんは、真来さん、事情聴取の帰り?」
「そうそう、平畑さんは?」「見ての通り、待ち合わせ」「へぇー、誰と?」「知り合い、科学部の」
「あ、科学部…そう言えば科学部の部長やってるんだっけ」「そうそう、もー大変だよ」うちの学校
の科学部は問題児集団兼便利屋として有名で、平畑さん他一部の常識人が何とかまとめている
のだ。 「大変と言えば、ここ最近やたらと物騒だよね」「そうだよね・・・テロが起きたり、殺人事件
も・・・」「あ、真来さん、思い出したく無いなら・・」「ううん、大丈夫」「ならいいけど…真来さん犯行
現場を目撃してるんでしょ?なら気をつけないと。犯人が口封じに来るかも」「あー、それは確か
にそうかも。すぐに腰抜かして気絶しちゃったから、あまりはっきり覚えていないんだよね」「具体
的には?」「フードを被っていることしか・・・顔は見えなかった」「そうなんだなら安心かな」「どうだ
ろう、私が顔を見たか見なかったかなんて、犯人にはわからないからね」「あー確かに」2人で笑っ
た。そこへ、「あ、待ち合わせてた知り合いが来たみたい。またね〜」 「またね~」・・・待ち合わせ
てた知り合いって・・げ、危険人物の佐久くんか。意外なような、逆にそうでもないような。しかし、
犯人が口封じに来るかも、か・・考えもしてなかったよ、さすが平畑さん。聡い人。 よし、早く帰ろ
う。
[3日後]
あれ以来、特に何事もなく3日間が過ぎた、強いて言うなら、平畑さんと放課後に会うことが少し
多くなった位。由良さんの件も、特に進展は聞いていない。そして今日は、その由良さんのお別
れ会、由良さんだけじゃ不平等だからということで、一応大森翔斗さんも一緒。他クラスからも集
めた由良さん宛のメッセージと、大森さんのクラスから借りてきた大森さん宛のメッセージが読み
上げられた。不良という一面があったのにこんなにメッセージが集まるあたり、2人のコミュ力の
高さを感じさせる。どうか安らかに。
ちなみに、2人と特に仲の良かった生徒は、2人の家に上がらせてもらってお香を焚いてきたらし
い。
校内では、2人の死に関係した、いろんな噂が流れていた。やっぱり大森さんは暴力団と接点が
あったらしい。由良さんも、直接つながりがあった訳では無いが、色々悪いことをしていたようだ。
[2日後]
その日は祝日だった、私が繁華街を歩いていると、突然裏路地に引っ張り込まれた。まさか犯人
が口封じにきた!?一瞬心臓が大太鼓のように激しく飛び上がった。しかし裏路地に引っ張り込
まれた私を取り囲んだのは、犯人ではなく不良だった、体格からして10代後半から20代前半程
度、正真正銘の半グレだろう。「おい、質問に答えろ」「質問?」「由良について、知ってることを答
えろ」「え、えーっと・・・」殴り掛かって来たりする感じでもなかったので、素直に答えた。どうせ私
が知ってる由良さんの情報は、誕生日と表向きの性格、好きな物くらいだし。「よし、次だ、平畑っ
てやつについて、知ってることを話せ」え、なんでそこで平畑さんが出てくるの?嫌な予感がして鼓動が激しくなった。焦りつつも正直に答える。すると・・・ 「よし、ついてこい」 やっぱり!早く逃げ
よう!・・とは言いつつも後ろは塞がれている。どうしようと思った矢先。
コロン、コロコロ・・・ プシュー
謎の煙幕弾が転がってきて、私含め全員の視覚を奪った。その間に私は誰かに腕を掴まれて裏
路地から連れ出された。
私を助けてくれたのは平畑さんだった、「真希さん、大丈夫?」「うん、一応」「良かった、、、」「ね
え、さっきの煙幕は・・」「佐久くん特性目潰し煙幕弾。はい、これで顔拭いて」「なるほど・・あ、濡
れタオルありがとう」「いえいえ」「あ、あと助けてくれてありがとう」「どういたしまして」「この近くに
居たの?」「うん、真希さんが引っ張り込まれるのが遠目から見えてね」「そうなんだ、おかげで助
かったよ」「そんな、ただの偶然だよ、あ、そうだ、続きは落ち着けるところでゆっくり話そう」「うん、
そうしよう」
小さめの商業施設のバルコニーで、私と平畑さんはテイクアウトのコーヒーをすすりながら。のん
びりと事の経緯を話し始めた。
「それにしても、半グレに絡まれるなんて・・・」「由良さんの件やちょっと前のテロで、みんな気が
立っているんだろうね、何されたの?」「えっと、何か質問された」「何かって、どんな?」「由良さん
について知ってることを話せとか、・・・平畑さんについて知ってること話せとか」「平畑さんについ
て知ってることを話せ・・・? それ、本当?」「うん・・」「・・・」「・・・ごめんなさい、真来さん、まだ落ち
着ついたばっかなのに、」「立て続けで本当に申し訳無いけど・・・ここまで巻き込んじゃったなら、
やっぱり明かさなきゃいけないよね・・・」「何を?」「えっと…」平畑さんは耳元に顔を近づけて、信
じられない事を口にした。「由良さんと大森さんを殺したのは、私なの」「え」「それとこの前の毒ガ
ステロも私」 動悸が激しくなる。 「嘘・・・本当?」「本当、由良さんの方は、証拠もある」平畑さん
はちょっと小さめのデジカメを取り出して、私に見せてきた。画面に写っていたのは、由良さんと
大森さんの死体の写真。画角、近さ、撮影時刻・・・犯人じゃないと、撮れない写真だ。「嘘…何で
…」「私の家、悪質商法に引っ掛かってすごい量の借金ができちゃって… で、色々合ってもういっ
そ債権者を殺しちゃった方がいいって考えて…」「嘘… あ、それで佐久くんと…」「そう、実行のた
めに、佐久くんとその友達の力を借りたの」・・・確かに佐久くん達の技術力なら、毒ガスぐらい作
れるだろう、でも、そんな・・・・・ 「真来さん?」いつの間にか、意識が飛んでいた、私としたこと
が、気絶してしまったらしい。気が付かないうちに、ずいぶん溜め込んでいたようだ・・・。
「あ、目が覚めたみたい」……いつの間にかベットの上にいた。「あれ・・ここは・・」「学校の保健
室」首を動かして辺りを見回すと確かに学校の保健室だった。私が寝かされているベットの近くに
は、保健室の先生と、科学部の小谷くんと長津くんがいた。さっき私に向かってしゃべったのは長
津くんらしい。保健室の先生が口を開く、「ショックだったよね、友達が友達を殺した犯人だったな
んてね。気が済むまで、ここにいていいよ」「・・・ありがとうございます。と言うことは、ここにいる3
人は真実を知っているってことですか?」「うん、そう言うこと」「そうですか…」何も気力が沸かな
い、何で保健室の先生が知っているんだろう。尋ねる気も起きない。長津くんが口を開く。「真来さ
んが良ければ、平畑さんが事件を起こした経緯をこっちから補足説明します」「そう…お願い…」
「いいですか、本当に?」 小谷くんが確認する。「うん…」「じゃあ、長津」「うん」「では、説明します
ね、本人から聞いたと思いますが、平畑さんの家族は、ヤクザの罠に引っ掛かってしまって、莫
大な借金をしていまいます。ヤクザの目があったせいで行政に相談できず、最初は地道に返して
いましたが、利子が高くてキリがない。で、平畑さんは思考を重ねた結果、債権者を殺すことを思い付いたそうです」続いて小谷さんが口を開く。「そして、プライベートでグレーゾーンな事をやっ
てる私達に協力してもらい、人の殺し方や証拠隠滅の仕方を教えてもらったり、毒ガス装置を用
意したりして、犯行におよんだと言うわけです」「そうなんだ、じゃああなた達も共犯?」「そういうこ
とになります」「そう、、、」「次に大森さんが殺された理由ですね、これは単純で大森さんもヤクザ
と関わりがあって、平畑さんの家族の借金のことを知っていたからです」「由良さんは?」「・・・由
良さんはですね、他の人から、殺すよう脅されたそうです」「他の人って」「学校の先生」 ・・!!
絶句した。「つまり、ヤクザを殺したのを秘密にする代わりに、厄介な問題児を始末させたってこ
と?」「そういうことです」「そんな・・・」保健室の先生も口を開く「ちなみに、平畑さんが捕まってな
いのは、警察とかヤクザとかかが事件の真相をもみ消したから、女子高生1人によって、暴力団
が大打撃を負うなんて、表沙汰になっちゃ色々とまずいからね」「先生はどうしてそんなことを知っ
ているんですか」「まあ、昔ワルだった頃の情報網だよ」「そうですか・・・」 スルリとベットから出て
保健室を出る。「真来さん、あなたが今何考えてるかわかるよ。だめだよ、それを実行しちゃ」先
生の声が聞こえてきたけど、無視した。
屋上に向かう、この学校は屋上が第2グラウンドになってるから、当然、扉の鍵も空いてる。いつ
の間にか日が沈み始めていた。・・・あの日、曲がり角を間違えて、由良さんの死体を見つけた時
から、毎日が変わってしまった。もう限界だ。フェンスを乗り越えようとする。そこへ、「自殺は駄目
です、真来さん」 平畑さんだ 「私だって自殺したいよ、逃げ出したいよ、でも、それをしちゃ、今ま
で生きてきたこと、積み上げてきたことが無駄になっちゃう。だから、駄目です、自殺は」
力が抜けた、膝から崩れ落ちた、涙が溢れてきた、
ああ
・・・死を望むのは、罪でしょうか
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