第4話 予感、そして波乱
モンスター・スタンピードを一瞬で制圧した俺は、事後処理に追われていた。
ドロップアイテムの回収、怪我人の治療、魔物の死骸から発生した瘴気の浄化と、やることは多い。
警察が犯罪者の捜査、逮捕を、消防が火災の鎮火や怪我人の搬送を担当するように、冒険者ギルドは、ダンジョン関係で発生した事象の処理を担当するのだ。
しばらく単独で事後処理を行なっていると、ギルド専属の部隊が到着した。
「冒険者ギルド事後処理部隊、到着しました!」
「あぁ、それじゃあ、俺は怪我人の治療をしておく。ドロップアイテムは回収しておいたから、魔物の死体の処理を頼む」
「了解しました!」
俺が指示を出すと、処理部隊のメンバーはテキパキと魔物の死骸を片付け、残った瘴気を浄化していく。
その様子を確認した俺は、早速怪我人の治療の準備をする。
「空間魔法【
俺が魔法を発動すると、目の前に宙に浮かぶ手のひらサイズの黒い箱が現れる。
俺はそれに手を突っ込み、内部にあるものを探る。
「えーと………これじゃない……あれじゃない……お、あったあった」
目当てのものを見つけた俺は、それを掴み、外へと引っ張り出す。
そうして出てきたのは、大きなテント。
前世で野営をするときに使っていたものだ。
内部は空間魔法で拡張され、見た目よりもずっと広い空間になっている。
俺はその場にテントを設営し、その中に怪我人を運び込んでいく。
「よし、これで全員だな」
全員を運び終えた俺は、テントの中で魔法を発動する。
「草×水合体魔法【天界の朝露】」
それぞれの傷病者の横に蔦が生え、その葉の先から雫が傷病者に落ちる。
すると、その傷病者の怪我が急速に塞がり、元の綺麗な肌に戻っていた。
「さて、怪我はこれで良いとして………」
次に、俺が向かったのは………
「麗奈、こんなになるまで頑張ったんだな………」
大切な義妹、麗奈のところだ。
怪我は完璧に治っている。
しかし、もう一つ、治療しなければならない。
「こんなに魔力を消費した人間、見たことがないぞ」
そう、あり得ないほどに、麗奈から魔力の反応を感じられなかったのだ。
おそらくだが、モンスター・スタンピードを抑えるために、限界まで魔力を使い果たしたのだろう。
「全く、体を大切にしろと言っただろうに………」
厳しいことを言うが、俺の表情は柔らかいものだった。
魔力を失っても、人間は死ぬわけじゃない。
しかし、世の中には魔力で動くものが多いのも事実。
それまでと同じような生活が送れないことは、確実だ。
だが幸い、まだ微かに、麗奈の中に魔力の反応が残っている。
これが消えないうちに、魔力を増やさなければいけない。
「もう大丈夫だ。義兄ちゃんが助けてやるからな」
俺は麗奈の寝ているベッドの横に腰掛け、麗奈の手を握る。
そして、握った手に魔力を徐々に流していく。
一気に流すと、急激な魔力量の変化に体がついていけず、魔力酔いを起こしてしまうからだ。
しばらく魔力を流し続け、麗奈の魔力が2割程まで回復したとき、麗奈が微かに目を開けた。
「池町、大丈夫か」
今の俺は、“白の剣帝”。
俺が早川海斗であるとバレないように、苗字で呼ぶ。
「ぁ…………終わり、ました、か…………?」
「あぁ、問題なく終わった。負傷者は多いが、死者はいない」
「よかっ………た」
俺の言葉を聞いて安心したのか、すぐに麗奈は気を失ってしまった。
「こんな時でも他を気にするとは………一体誰に似たんだか…………」
俺は、義兄妹なのに性格が似ることがあるのだなと、感慨深い気持ちに包まれた。
◇
しばらくして、麗奈の魔力が元の大きさに戻り、外で魔物の死骸の処理をしていた処理部隊から終了の連絡が入ったので、傷病者を救急に引き継ぎ、俺はギルドマスターに事後報告をするために一度ギルドへと戻った。
「ただいま戻りました」
「帰ってきましたか。それで、どうでした?」
「最初の方は良かったんですが、途中から魔物が凶暴化、結果としてモンスター・スタンピードの発生が確認できました」
「戻ってきたと言うことは、無事に鎮圧できたようですね」
「ええ、負傷者多数でしたが、死者は今のところいません」
「流石ですね。これで一安心です」
どうやら、こちらのことが気がかりだったらしい。
厳しい顔をしていた紗矢香さんが、柔らかな顔へと戻った。
しかし、次の瞬間には暗い顔へと変わっていた。
「しかし、目下の不安は取り除けましたが、この先に関してが、少々不安ですね」
「不安、と言いますと?」
俺が不安な訳を聞くと、彼女は暗い顔のまま続ける。
「実は、冒険者ギルド自然魔力研究局によると、最近、南極付近の自然魔力が不安定化しているとの情報が入ったんです」
「ふむ…………」
冒険者ギルド自然魔力研究局とは、世界に展開する冒険者ギルドにおける、自然に存在する魔力の研究をするための機関だ。
研究目標は、自然に存在する魔力を、将来的に利用できるようにすることらしい。
しかし、南極付近の魔力の不安定化か………
「今のところ、世界への影響はないそうですが、もしかしたら、この先状態が変化するかもしれないそうです」
「なるほど………一応、俺の方でも気をつけてはおきます」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」
魔力が不安定化することの危険性は、俺が1番よく知っているつもりだ。
よくよく気をつけておこう。
〜池町麗奈side〜
「ん………あ、れ………ここ………病院………?」
気がついたとき、目の前には白い天井。
私は病院のベッドに寝かされていた。
「おや、目が覚めましたか?」
声がしたので、その方向を見ると、看護師さんがこちらを見ていた。
「えっと、私、確か戦闘中に倒れて…………」
その後の記憶が曖昧だ。
私の様子に、看護師さんが教えてくれる。
「確か、最後まで戦っていたのがあなたなんですよね。あなたが倒れた後、ギリギリで“白の剣帝”が駆けつけて、事なきを得たそうですよ。“白の剣帝”から『最後まで戦ってくれてありがとう。君のおかげで日本が滅ばずに済んだ』と」
「…………」
看護師さんの言葉に、私は複雑な感情を抱く。
“白の剣帝”の役に立てたこと。
大勢の命を救えたこと。
そういった、明るい感情。
しかし反対に、
“白の剣帝”と同じく人々を救う立場にある私が、救われてしまったこと。
義兄との約束を違えてしまったこと。
相反する二つの感情に襲われ、なんとも言えない気持ちになる。
かの有名な“白の剣帝”の役に立てたのは、嬉しく思うこと。
その“白の剣帝”から感謝の言葉を貰ったとなれば、その嬉しさもひとしおだ。
しかし、私も彼(彼女?)も、人々を救うべき冒険者という立場。
それなのに、私は戦闘中に倒れ、“白の剣帝”に救われてしまったのだ。
人は何か失敗をした時、思考が負の方向に向きやすいというのは確かなようで、“白の剣帝”に救われるという失敗から、連鎖的に考えてしまう。
義兄との約束を違えてしまった。
私が冒険者になる前に義兄と約束したこと。
“生きて帰ってくること”。
私は死んだわけではないが、死にかけたことは事実。
そうでなければ、病院にいるはずがない。
「やっちゃったなぁ……………」
私が落ち込んでいると、病室の扉が「コンコン」とノックされる。
その直後、扉が開く音がして、誰かがこちらに向かってくるのがわかった。
「麗奈」
「お義兄、ちゃん…………」
そして、カーテンの向こうから姿を現したのは、少し暗い顔をした義兄だった。
【あとがき】
どうもお久しぶりです。島です。
なんと不幸なことに間違えて第4話のお話のデータを全消ししてしまって人知れず絶望していたり、先週一週間風邪で冬休みが潰れたり、その風邪を引くのも、ここ4ヶ月間でもう4回目だったりと、最近不幸が続きすぎな気がしますが、私は元気です(白目)
さて、皆様はこの冬休み期間、どのようにお過ごしましたでしょうか。
なんかもう語彙がおかしくなっている気がしますが、私はもうバイト以外することがなくて暇でした。(小説を書けというのはごもっともでございまする)
前述の通り、第4話のお話のデータを吹き飛ばしてしまって、結果として心が折れた私ですが、一応のバックアップからなんとか復元させましたのでご安心を。(私の心のHPは0通り越して最早マイナスです)
小説を書くだけでこんなにも心が削れるとは思いませんでしたが、まだまだ創作意欲はございますので、先のお話も楽しみにしていただくよう…………
それでは乞食をば…………
私の小説を読んでいるそこのアナタ!
今すぐに小説のフォローを!
そして☆☆☆を★★★に!
お願い致す!
それでは!
by島
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