第3話 モンスター・スタンピード
俺は“急ぎの依頼”を達成するために、自分が通っている学校の最寄りのダンジョンの上空に来ていた。
少し視点を動かせば、そこには住宅街があるが、ダンジョンの周辺だけは自然が構築されている。
「…………ふむ、確かに前兆がある」
今の俺の姿は、白を基調とした鎧に、白くなった頭髪、腰に刺された2振りの剣。
この姿は、俺が“白の剣帝”として活動するときの姿だ。
ダンジョンの方を見ると、一見変哲もないのだが、無属性探索魔法【魔力感知】を発動してみると…………
「魔力が濃いな。“発生”まであと数時間と言ったところか」
ダンジョン内部から、濃い魔力が溢れ出しているのだ。
ダンジョン内部から溢れ出すこの魔力は、危険な現象が発生する前触れ。
冒険者ギルドと国は、この現象を防ぐため、全てのダンジョンに魔力検知器を設置し、異常があればこちらに連絡が来るようになっている。
そして、今回異常があったのは、このダンジョン。
スタンピード。
これは、ダンジョン内の魔物が、原因不明の異常発生を起こし、ダンジョン外まで魔物が溢れ出す現象。
これのおかげで、なんと既に四つの小国家が滅んでいる。
それほどに危険な現象。
足元を見れば、この連絡を受け、援軍に集まった冒険者が数百名。
これはなぜかと言うと、スタンピードの鎮圧に関わった場合、多大な報酬が貰えるためである。
お金が欲しい人にとっては、参加しないわけにはいかないイベントな訳だ。
そう、紗矢香さんが言っていた、『急ぎの依頼』とは、俺にスタンピードを鎮圧させることなのだ。
別に、鎮圧自体はそこまで難しいことではない。
それも、一般の冒険者数百名程でも十分なほど。
ではなぜ俺に鎮圧を依頼するのか。
それは、ごくたまに、スタンピードが凶暴化することがあるのだ。
モンスター・スタンピード。
より凶暴化したスタンピードの名称。
危険度は、元のスタンピードのおよそ数百倍。
こちらで滅んだ国家は、なんと脅威の10国家。
しかも、スタンピードで滅んだ国家は、それぞれ別のスタンピードだったのに対し、この10の国は、一つのモンスター・スタンピードに壊滅させられたのだ。
モンスター・スタンピードが起これば、日本だけでなく、日本周辺の国家、韓国、北朝鮮、中国の大半、台湾、ロシア東部、中東亜諸国が滅ぶだろう。
つまり、これらの国が滅びるかどうかは、俺の手にかかっているわけだ。
「まぁでも、モンスター・スタンピードは発生確率低いし、心配いらんか」
分かりやすく特大フラグを立ててしまったが、まぁ大丈夫だろう。
足元をよく見れば、うちの学校の生徒もいる。
うちの学校は、Aランク冒険者級の奴が多いので、まぁ心配はないだろう。
〜池町麗奈side〜
私――池町麗奈は、スタンピード発生の知らせを受けて、ダンジョン前に来ていた。
理由は単純。お金が欲しいのだ。
自慢ではないが、私はBランク冒険者。
普通のスタンピードくらいならば、特に問題はない。
一時間後、ついにスタンピードが発生した。
周りの人たちが一斉に攻撃を仕掛ける。
「氷攻撃魔法【
私も負けじと魔法を発動。
複数の氷の刃が杖の先から放たれ、魔物たちを切り裂いていく。
完全に押せ押せムード。
このままスタンピード終結まで持っていけると思った時、異変が起こる。
前方で、人が吹き飛んだのだ。
「………え?」
瞬間、聞こえてきたのは、悲鳴。
人の隙間から前方を見てみると、そこには目が赤色に光った魔物が、人を襲っていた。
脳裏に過ぎるのは、モンスター・スタンピードの文字。
今、この場にそれを止められる戦力は、存在しない。
でも、ここで私たちが引けば、世界が滅ぶ。
私は引くべきか、残るべきか迷ってしまう。
そうして悩んでいる間にも、凶暴化した魔物は迫っている。
「………やるしか無い」
私は、モンスター・スタンピードの鎮圧に向けて、動き出すことを決めた。
そのためには、攻撃が当たる地点に移動しなければならない。
私は人々の流れを横切り、逃げ惑う人たちの側面に回り込む。
よく見ると、ダンジョン入り口にはまだ交戦している人たちも見える。
ダンジョンの入り口についた私は、すぐに交戦メンバーに加勢する。
「氷攻撃魔法【
次から次へと魔法を放つが、それと同じ頻度で魔物が出てくる。
「倒しても倒してもキリがない!」
「踏ん張れ!きっと応援が来るはずだ!それまで持ち堪えるんだ!!」
私たちは、全力で剣を振り、魔法を放ち続けるが、私たちは人間なのだ。
限界が来てしまった人たちが、1人、また1人と倒れていく。
「みんな!もっと踏ん張って!もっと持ちこたえなきゃ!!」
そう叫ぶ私自身も、もう限界が近かった。
「………くっ」
だんだんと魔力残量の底が見え始める。
「………っ!しまった!」
その時、一瞬だけクラッと来てしまった。
魔力欠乏症。
魔力が不足し、体内の魔力のバランスが不安定になることで、立ちくらみや頭痛などの体調不良が出る症状。
それによって、私は一瞬ではあるが、隙が出来てしまった。
「っ!」
目の前には、巨大なオーク。
奴の目は獲物を捉えたような凶暴な目をしていた。
私は防御魔法を展開しようとするが、魔力欠乏症で上手くいかない。
全身の魔力を掻き集めるが、ついにバランスを崩し、尻餅をついてしまう。
完全に弱った様子から、勝ったと思ったのか、オークはニヤリと笑い、持っている棍棒を振り上げる。
「い、嫌…………こ、来ない、で……………」
私は立ち上がることもできないまま、後ずさるが、それで逃げられるわけがない。
足に力が入らず、目から涙が溢れ、絶望するしかない。
「お義母さん……お義父さん……お義兄ちゃん……ごめんなさい…………」
奴の棍棒が振り下ろされる瞬間、そう呟き、目を閉じる。
その時、聞き慣れた、慕うべき人の声が聞こえた。
「
来るはずの衝撃が来ないことが不思議で、朦朧とした意識の中、目を開けると、そこには全体的に白くなった義兄のような人が立っていた。
「全く、自分の体は大切にするのが先決だと言ってただろう」
「ぁ………………」
その言葉は、私が冒険者になる前に、義兄が言っていた言葉。
『お前は、俺にとって、母さんにとって、父さんにとって、大切な“家族”なんだ。母さんたちは冒険者をやることを許してくれたが、俺から言っておく。自分の体は大切にしろ。危険な任務に行くなとは言わない。ただ、生きて帰ってこい。いいな?』
(あぁ、助かった)
そう分かった時、私の意識はプツリと途切れた。
〜早川海斗side〜
フラグを回収してしまった。
まさか本当にモンスター・スタンピードが発生するとは………
まぁでもひとまず………
「俺の義妹を殺そうとしたその対価、払ってもらう」
俺は二刀を構え、目の前のオークに向かって技を放つ。
「氷花月光流[
一瞬で放たれた文字通り1000発の斬撃は、オークをバラバラに切り刻み、ただの血溜まりに変えた。
「汚物は消毒だ」
義妹の無念(死んでない)を晴らした俺は、次に、結界で塞いだ結果、魔物がギュウギュウに詰まっているダンジョンの入り口に目を向ける。
「一体一体潰すのもメンドイ。一撃で終わらせる」
モンスター・スタンピードは、前も言った通り、10の国家を余裕で叩き潰すほどの強さを誇る。
俺はそれを一撃で叩き潰すと言ったのだ。
これは冗談でもなんでもない。
出来るからこその言葉だ。
今、この場でやって見せよう。
俺は二刀を再び構え、濃く、深く、刀に魔力を込めていく。
しばらくして、ダンジョンの入り口を塞いでいた俺の結界が、耐久限界を超え、破壊される。
瞬間、俺は力を解放し、技を放つ。
「氷花月光流[
俺は一足で水平に飛び、一筋の龍の流星となってあたりを閃光で包み込む。
光が収まった時、そこには1人立つ俺とその周囲に倒れ伏す大量の魔物の死骸があった。
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