第2話 ギルド

 〜霧島沙羅side〜


「―――で、そこに“黒の魔帝”が現れ、あなたの危機を助けて去って行った、と」

「はいそうです」


 私は、“黒の魔帝”の言いつけ通り、しっかりと警察に連絡、現在はちょうど事情聴取が終わったところだ。


 突如と現れ、私を助けて去って行った、“黒の魔帝”。

 その実力は、やはり天魔九眼としての実力を物語っていた。


 私には到底追いつけないほどの魔法のセンス、スピード、魔力量。

 それを簡単に扱える程の頭脳。

 私では、一生かけてやっと追いつけるかどうかというほどの戦闘力。

 他の誰も追いつくことはできない、完全で完璧な動き。


 そして、彼がしてくれたその後の対応。

 誘拐犯を冷徹に、冷静に蹂躙した後、フードの隙間から見えた、私に向けてくれたあのあたたかな瞳。

 そして何より、私の悩み、辛みに理解を示してくれたこと。


 そのカッコよさとギャップ、心優しさに、私が惚れるのに時間はかからなかった。


「はぁ………カッコよかった…………」


 一緒に居たい、手を繋ぎたい、抱きしめたい、抱きしめられたい、キスしたい、えっ◯したい、結婚したい!!

 私以外の女を排除したい、浮気は絶対に許さない、誑かすのは絶対に許さない、許さない許さない許さない……………


 …………自分でも、この感情は重過ぎると思う。

 それでも、彼が好きで好きで堪らないのだ。

 彼を愛して止まないのだ。


「彼のは覚えた…………次会えるのはいつになるのかなぁ…………」


 私は1人で呟きながら、彼をどう堕とすか画策し始めるのだった。





 余談


 お察しの通り、彼女は完全にヤンデレである。

 後々、彼女のヤンデレが海斗の人生に多大な影響が出ることを、彼はまだ知らない。





 〜早川海斗side〜


 “黒の魔帝”、“白の剣帝”という肩書きを隠しているとはいっても、流石にそれだけでは生活に支障が生じるので、冒険者ギルドに所属していることだけは家族にも明かしている。


 そんな訳で、俺は帰った後、すぐに最寄りの冒険者ギルドに向かい、そこで訓練をしていた。


 相手にしているのは、複数のロボット。


 冒険者ギルドと国が共同開発した戦闘用魔導人形、通称BMDだ。

 名前の由来は言わずもがな、「Battle Magic Doll」から来ている。


 戦闘レベルを1〜100まで設定でき、戦闘体制も剣術、魔術、その両方といった戦闘ができる。


 いろんな国がこれを軍事利用しようと躍起になって研究しているらしいが、未だ実用化には至っていないらしい。

 ただ、これを使えばある程度の対人戦闘をこなせるので、訓練にはちょうどいい相手だ。


 俺は10体のBMDを相手に善戦を繰り広げる。


(右に3体、左に5体、奥に2体…………)


 激しく動きながらも、冷静な思考は忘れない。


(っ!)


 その時、BMDの一体が、大きく踏み込んできた。

 振り下ろされる剣に対して、俺は手に持った刀を横に構えて防ぎ、すぐに反撃に転じる。


 キン!キン!ガキィン!ドガガガガガ!!


 俺が目の前のBMDに集中していると、横から槍が飛んできて、文字通り横槍を入れられた。

 槍が飛んできた方を見ると、そこには槍が外れるや否や、こちらに突撃してくるBMD複数の姿が見えた。


(しまったな。集中しすぎた)


 俺はそれまでの動きに反省しつつ、刀を握り直し、一つの構えを取る。


氷花月光流ひょうかげっこうりゅう十五夜月じゅうごやつき中秋ちゅうしゅう]」


 瞬間、俺は刀を素早く振り、合計150発の斬撃を飛ばす。


 その連撃をBMDたちは捌いていくが、8体に対するは150発。

 確実に避けられない。


 斬撃が1発ずつ人間の急所を模した的に当たり、それぞれがダウンの判定となる。


「よし」


 残るは2体。

 いざ倒そうとその方向を向いた瞬間、目の前には巨大な火球。


「空間防御魔法【空間断絶くうかんだんぜつ】」


 一瞬の動揺もなく展開された結界に火球が防がれる。


 俺に魔法が防がれたのを確認した2体のBMDは、すぐさま次の魔法の発動に移る。

 それに対して俺も魔力を放出し、魔法を発動する。


 先に魔法を撃ったのは、BMD。

 空中に描かれた魔法陣から水の触手と風の刃が放たれる。


「雷攻撃魔法【雷霆剣サンダラーソード】!!」


 対して俺は左手から剣の形に落とし込んだ雷を放つ。


 ズズゥゥゥン…………


 魔法と魔法が衝突した瞬間、建物が揺れ、あたりに衝撃波が広がる。

 威力は互角だったようで、互いの魔法が打ち消し合い、その場から魔法の痕跡が消える。

 一瞬の静寂、俺は足元に魔力を込め、次なる魔法を発動する。


「土拘束魔法【岩鋼の牢獄ロックプリズン】」


 瞬間、BMDたちの足元から岩がせり出し、それらを雁字搦めにする。


「草攻撃魔法【草の荊グラスニードル】」


 身動きができなくなったBMDたちに俺はすかさず追撃を叩き込む。

 正確に放たれた木の槍は、BMDの急所に当たり、ダウンの判定を取る。


「ふぅ」


 BMD相手に鮮やかな勝利を収めた俺は、縁の方に置いておいたスポドリを飲み、休憩に入る。


 その時、武道場の扉が開かれ、誰かが入ってきた。


「おいおい、相変わらずとんでもねぇ訓練をしてんなぁ」

「ん?あぁ、佐竹さん」


 入ってきたのは、この冒険者ギルドに所属し、俺と同じく剣華七聖の第三席を務める佐竹勝己さたけかつみさんだ。


「今日はどうしたんですか?」


 ちなみに、俺が敬語なのはもちろん俺の方が年下だからだ。


「俺も訓練しようと思ってな。そんで覗いてみたら早川くんが居たってわけだ」

「なるほど」

「しっかし、またこれは…………」


 そういって佐竹さんはBMDの後ろに周り、レベル表示がされている部分を見る。

 そこには、なんと1〜100のどの数字でもない、レベルΦファイの表示があった。


「こんなイかれたレベルを複数相手取るって、やっぱり規格外の強さだなぁ。俺でも1体相手するのが精一杯だってのに………」


 BMDのレベルには、通常の1〜100のノーマルレベルとそれよりも強い、リモコンで特殊なコマンドを入力することで戦えるハイレベルがある。

 レベルΦというのは、その中でも上位。

 冒険者ランクにおけるSSSランク冒険者ですら勝てないレベル。

 俺はそんなもの複数相手に善戦を繰り広げるほど強いのだ。


「流石にハイレベル最上位は僕でも手こずりますよ」

「いやいや、最上位相手に『手こずる』で済ませられるのは早川くん以外いないだろ。しかもそれでいて全力も出してないときた。君どこまで強いんだ?」

「僕、最強だから。というのはおいておいて、これくらいの実力無いと最強は務まりませんよ」

「はっはっは!確かに、君がいてくれるからこそ、今の日本の平和だからなぁ。まさか自分よりも一回りも年が離れてる子が剣華七聖と天魔九眼のトップだって聞いた時は、驚きで失神しそうだったんだがなぁ」

「いやいや、自分は学業のために任務減らしてもらってるんで、実際に平和を維持してるのは佐竹さんたちでしょう」


 俺がそんな謙遜を言うと、佐竹さんは笑って言う。


「いや、確かに、現場で活躍している俺たちの影響もない訳では無い。でも、『この国には“黒の魔帝”と“白の剣帝”という神出鬼没の最強がいるから、悪いことをするのはやめよう』といった感じで、悪行を自分からしないようになるんだよ。つまり、君はこの国にいるだけで影響力を持っているんだ。もし今より多くの犯罪者がいれば、確実に日本の治安は悪化していた。俺たちは、君に助けられているんだよ」

「俺の影響って、そんなに大きいものなんですね」


 自分の世界が如何に狭いかを思い知らされることだ。


「そうだ。君は誰もが認める最強なんだから、もっと自信を持つことだ」

「ありがとう佐竹さん」

「いいんだよ。そんじゃ、俺も訓練始めますかね」


 一通りの話が終わった佐竹さんは、倉庫からBMDを一体引っ張り出してくる。


 と、その時、再び武道場の扉が開かれ、1人の男性が入ってきた。


「早川くん」

「マスター、どうされました?」


 入ってきたのは、俺の所属するギルドのマスター、七瀬川紗矢香ななせがわさやかさんだ。


 マスターは俺の問いに対して、お決まりとなった言葉を言う。


「急ぎの依頼が入ったわ。頼まれてくれるかしら?」

「ええ、了解です」


 俺に対しての、『急ぎの依頼』は、が起こる前触れがあったと言うこと。

 日本を、世界を守るため、俺は鎧を見に纏い、武道場を出るのだ。

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