青い恋

赤目ゴリラ

僕がやらなきゃ何も始まらないと言うこと

 僕は片思いをしている。彼女は同級生である。

 あれはまさしく一目惚れだった。春のよく晴れた日、もう半分散りかけている桜の、最も美しい姿を単なる背景にしてしまうほど、彼女は美しかった。ふとした時に彼女を目で追うようになったのがいつからだったか、今では思い出せない。

 それから2ヶ月と半月が経ち、僕は決心した。夏休みが来るより前に、彼女に話しかけてみよう。

 決意をしてから一週間が経った火曜の放課後、昇降口で僕は自分との約束を果たした。

「あの、今日駅まで一緒に帰らない?」

 ああ、なんと優しいことか。彼女は長考もせずに、

「いいよ。なんか、入学式ぶりだね。」

と快諾してくれた。

 その帰り道はあっという間だった。それでいていろいろなことを話した。苦手な食べ物のこと。部活の雰囲気のこと。周りがみんな勉強ができる人ばかりで、不安になったこと。先生たちの第一印象のこと。僕たちが打ち解けるのに、多くの時間は必要なかった。何だか、梅雨の日にしてはとても心地よい帰り道だった。

 それからたまに、火曜日に彼女と帰るようになった。


 私が彼の存在を意識するようになったのは、入学式から丁度1ヶ月ほど経った頃だった。最近妙に視線を感じると思えば、それは彼のものだった。

 実際、私はモテる方だと思う。中学の頃は同級生の女子からも、よく可愛い可愛いと言われていたし、自分でも容姿には自信があった。だから彼の視線もいつも通りのものと何ら変わりはなかった。むしろそれ以上に、頑張って入った高校のレベルについていくことの方が私にとっては問題だった。

 正直、彼から一緒に帰る誘いを受けた時は意外に感じた。咄嗟に出た言葉に彼が聞き返して来なかったことに私は少し安心した。駅までの約十五分の間、私にとって会話の他に気にしたものはなかった。次からの誘いを断る理由もなかった。


 何度目かの帰り道に僕たちは連絡先を交換した。それでも特に話すようなこともなく、放置したままになっていた。

 一学期最後の帰り道、ちょうど駅が見えて来たぐらいで、僕は切り出した。

「夏休み、2人でどこか遊びに行かない?」

「いいね、それ。じゃあまた後で連絡するね。」

 と、彼女はまたも快諾した。ああ、こうして仲良くなれて、学校がなくても彼女に会えるというのは、なんと素晴らしいことか。そう思うと同時に、何かプレッシャーのようなものを感じた。これからは何があっても、それは僕の行動の必然的な結果なのだと、何者かに言われたような気がした。


 夏休みに入る頃、私はもうすっかり彼のことを信用していた。純粋で自分の心に誠実な彼のことを。映画を見にいくことは、私から提案した。見たい映画があったのもそうだけど、映画館の近くにあるカフェにも行ってみたかったから。まあきっと、私の行きたいところなら彼はついてきてくれるだろうと言う確信があったし、実際そうだった。

 1週間後の11時に待ち合わせしようと言うことが決まってからも、彼とのメッセージはしばらく続いた。正直に言うと、私は初めての事に対する跳ねるような期待をもって、その1週間を過ごしていた。


 僕が待ち合わせ場所に十五分前に着いたら、彼女はもうそこで待っていた。

「今来たところ。」

 と、お決まりのセリフを言う彼女がメイクをして来ていたことは、僕にもすぐわかった。

 僕はその日のことを何年経っても忘れないであろう。映画を見て泣いて、少しメイクが崩れた彼女の目元、彼女の頬についたホイップクリーム、夕陽に照らされる名残惜しそうな彼女の表情。彼女の美しさは一日中僕の目の前にあった。

 帰り際、僕もやはり名残惜しかった。

 恋に悩みは無用であると悟ったのは、僕の口から出た言葉を理性がようやく理解した直後のことだった。

「好き。」

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