09.魔王襲来

「あ、貴方は……!?」


 ステラがその人物に尋ねる。


「魔王軍の刺客……よ……」


 白銀の長い髪に二本の黒い角。

 褐色の肌、透き通るような青い瞳の目は意思が強そうであるが、それでいてどこかあどけなさの残る絶世の美女。


(魔王軍の刺客っていうか、魔王そのものじゃねぇか!!)


 魔王レイシアがそこにいた。


「刺客第二弾というわけですね。なかなか強そうな方です。気を引き締めていきましょう。んー、でも貴方どこがで見たことあるような……」


(いやいや、その人、魔王……! 君たちが倒そうと思ってる人……!)


 まさか刺客第二弾で魔王が直々に来るなどと想像していないステラは目の前の人が魔王であることに気づいていない。


(ってか、レイシアなんで来てるの!?)


 ルーファがレイシアに目線を送ると、レイシアはウィンクする。


(いや、意味分からんて……)


「それじゃあ、勇者さん……死んでくださいね」


(っ……!?)


 レイシアは穏やかな微笑みと共に右手を前に出す。


「魔法:紫電イカズチ


 レイシアの周囲に白紫のエネルギー体が漂い始める。


「えい……♡」


 そして、極太の紫電の雷がステラに向けて放たれる。


「あわわわわわ」


 ステラは涙目になっている。


「あら? 止められたの?」


「っ……」


 紫電の雷の進行方向に暗黒の球体が発生し、進行を食い止めている。


「わぁあああ! ルーファさん、流石です! あの、そこそこ強そうな電気攻撃をこんなに簡単に止めちゃうなんて……!」


(あほか! そこそこ強そう? 止めてなければトワキの町が消滅してたぞ! そして、これのどこが簡単に見えるんだよ! 最高位闇魔法のブラックボールだぞ……!)


「へぇー、勇者さんパーティーにもお強い方がいるのですねぇ」


 レイシアは白々しく悪戯な笑みをルーファに向ける。


(レイシア……どういうつもりだ。いきなり魔王直々、現れるなんて……)


 ◇


 魔王レイシア――


 あぁ、ルーファ……私のルーファ……


 なんて凛々しいのだろう……


 あんなに必死になって勇者を守る演技をして……


 絶望とは落差……


 幸福が最高潮に達している時に叩き落としてこそ最大級の絶望が生まれる。


 最大級の絶望を演出するためには必要不可欠な背景造りを私のために甲斐甲斐しくしてくれているルーファ……


 それにしても私の紫電を完封するなんて流石ね、ルーファ……


 今回はちょっかい出すだけのつもりだったけど……

 でも、あんなに完封されちゃうと流石に少し悔しいかも……


 ◇


「魔法:紫電五月雨タケルイカズチ


 魔王レイシアが魔法を宣言すると、先程よりも遥かに多いエネルギー体が発生する。


(っ……!? 嘘だろ……!? レイシア……それはまずいって……)


 そして無慈悲にもそれは放たれる。


「くっ……」


 ルーファも最大限の防衛魔法で対抗する。


「……流石ね」


 魔王レイシアは不敵な笑みを浮かべている。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ……


(……防いだ。防いでやったぞ……! 多少、余波は漏れていたかもしれないが、攻撃はほぼほぼ防げたはずだ……!)


「わぁああああ! すごい! ルーファさぁ…………ん?」


 ルーファは魔王レイシアの紫電五月雨タケルイカズチを多少の余波を残す程度に防いだ。


 しかし、その多少の余波がステラの頬をかすめる。


「あ……あ……」


 ステラは倒れる。


(嘘だろ……こんなの事故みたいなもんだろ……)


 また最初からか……


 ……こんなのが何度も……


 ルーファの意識が遠のいていく。


 ∞


 ∞


 ∞


 意識が戻る。


 ルーファにとってのループの始点。

 目の前には、今し方、対峙していた魔王レイシア……


 一体、どんな顔をして会えば……


(……いない……!?)


 レイシアが目の前にいない。


「えぇえええええええええええ!?」


(っ……!?)


 ステラが大声をあげている。


(ステラがいる!?)


「ど、どうしたの? ステラ……」


 ヨジカが突如、大声をあげたステラを心配している。


 ルーファも周囲を確認する。


 それはトワキの洞穴……魔法陣があった祭壇であった。


「進んでる…………進んでるよぉおお!」



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【あとがき】

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