08.一つ目の魔法陣
通信魔法――
「あぁ、だから、しばらくは魔法陣を解放していくことになる。一つ目はトワキの洞穴だ。結界が弱体化することになるが、構わないな? あぁ……」
「ルーファさん……?」
「っ!?」
(やば……)
「あ、すまん。また連絡する」
そうしてルーファは通信魔法を切断する。
ルーファは魔法陣のあるトワキの洞穴へ向かう道すがら、休憩中に、こっそりと通信魔法にて通話をしているところを剣士のヨジカに声を掛けられていた。
「……ルーファさん、誰と通話していたのでしょうか?」
ヨジカはやや怪訝な視線をルーファに向ける。
「あー、自分の上司に当たる者ですね」
「上司……? そうですか。切ってしまって大丈夫だったのでしょうか?」
「あー、大丈夫。大丈夫ですよ。大した内容ではありませんから」
(
ルーファは一応、彼にとって唯一の上司である魔王レイシアに結界を弱める活動をすることを事前報告していたのであった。
◇
そして、トワキの洞穴――
ここが、一つ目の魔法陣が設置されている場所である。
洞穴の中には、それなりに魔物が出現したが、ステラ、ヨジカ、そしてルーファの三人は洞穴奥の魔法陣がある祭壇のようなところまで到達することができた。
「わぁあああああ! 着けたぁあああああ!!」
勇者ステラはそれだけでもかなり嬉しそうであった。
それもそのはずだ。なにしろ彼女がここに到達できたのは過去105回のうち、実に2回だけであったのだから。
(えーと……宝箱は……と……)
そんなステラを横目にルーファは祭壇近くにあるはずの宝箱を探し、キョロキョロとする。
(あった……)
祭壇の近くには確かに宝箱があった。
「ステラ……あそこに何かあるぞ」
「えっ!?」
ルーファが宝箱を指差すとステラは結構驚く。
「こんなところに宝箱なんてあったんですね!」
過去2回のステラは宝箱には気付いていなかったようだ。
「早速、空けてみましょう!」
そうして、ステラは大してためらうこともなく、宝箱を開封する。
(……最初からキアイダメイルってことはないよな……もしそうだったら、早くも目標達成になるわけだが……)
「おー、なんか刀が入ってますーー!」
ステラが刀を取り出して、掲げる。
(……やはり違ったか……まぁ、一応、鑑定してみるか……)
ルーファはこっそり鑑定魔法を使用する。
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攻撃力:+50
【説明】
かつて剣聖が愛用した刀
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(……なるほど)
「私は武人ゆえ、武具には少し詳しくてな……その刀は凛刀と言って、かつて剣聖が愛用した刀のようだ……」
「ほぇー、かつて剣聖が愛用した刀ですって! これはヨジカちゃんが使った方がよさそうだね!」
ステラは刀をヨジカに渡す。
「えっ……? 私がもらっていいの?」
「もちろんだよ!」
「あ、ありがとう……」
ヨジカは多少の遠慮を見せつつも、幾分、嬉しそうに刀を受け取る。
「さぁ、お宝もゲットしたところで、少し憂鬱だけど……魔法陣の起動を始めようか……」
ステラは幾分、緊張した面持ちで祭壇へと向かう。
そして、祭壇の前に立つ。
すると……
祭壇の中央から、大型のモンスターが湧いて出現する。
グルルルルルルルル!!
そのモンスターは頭部は獅子のようで、鋭い目つきをしており、四足歩行の犬のような身体つきをしている。
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聖獣『
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(……ステラから事前に聞いていた魔法陣を守る聖獣……やはり出たか……)
「
ステラは緊迫した声でそのようにパーティメンバーの二人に告げる。
ステラはここまで到達した過去2回ともこの狛犬に敗れ、魔法陣を起動できずにループしており、正真正銘の鬼門であった。
「私がやる」
「「っ!?」」
そう言って、一歩前に出たのは剣士のヨジカであった。
入手したばかりの凛刀を構えている。
「え、でも……皆で……」
「ステラ……! 私にやらせて……!」
「え……? あ、うん……」
(……ヨジカはまだ俺のことを信用しているわけではなさそうだな)
剣士ヨジカは一人、狛犬に対峙する。
◇
剣士ヨジカ――
あのルーファという男……利用できそうではあるが、一つ、重大な問題がある。
「グルルルルルルルルルル!!」
「っ……!」
聖獣:狛犬が襲い掛かってきた。
私はなんとか今しがた手に入れた刀でそれを食い止める。
狛犬とのつばぜり合いになる。
「うぉおおらっ!!」
力で狛犬を跳ね除ける。
「グゥウウウウウウッ!!」
狛犬は1メートル程、ノックバックする。
この刀……すごい……! 力が溢れてくるようだ。
これなら……ステラを……!
私は追い打ちを掛けるように狛犬との距離を詰める。
……
私にとって、ステラが全て。
あぁ、ステラ……なんて可愛らしい生物なの……?
見た目の可愛さもさることながら……
恵まれた血筋、恵まれた容姿、恵まれた運命を持ちながら、あの自堕落で、怠惰な姿……
世の中に、これ程までに、愚鈍な存在があるのだろうかと思った。
だから私はステラが好き……
ステラを守りたい。ステラが言ったことは正しい。ステラを虐めて困らせたい。
ステラに嫌われたくない。ステラに嫉妬されたい。ステラの一番でありたい。
……
だから、私が一番、使えるってところを見ててね! ステラ!!
「せぁあああああああああ!!」
「ぎゃっ!!」
よし……!
上段斬りが狛犬にクリーンヒットした。
「せぁあ! せぁあ! せぁああああ!!」
狛犬が怯んだところを畳み掛けていく。
「きゃぅううん」
よし……! このままとどめを……
「っ……!!」
「グゥウウウウウウウ!!」
え……?
突然、狛犬の肉体が更に強力なものに変質していく。
「グガァアアアアアア!!」
「っ……!」
狛犬が猛烈な勢いで突進してくる。
「きゃぁああ!!」
くっ……吹き飛ばされた?
狛犬は……
「っ……!」
「グギァアアアアアア!!」
「……あ」
顔を上げると、狛犬の大きな口とその中にある無数の鋭い牙が目の前にあった。
恐怖から、思わず目を瞑る。
「…………」
あれ……? 痛みがない。
狛犬に噛みちぎられると思った。
死んだと思ったが、目の前にはその狛犬もいない。
「ナイスです! ルーファさん!!」
……!? ステラの声がする。
狛犬は私の左横方向に倒れていた。
どうやら直前でルーファが攻撃を防いだようだ。
っっっ……!!
「じゃ、邪魔しないで……!!」
私は思わずルーファにそんな言葉を吐いていた。
だが……
「愚か者!!」
「っ……!?」
ルーファは私を罵倒する。
「ヨジカ……なぜ分からないのか?」
「え……?」
「君が死んだら、ステラが悲しむ……」
っっっ……!!
「最悪の場合、君の後を追ってしまう程にね……」
わ、私はなんて愚かなのだろうか……
私が死んでしまったら、ステラとルーファの二人きりになってしまうではないか……
ステラの中で私が神格化されるのはいいとしても……
きっと二人はなんやかんや私の死を乗り越えて……いい感じに……
それだけは……それだけは絶対に嫌……!
「ご、ごめんなさい……ルーファさん、私が間違っていました……ありがとうございます……」
「気にするな……魔法:
ルーファがそう呟くと、黒い渦が発生し、狛犬はその中に吸い込まれていく。
「……すごい」
「いやいや……君が狛犬にダメージを与えてくれていたおかげだよ……」
「……!?」
べ、別に認めてなんか……ないんだからね……!
◇
ヨジカはなぜか一人で狛犬と戦っている。
「せぁあああああああああ!! せぁあ! せぁあ! せぁああああ!!」
「きゃぅううん」
(……ヨジカ優勢か……だが……)
「グゥウウウウウウウ!!」
狛犬の肉体が更に強力なものに変質していく。
(……そう甘くはないか)
「グガァアアアアアア!!」
ヨジカが狛犬に突き飛ばされ、ダウンしている。
その間にも狛犬はヨジカに接近し、今にも致命打を与えそうな状況だ。
(……ヨジカは死に戻りとは関係ないんだがな)
ルーファはふと思考する。
(だが……正直、ステラと二人旅は気まずい。あの子ちょっとテンション高めだし……二人が話しているところをひっそりと付いていくようなスタンスの方が楽ではある。ヨジカは少し斜に構えたところがあるが、裏表のなさそうないい子そうだし……)
ゲーム開始前にステラが怠惰であったことで、ヨジカの変態性が開花してしまっていることにルーファは気づいていなかった。
(いや、それもあるが、ステラは……)
103回目のループの時、ヨジカはフレイム・ベアに襲われて死んだ。
あのとき、
……ルーファは助けに入る。
「じゃ、邪魔しないで……!!」
(ふぉ……!? なんでよ……。あぁー、どうしたものか……いや、しかし……甘やかしすぎるのもよくないか……)
「愚か者!!」
「っ……!?」
(あ、やべ……ちょっと強く言い過ぎたかな……何かフォローしないと……)
「ヨジカ……なぜ分からないのか?」
「え……?」
「君が死んだら、ステラが悲しむ……」
「っっっ……!!」
「最悪の場合、君の後を追ってしまう程にね……」
(ふぉおおおおおお! 我ながら臭いセリフだ。でも事実でもある)
「ご、ごめんなさい……ルーファさん、私が間違っていました……ありがとうございます……」
(え……? いいの……? なら、よかった……)
「気にするな……魔法:
(この犬、なんか可愛いんだよなぁ……飼いたい……!)
「……すごい」
「いやいや……君が狛犬にダメージを与えてくれていたおかげだよ……」
◇
「魔法陣解放――」
ステラが祭壇でそのように呟くと、祭壇の魔法陣が激しい光を放つ。
「で、できたぁああああああああ!! 初めてできたよぉおおおおおおお!!」
ステラは号泣する。
「そりゃあ、初めてだけどさ、そんなに泣くほど喜ぶこと?」
ヨジカが少し呆れるように言う。
(……)
彼女にとっては105回目にして、初めての出来事であったようだ。
◇
「あぁ~~、無事、初めての魔法陣も解放できてよかったですぅ」
ステラは目を細めてそんなことを呟いている。
三人はトワキの洞穴から出てきたところであった。
(ひとまず一歩前進だ……だが、これがあと最大七つもあるのか……道中は魔王軍の刺客も来るだろうし……気が遠くなるな……)
ルーファもそんな風に考えていた。
そんなルーファらの元に……早速……魔王軍の刺客……第二弾が待ち伏せしていたのである。
「ちょっと貴方達……?」
「「「っ……!」」」
洞穴から意気揚々と出てきた三人の後ろから魔王軍の刺客、第二弾の人が声を掛ける。
三人は振り向く。
(っっっ…………!!)
ルーファは目ん玉が飛び出るかと思うくらい驚く。
「あ、貴方は……!?」
ステラがその人物に尋ねる。
「魔王軍の刺客……よ……」
白銀の長い髪に二本の黒い角。
褐色の肌、透き通るような青い瞳の目は意思が強そうであるが、それでいてどこかあどけなさの残る絶世の美女。
(魔王軍の刺客っていうか、魔王そのものじゃねぇか!!)
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