06.キアイダメイル
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105回目――
勇者ステラ――
あぁあ゛ああああ゛ああああああ゛ああ゛あああああ!!
下手こいたぁああ゛ああああ゛ああああ゛あああ!!
どうしてこんなことに……
ルーファさんが仲間になって……絶対、死にたくないと思った矢先……
テンションが上がり過ぎて、トワキの町に入る前に、つまずいて転んで死んだ。
最悪だ。最悪過ぎる。
数々の最悪を経験してきた中でも、最悪オブ最悪だ。
世の中にこんな不条理があっていいのだろうか? いや、ない。
「ステラ~~!」
幼馴染で剣士のヨジカが迎えに来た。
冒険へ出なくてはいけない。
嘘でしょ。流石に今回は厳しいわ。
…………でも、冒険へ出なくてはいけない。
トワキの森――
「嫌だ! 絶対、この森を出たくない!」
「ど、どうしたのよ、ステラ……この森に何があるって言うの?」
「うっ……り、理由は言えないけど、絶対、出たくないの!」
ルーファさんは私を探してた。
最初に会ったのはこの森の中……
この森にいれば、絶対……絶対、きっとまた会える……
いや、会えるまで何度だって死に戻る覚悟だ……
私はできる子……! ……できるかなぁ……
そうだ……! ルーファさんはお婆ちゃんの孫たる私を探しているんだ。
つまり……!
「あぁー、お婆ちゃんの"アンリ・カンペガテ"が亡くなって、私、悲しいなー。悲しい。お婆ちゃんで大聖女の"アンリ・カンペガテ"がいなくなって……」
「…………ステラ……あんた、なんか鼻に付くわね」
「許してよ!! 私だって必死なんだよぉ!?」
事情がわかっていないヨジカは奇妙なものを見る目を私に向ける。
◇
「うわぁああああああああん! よかったよぉおおおおおお、ルーファさぁあああああん」
ステラは号泣している。
(……こ、この子、完全に初対面の反応じゃないだろ!)
森で頑なに動こうとせず、明らかにルーファを釣ろうとしているステラの様子を見て、いたたまれない気持ちになったルーファは、前回より少し早めの登場をする。
死に戻りしていることを隠そうとしない……いや、隠せていないステラの様子に、ルーファは少々、動揺する。
今回は魔王の構成員から助けたわけではなかったので、ヨジカはいくらか怪しむ視線をルーファに向けるが、ステラがそう言うならということで、一旦、仲間になることを承知した。
その後、トワキの町の前で、魔王軍の末端構成員であるガリマデとタカシータ(今回、名前が判明)の二人を前回同様に、魔法:
これにより、一旦、前回とほぼ同様の状態に落ち着く。
「今度は絶対、転ばない……絶対にだ……」
と、ぼそぼそ呟くステラを……
(いや、マジで頼むで……)
と実は結構、ハラハラしながら見守るルーファは無事にトワキの町に踏み入ることに成功する。
◇
トワキの町の道にて――
「えーと、ステラさん達の旅は、次はどこに向かおうとしてるのでしょうか?」
ルーファがステラに確認する。
実のところルーファのゲームの記憶は断片的である。
自身の破滅の記憶は鮮明に思い出したが、ストーリーを完璧に覚えているわけではない。
実際の場面に接することでフラッシュバックするように、鮮明になることがある。その程度である。
「あ、えーとですね。ひとまずはこのトワキにある魔法陣を起動する必要があります」
ステラが素直に答えてくれる。
「魔法陣……?」
「えぇ。かつてお婆ちゃん達が設置したという八つの魔法陣が各地に点在しているんです。その魔法陣を起動することで魔王城の結界を弱めることができると聞いています」
「なるほど……」
(あぁ、言われてみればそんなストーリーラインだったな……)
ルーファはおぼろげながら勇者ステラが巡るストーリーの大枠を思い出す。
(ん……? 魔法陣といえば、そういえば……)
ルーファは魔法陣と連想して、もう一つのことを思い出す。
(魔法陣を起動させる時、近くにこれ見よがしに宝箱が置いてあり、そこには比較的強力なアイテムが入っていたはず……確か、その中の一つに…………っ!!)
ルーファ、閃く……!
画期的なアイデア……!
(確かあったはずだ……HP満タン状態から一撃死のダメージを受けた時にHPを1残して、死亡を回避できる効果がつく特別な装備品が……! 確か、名称は……そう……キアイダメイル……キアイダメイルだ……!)
ルーファは自身のアイデアに興奮してくる。
(ん……ひょっとしてだが……ステラのHPは……)
更にもう一つのアイデアが降り注いでくる。
(魔法:
ルーファは早速、ステラの能力を確認する。
===================================
■ステラ
職業:勇者
Lv3
攻撃:12 魔力:11
防御:0 魔耐:0
敏捷:10
魔法:
特になし
スキル:
痛み無効
痛み吸収
超究極烈神砕波刃無限斬り
特性:
怠惰
過保護
===================================
(ぶほっ……防御ゼロ、魔耐ゼロって……だが……見たかったのはそこじゃない……)
HP……1……!
(やはりだ! ステラのHPは1。レベルはなんか申し訳程度に3になっているが、それでもHP1のままということはほぼ間違いない。そして、HP1固定ということ……それはつまりステラは常にHP満タンということ……!
これはつまりキアイダメイルの
HP満タン状態から一撃死のダメージを受けた時に、HPを1残して、死亡を回避できる
という効果で、ステラは実質的に死ななくなる……!?)
「これだ……!」
「はい?」
ステラはルーファを不思議そうに眺める。
「あ、いや……なんでもないです」
(しまった、興奮しすぎて声に出ていた……だが、いけるぞ。キアイダメイルを手に入れて、それをステラに装備させ、そして辺境で隠居させる。これで、この死に戻りの無限地獄から解放されるはずだ……!)
「それで、ステラ、魔法陣というのはここ以外に、どこにあるんでしたっけ?」
(場所さえわかれば、こいつらと行動する必要もない。俺一人で、さくっと見つけてきてやんよ!)
「あー、ごめんなさい、それは分からないんです」
「え……?」
「私がお婆ちゃんから聞いてるのは、一つ目の魔法陣の場所だけなんです。それを起動すると二つ目の魔法陣の場所がわかる感じなはずなんですが……」
「な、なるほど……」
(ぐぬぬ……簡単にはいかせてくれぬか……それに、ステラの方も記憶が断片的なのだろうか……)
「ちなみに魔法陣を起動できるのはステラだけみたいなんですよー」
剣士のヨジカが追加情報を教えてくれる。
「なるほど……」
(なんと、忌々しい仕様だ……俺一人でなんとかできるものなら話が早かったのだが……これでは、やはり、しばらくステラ達と同行せざるを得ないということか……)
「概ね理解しました。それでトワキの魔法陣はどこにあるのか心当たりはありますか?」
「はい、それは分かります! 三回くらいはそこで死んでますから!」
「「……」」
「ステラ、何言ってんの? あと、なんで魔法陣の場所、知ってるの? アンリお婆さんから聞いてるのはトワキの町のどこかってことだけだよね?」
ヨジカが怪訝そうな顔をステラに向ける。
「あ、ごめん、何でもない! 何で場所を知ってるか? んー、んーと……勇者パワー?」
ステラはあせあせとしている。
(……この子、大丈夫か?)
「まぁ、いいわ。それじゃあ、本当にそこにあるのか探しに行きましょう」
◇
「…………ここは?」
金髪の短髪、目つきの悪い三白眼の男、ガリマデ。
黒髪に糸目の男、タカシータ。
いかにもごろつきっぽい二人ではあるが、肉体はしっかりと鍛えられている。
そんな魔王軍末端構成員であったガリマデとタカシータは周囲を見渡す。
まるで宇宙空間にでも放り出されたかのような不思議な空間だ。
「大丈夫か? タカシータ……」
「う、うむ……」
ガリマデとタカシータの二人は、魔王軍の指令により、勇者ステラの討伐に向かった。
そこにはルーファという事前情報がなかった武人がいた。
そのルーファと対峙し、ルーファが放った黒い渦のような魔法に吸い込まれたところまでは記憶にあった。
「しかし、ガリマデ……ここは……ひょっとして天国という奴か……?」
「そうかもしれないな……いや、地獄ということも有り得るが……しかし、タカシータ……あれはなんだろうな?」
ガリマデとタカシータの二人の前方にマンションのような大型の居住施設のようなものが漂っている。
「さっぱりわからん」
二人は理解しがたい状況に唖然とするばかりであった。
「しかしよぉ、ガリマデ……あのルーファという男……何者だったんだ?」
「わからない……だが、正直、俺は人生で最大の威圧感を感じた」
「あの八鬼将のドゴグリス様よりもか?」
タカシータは自身らの直属の官軸長に当たる人物の名を引き合いに出す。
「正直、全く、比較にならない……」
「そうか……」
「あのような者が勇者の仲間となると、魔王軍も当初の想定より相当、苦戦することになるぞ」
「あぁ……」
「「…………」」
「それはそれとして、ガリマデ……ここはどこだ?」
「うむ、さっぱりわからん」
二人が重苦しい雰囲気となったその時であった。
「ほぉーん、お前ら、ルーファに捕獲されたんだな」
「「っ!?」」
突如、後ろから声を掛けられ、二人はびくりと肩を揺らす。
振り返ると、そこには少女がいた。
身長は145cmくらいと小さめでスレンダーな体型。
背中まで伸びる黒銀の髪に、金の瞳、黒銀色のゴツゴツした衣装を身に纏っている。
小さいくせに生意気そうに腕を組んで、どこか不敵な笑みを浮かべているが、極めて整った顔立ちをしている。
「君達は入居希望ってことでいいのかな? ルーファがここに招き入れたということは君達に一定の価値があるということだろう……」
「はっ? 何言ってんだ、このガキは……」
突如、現れた生意気そうな態度の少女に、タカシータはそんなことを言う。
「ちょ、ちょ……タカシータ……! この人……!」
「ん……?」
ガリマデは何かに気付いたのか焦るように、タカシータを制止する。
「ふむふむ、威勢が良さそうで何よりだ……」
「「え……?」」
「調教しがいがありそうだ」
「「……はい?」」
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