04.初陣
「てめぇ! なんなんだ!?」
魔王軍末端構成員が、剣による攻撃を手の平で止めているルーファに向けて叫ぶ。
「私は通りすがりの武人ですよ」
ルーファは事前に決めていた武人という設定の役作りを演じる。
「通りすがり? 武人だか何だか知らねえが、こっちが魔王軍の構成員だとわかっての行動だろうな?」
(……そりゃ、わかってるよ)
「魔王軍……? 例え、相手が誰であっても、私は弱者の味方だ」
(何言っちゃってんだ、俺ぇえええ! 恥ずかしぃいいいいいいいいいい!!)
「ほう……カッコいいこと言うじゃねえか……」
(え……? そうか……?)
「だがな、その素晴らしい信条は結構なことだが、世の中、力が全てだ! 弱者は虐げられる。そういう風にできているんだよ!!」
魔王軍末端構成員はそう言うと、ルーファに突進してくる。
「っ……!」
(いい動きだ……よく鍛えている……)
ルーファは末端構成員の動き出しを見て、しんみりする。
(俺が苦労して苦労して、積み上げてきた魔王軍の内部改革がここまで行き届いているなんて……)
「はっ……!?」
末端構成員はルーファの顔色を見て、一瞬、たじろぎ、足を止める。
何しろルーファが涙を流していたからだ。
「て、てめえ、やっぱり怖いのか!?」
「え……? あ、うーん……」
(いかん、いかん……)
ルーファはゲーム開始までの楽しくも過酷な日々を思い出し、目の前の確かな成果に思わずホロリと涙を流していたのであった。
「大丈夫だ。すまない……さぁ、手合せしようじゃないか……」
その言葉と同時に、ルーファは魔力の一部を解放する。
「っっ……なっ…………!?」
その魔力を視認した末端構成員は思わず一歩後ずさりする。
一瞬にして、実力の差を理解してしまったのだ。
「……さ、先程の無礼をお詫びします」
(……へ?)
「……ど、どこの
(…………)
末端構成員は自身の将来……すなわち敗北、最悪の場合、死……を悟る。
「差支えなければ、貴方のお名前を教えていただけないでしょうか」
「っ……!」
ルーファは潜伏に当たり、事前に偽名は考えていた。
しかし、このような覚悟をもった男に対し、偽名を告げるなどという無礼なことができるだろうか。
(……否)
「私はルーファだ。ルーファ・シルリオンという」
「……ルーファ・シルリオン殿……有難うございます……」
幸い、ルーファは魔王軍において、影の存在。
魔王レイシアを除いて、その名もその顔も知る者はいない。
「私は魔王軍構成員……ガリマデ・デルクルスと申します」
「承知した」
「では……ルーファ・シルリオン殿……参ります…!」
末端構成員ガリマデは意を決して、ルーファに突進してくる。
ルーファは右手を前に出す。
そして……
「魔法:
どこまでも暗い……黒い渦のようなエネルギー体が発生する。
「う、うわぁあああああああああ!! な、なんだこれはぁああ!?」
末端構成員ガリマデは自身の身体を引き込もうとする黒い渦から必死で逃げようとする。
しかし、無駄な足掻きであった。
「ぐおぉおおおおおおおおおおお!!」
末端構成員ガリマデは、渦に吸い込まれ、一瞬にして消滅してしまう。
「が、ガリマデぇえええええええええ!!」
もう一人の末端構成員が今しがた消滅してしまった
「く、クソがぁあああああああああああ!!」
そして、その男もルーファへ突進してくる。
(……この男も力量の差を知っても尚、逃げずに向かって来るか……なんたる精神力だ……)
が、結果はガリマデの時と同じであった。
「ち、ちくしょぉおおおおおおおお!!」
その男もまた魔法:
「…………」
(ふぅ……彼らにはしばらく"亜空間マンション"にて調教してもらおう……)
ルーファは魔力を鎮める。
そして……
「…………大丈夫か?」
ルーファは地面にへたれこんで放心状態であった勇者ステラに声を掛ける。
「あ……え……あ……えーと……あれ……? 話し……聞いてくれた人……えーと……えーと……」
ステラが心を取り戻すのには少し時間が掛かりそうだ。
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