五十一話
「語、多分数回指示することになるから一発に集中して。弾道はこのまま、真っ直ぐでいい」
「いや真っ直ぐって……なんか勝算あんだな?おーけぃ」語は玉を作り出しスリングに装填し放った。
今までとは違う真正面からの一発は芽衣の目や耳のサポートがなくとも前を見ていた布司斗は気がついた。
パキパキと音を立てながら芽衣と自身を守るように、玉と自分の間に氷壁を作る。
「上に九十度」壁に当たる直前玉は直角に曲がり上昇する。
今まで視界に映らないように玉の軌道を変えてきたそれは、布司斗と芽衣の前で軌道を変えたのは初めてだった。
「な……?!」布司斗は驚き体が硬直する。
玉は布司斗の頭上、氷壁の上まで上がる。
そして、「下方向四十度」
布司斗の頭上を抜け玉は芽衣へと向かう。
「芽衣っ!」
「分かっている!」芽衣はそう叫び先ほど頭上へ来た玉を切り裂いた時と同じ、中段から脇構えへと移行する。
ふっと息を吐き、頭上の迫りくる玉へと刀は高速で振り抜かれた。
「停止」
刃は切っ先だけ微かに玉へ引っかかるようにして通り抜ける。
玉は空中で静止していた。
「直進」
再始動した玉はまっすぐ芽衣へと飛んでいく。
刀を振りぬいた芽衣の出来ることは体を捩じることだけだった。
「ダメージあり。……頭狙ってたけど体捩って避けられちゃった」
「やっとダメージ通ったか……つってもこれ、そう何発も撃てねえぞ」自身の頭に手を添えながら眉間にしわを寄せ、語は小さく呟く。
「……大丈夫?」
数回深く呼吸をして「平気。……で、あいつらは?」
「今はね―――」魅巳は改めて
「おい、芽衣大丈夫か!?」布司斗は脇腹を押さえている芽衣に駆け寄る。
「っ、大丈夫だ。深くはない。表面を少し抉られただけだ」そう言った芽衣の指の間から溢れる鮮血が、布司斗の只でさえ白い顔を更に白くしていく。
「お、俺が止められていれば……」
「布司斗も私もあんな変化をするとは知らなかったんだし仕方ない。
と言っても、あんなの連発されたら私じゃ斬り落とせないな。さて、どうしたものか……」芽衣は歯を食いしばりながらため息をついた。
―――
血の気が引いていく。
芽衣の脇腹から血がとめどなく溢れているからだ。
芽衣は少し抉られただけだと言っていたが、溢れ出る血の量は傷がそう浅くないことを俺に伝える。
(何故芽衣は怪我をしている?)
俺は自問する。
(俺が守れなかったからだ)
俺は自答する。
今の所症状は出血だけだ。おそらく玉も抜けている。
だが今しがた芽衣が受けたのは
被弾によって何が起きるか分からない。
毒は?寄生虫は?このままで大丈夫なのか?
俺の不甲斐なさが招いた結果がこれだった。
……俺はどうすればいい?
何が一人で俺十分だ。
芽衣の指示が無ければ玉を防ぐことすら出来ないくせに。
(……いや、今はネガティブになってる場合じゃない。どうするか考えろ)
数秒思考し、俺の頭に三つの案が浮かぶ。
撤退、撃退、耐久の三つ。
(撤退が最善か?いや芽衣は怪我している。怪我した芽衣を守りながら来た道を戻るなんて無理だろう。
撃退は、現実的じゃない。撃ってくる奴の場所も絞れてないのにどうやって倒すというんだ。
耐久は出来るだろう。玉の威力自体は俺の氷壁をすぐさま破壊出来るほど強くはない。
砕かれる前に貼り直すか、集中して分厚く氷の壁を作れば玉は通らない。
だがこの選択だと相手が諦めてくれるのを祈る事しか出来なくなってしまう。
芽衣の出血を考えると長期戦は出来ない。
何か他に案は―――)
「来るぞ!」芽衣の声で思考の海から帰還する。
眼前に迫る玉は一発。
真正面。俺は氷壁で迎え撃つ。
壁に当たる直前垂直に上がり始める玉。
だが(それはさっき見た!)
俺も氷壁を止めることなく縦に伸ばし、目で玉を追う。
その玉が天井スレスレで軌道を変えようとピタリと止まった瞬間、氷壁から氷柱を生やし、玉を貫く。
そして玉を目で追っていて俺はある事に気がついた。
頭上の明かりが連なっていることに。
そうだ。
ここは廃墟であり、電気なんて通っていない筈だ。
……じゃあ頭上のこの明かりはなんだ?
どうやって俺らを照らしている?
芽衣はエンジン音が聞こえたと言っていた。
(……発電機だ!)
頭上の灯りを目で追う。
先程真正面から飛んできた玉と同じ方向に灯りは続いていた。
俺は一度大きく深呼吸をして、集中しイメージする。
芽衣を包むようなドーム状の氷を。
両足から冷気は吹き出し芽衣の周囲を覆い包む。
瞬く間に、芽衣は氷のドームの中に閉じ込められた。
「お、おい!何しているんだ!」
芽衣は少し怒ったような表情で俺を氷越しに睨んでいた。
「……俺が終わらせてくる」
小さく俺はそう言って、明かりに照らされている道を走り出した。
明かりに照らされている方向をなぞるように向かっていく。
向かっている方向は、敵がいる方向だと、断定し駆ける。
眼前に一発の玉が飛んでくる。
俺は足を止める。
先程から思っていた。
何故玉を連射しないんだ?と。
同時に玉が数発飛んでくることはあった。
一発の玉を大きく変化させながら飛ばしてくる事もあった。
だがそれでも玉を絶え間なく撃ってくることはなかった。
……ならば!
俺は今までとは違う、氷の壁ではない、薄い氷のドームを自身を覆うように高速で作り出す。
厚さはなく、今までの防御に使っていた氷壁などに比べれば貧弱な物だ。
だがそれは氷の生成速度と攻撃を防ぐ為の最低限度の強度を俺なりに考えた結果の産物だった。
先程から玉を飛ばしてくる場合、多方面からの攻撃が多い。
前方から飛んでくる玉は恐らく囮だ。
俺の注意をひくための。
眼前から飛んでくる玉を防ぐだけの壁ならば、側面や背面からの攻撃に対応できないからだ。
だが、このドームなら、玉による一撃、もしくは玉による同時に着弾する攻撃であるならば。
防いでくれるはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます