五十話
二人から数百メートル程離れた場所に男女二人組が立っていた。
稼働している発電機の横、スリングショットを構えた黒色のジャージを着た金髪の男————
「どうよ今の」
「駄目。氷の壁で防がれてる」
「氷の壁?」語の疑問に魅巳は頷く。
「じゃあ一人は氷を使う
どっちが氷だ?」
「男の方。女の方は刀を何時の間にか持ってた。声をさっき聞いた感じだと女の方は発電機の音に気づいたっぽい。距離と氷の男が気付かないって事を考えたら、異常な聴力も刀と一緒で
「なるほど、じゃあ先に潰すのは氷の男の方か。ところでどうだ、俺の玉で氷は砕けるか?」
「同じところに何発も撃ち込めばいけるかも。前提として相手が動かずに且つ氷壁の張り直しを相手がしなければ、だけど」
それを聞いて語は苦笑いを浮かべる。
「無理ってことか。さてどうする?あのガキの話だとアイツらの
「語一人なら詰みだけど私がいる。
あの子、来た奴ら倒して連れてきたら報酬増やすって言ってた。諦めたくない」
「ってもどうやって倒すよ?」
「角度は私が指示する。天井スレスレ、天井に這うような軌道で撃って」
「りょーかい」男は右手を軽く開く。黒色の粒子が現れ小さく渦を巻きそれらは収束する。
語の掌には黒色の一センチ程の小さな球体が数発乗っていた。
親指と人差し指で掌の中の一発を挟みスリングショットへ装填する。
キリキリとゴムの張る音がし、そして球体は放たれた。
殆ど無音で放たれたその玉は十メートル、二十メートルと進んでいく。
放たれた位置から三十メートルを越えても少しも減速せずそのまま布司斗達の元へ飛んでいった。
「あと二秒後、下三十度」
魅巳がそう言うと、玉は突然軌道を変える。
玉の進行方向先には布司斗達。
氷壁を盾に左右を警戒していた布司斗達は頭上のそれに気が付かない。
頭上からの落下するような軌道のそれは氷の壁をすり抜け、布司斗の頭部へと迫りくる。
接近してきた玉から発せられた、本当に微かな風を切る音。
聞こえたとしても、それは反応できない距離まで接近している証拠の音だ。
本来であれば。
その音は芽衣の耳に届いた。
そしてそれは反応というより反射だった。
布司斗の頭部付近を銀色の閃光が走る。
風切り音と共に黒色の小さな半円が二つと、前髪の先端が地へと落ちた。
「ッ?!」
「髪はすまん。咄嗟だった」芽衣は逆袈裟に振り抜いた刀を中段に構え直す。
布司斗は切っ先を一瞥し、何か言いたげな表情をするが、ふうと息を吐き、次の攻撃に対して警戒する。
「今斬った玉ってどんな軌道だった?」
「上から落下するような感じだ」
「さっきは正面から数発飛んできていた。弾道が明らかに違う。……逆算して相手の位置を読むってのは難しいかもな。相手は複数人いるのか?」
芽衣は頷き、「なぁ布司斗、相手の得物はなんだと思う?」先程叩き斬った球をちらりと見てそう言った。
芽衣に倣った布司斗は怪訝な表情で「てか大体なんだこの玉、金属か?」黒色の半球を見て首を傾げる。「銃とか弓、って感じじゃないしな」
「火縄銃とかマスケット銃ならこういう弾でもおかしくないとは思うが、火薬の音がない。この玉は恐らく火薬で飛んできていない」
「じゃあどうやってこんな遠くまで―――」
「正面二発!背後と頭上は私が斬る!」芽依は突如布司斗に背を向けながら叫んだ。
布司斗は前方へ間髪入れず氷壁を作る。
瞬間、先程と同じ玉が二発氷壁に亀裂を入れながら食い込む。
ほぼ同時に芽衣へ肉薄する、頭上から降るような軌道と、地を這うような軌道の玉に挟まれる形となった芽衣は頭上の玉へ視線を集中させる。
玉は高速で迫ってくる。
中段の構えを解き、脇構えに移行し、そして一瞬の間があり、刀は振るわれた。
芽衣の頭上を刃が通過し、進行方向にあった頭上の玉を切り裂く。刀は止まらない。勢いそのままに足元に迫る玉へ刀は振り下ろされた。
芽衣の足元に四個の半球が増える。
「っ、追撃来るぞ!正面は任せた!」
「あぁ!」
襲いかかるそれらを氷で防ぎ、止める。刀で断ち、切る。
継続的かつ多方向からの攻撃だったが、氷と刀の牙城は崩せない。
「一発目二秒後下に三十度。二発目三発目はそのまま。……ダメージなし」片目と片耳を押さえ魅巳は小さく呟いた。
「流石に手ぇ痛くなってきたぞ。これやっぱ無理じゃねーか?」語は右手をぷらぷらと揺らす。
「語の攻撃で分かった事がある。私の目と耳で視てる感じだと女の方が氷壁の指示出してる。男の方は玉は見えていないみたい」
そう言った魅巳の、見聞きしている視覚や聴覚と言った感覚は、現在布司斗と芽衣の近くにある棚や壁にあった。
魅巳の
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