四十八話

「相談?」

「前回痛い目にあったと聞いてな。その前の二土の件もそうなんだが、本来こういった場合、二人組で動く所を結果として一人にしてしまったのが問題だな、と。そこでだ、刃が真と組めば同じ学校だし、スケジュールも合わせやすいだろうと思ったんだが、どうだ?」

刃は横目で所在なく立っている真の方を見て「あーまぁ、彼が納得するなら」と頷いた。

「真は放課後忙しいか?」司は真の方に視線を向ける。

「え?いや部活とか入るつもりもないですし特には」

「それなら丁度いい。ここでバイトする気はないか?正直な話人手が足りていなくてな」

「バイト、ですか?」

「そうバイト。刃と一緒に指定した場所のパトロールするって感じのバイトなんだが」

「うーん」真は数秒考える素振りを見せて、「流石に即答は出来ないです」と苦笑いを浮かべた。

「まぁそうだよな。気が向いたら刃にでも伝えてくれ。ちょっと俺はトイレに行ってくる」司はそう言ってトレーニングルームの壁沿いにあるトイレに向かう。

「あ、俺も」刃は司の後を追うようにしてそちらに向かった。


司と立ち小便機を一台分開けて用を足していた刃は「……俺の時とは大違いじゃないですか」と口を開く。

「何がだ?」司は赤外線センサーの辺りをぼんやりと見ながらそう答えた。

「俺の時選択肢なんて、あってないような物でしたよ」

「まぁ真と刃では状況が違うからな。

刃応対したの俺じゃなかったし」

「マジ危なくて命の危険ありって、伝えていいですか?」

「構わんがそれで彼が入ってくれなかった場合、刃一人で行く事になるぞ」

「……それずるくないです?」

「冗談だ。そこについては俺から説明するよ」用を足した司はそう言って、手洗い場で屈んだ時体がビタッと止まった。

蛇口に中途半端に伸ばした手をゆるゆると戻し腰を擦る。

「どうしました?」隣で手を流していた刃は様子のおかしい司の方に、顔を向ける。

「……さっき投げられた時のダメージが今になってきたらしい」 

「……え?大丈夫ですか?」

「……少し待っててくれ、日流千に治して貰ってから送る」

小さく呻きながら司はトイレを出ていった。


司は医務室に入室し、「日流千すまんが、腰診てもらえるか?」と声を出すが返事は無かった。

「おーい?」広くない部屋の中を視線を右往左往させるが見当たらない。

頭をかしげながらいつも彼女が座っているデスクに視点を移すと、そこには一枚の紙が置いてあった。

近づきそれを手にとり目を通す。

司は、紙を元通りの位置に置くと部屋の隅にあった救急箱から湿布を取り出し、腰をさすりながらトレーニングルームへと戻っていった。


紙には「芽依達の所に向かっています。

なにかあったら電話してください」と書かれていた。









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