四十五話
「……カバン?」
「実は僕、視えるんだよね」
「……はぁ?何を言ってんだ?」
刃はカバンを支えていた
「あ、今消したでしょ?」
先程まで
刃はじりじりと後退し距離を取ると、真の死角となる形で背後に三つの
「……もしかして僕マズいこと言っちゃった?」
「……何故俺の一つしか出していなかった
敵意を露わにしながら刃は三つの内二つの
前回の羅夏万太との邂逅した際の経験が、刃を用心深くさせていた。
「この目に関しては僕が聞きたいくらいなんだけ―――」
―――刃の背後から握り拳を作った
「?!」真は不意打ちのそれをヘッドスリップの要領で慌てて避ける。
殴りかかった勢いのまま真の背後に回った
それと同時に刃は新たに自身の後ろにある、もう一つの
真は一発目の
地面を這うように突き進み、足首を掴もうとする
二つの
真は顔へと向かってきた
そしてヒットの直前、両腕を伸ばしながら後方へと飛んだ。
空中でブリッジの体勢となり鼻先を
足元を狙った
二つの
真は姿勢を崩す事なく着地し、「本当に何も分からないんだ、少し話を聞いてくれ!」両腕を上げ敵意は無いと意思表示する。
当たると思っていた挟撃を避けられ、三度目の攻撃を考えていた刃は、真の様子を見て
数秒間刃は思考時間を取ると、真の周囲に浮く二つの
「分かった」
刃は極力視線を逸らさぬよう気をつけながらスマホを取り出し、司に短文のメールを送った。
「……ここだと人が来る可能性がある。場所を変える」
真が頷いたのを確認し、「……案内するから先に行け」と刃は真の数メートル背後から追従する形で移動を開始した。
そのまま数十分間歩き、寂れた団地へと俺達は向かっていた。
と言っても目的は団地ではなく、その敷地内にある小さな公園だった。
公園には過去子供達を楽しませていたであろう、色褪せた滑り台や錆の浮いたシーソー、そして好き放題に伸びた雑草達が現在この公園に人の出入りがほぼ無いことを雄弁に語っていた。
……ここなら恐らく人は来ないだろう。
「そこに座れ」俺は公園の端にあるベンチに指を指す。
「……分かった」馬岸がおずおずと座ったのを確認しスマホをチラリと見る。返答はまだ返ってきていなかった。
(……参ったな)
こういう際の対応を聞いておけば良かったと今更後悔する。
まさか日常で
手錠と鍵一式って借りる事は出来るのだろうか?可能であれば、日常的に持ち歩く事にしようと思った。
「あの……」馬岸は恐る恐ると言った様子で挙手する。
「なんだ?」
「……なんでそんなに警戒しているの?」
「……お前が俺の敵かもしれないからだ」
「て、敵?」馬岸はピンときていない表情をしている。知っていてすっとぼけてるなら名演技だ。
「おいこっちを見ろ、目を逸らすなよ?」そう言ってコチラを向かせる。
「……分かった」
「……来飯正ノ」
「え?」
「来飯正ノだ、聞いた事は?」
「らいい……って人名だよね?……えっと、知らないね」
「……本当か?」
「本当だよ」馬岸の瞳はまっすぐとコチラを見据えている。
目は口程に物を言う。なんて言うが、本当にそうだとしたら馬岸は嘘をついていないだろう。
「……その目はいつから?」
「……数ヶ月前に突然だよ。
朝起きて自室のカーテンを開いた時、百メートル位離れた街路樹に飛び乗る小鳥を見たんだ。
あれなんの鳥だろうと思ってね。
……そしたらまるで双眼鏡を覗いたかのように拡大されたんだ。
元々目は悪くなかったけど、流石におかしいでしょ?そんなに離れた小鳥の目や嘴が、模写できるほどにはっきりと見えるのは」
俺が頷くと、馬岸は更に続ける。
「怖くなって一人で眼科にも行ったけど異常なしと言われてね。医者に問題がないと言われたし、親にもこの事は言えなかった」
そう言って大きくため息を吐く。
「正直、この目の事は不気味で仕方ないんだ。でも君なら僕の目の事が何か分かるかと思って」
「……何故俺なら分かると?」
「君の手が視えたからだよ、それもしっかりと。きっと僕と同じだと思ったんだ」
「……なんか俺が霊的存在に憑かれてるだけかも」
俺がそう言うと馬岸は微笑み「かもしれないね」と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます