四十一話
「──おい」肩を揺すられ、ゆっくりと目を開ける。
声の主は陽斗さんだった。
「大丈夫か?一通り外傷は唯が治したらしいが」
「あぁ……はい」そう相槌は打ちつつも全身が気怠く頭が痛む。記憶も朧げで今どこにいるかすら分かっていなかった。
「あのすみません……ここは?」
「何時もの車の中で、お前ん家の近くだ」
「そう、ですか」後部座席に寝かされていた俺は起き上がり、車の窓から外を見る。
自宅の近所にあるコインパーキングだと分かった。
「昨日あの白衣男と何があった?」
「……え?白衣男?」
「斧を持ってお前を攻撃した男だ。
俺あいつの名前知らねえからよ。まさか覚えてねえのか?」
そう言われてやっと白衣男が誰を指しているかが分かる。
「……あぁ、いや分かります。羅夏万太って奴ですよね?」
「いや俺は知らんが。白衣の奴はラナツバンダって言うんだな?」
「まぁはい。多分そうです」
「多分ってなんだよ……。つーかよくあいつと会話出来たな」
「はじめはマトモそうだったんですよ」
「……俺から見た限りは無言で斧振り回すイカレ野郎だけどな」と陽斗さんは苦い顔をしながら「そういやアイツって
「だと思うんですけど……実は其処の所あんまり覚えてなくて」
「覚えてないってなんだよ?」
「記憶があやふやなんですよ。なんか手術室に招かれて話したのは覚えてるんですけど。その後が途切れ途切れで」
陽斗さんは顎に手をあて考える素振りをしながら、「……まぁ分かった。他になんかなかったか?」と続ける。
そう言われまだあまり回らない頭の中から記憶を探ろうと目を瞑る。
数秒後、思い出されたのはもう一人の自分が羅夏を殴り飛ばし肩を貸してくれた所だった。
「そう言えばなんか、羅夏から逃げる際もう一人の自分がいたような気が……」
「……はぁ?どういう事だ?」
「いやなんかあやふやなんですけど、そんな記憶があって……」
俺がそう言うと陽斗さんは「あー……外傷はないから一旦帰宅させるって話だったけど、もっかい唯に診てもらうか?」こちらを訝しげな瞳を向ける。
その瞳はこいつおかしくなったんじゃないか?と思っている目だった。
「いや大丈夫、です」
「……そうか、まぁなんかあったら連絡しろ?な?」
「……分かりました」
俺はそう言って車から出る。
もう朝日が出ており、ポケットから取り出したスマホの時間を見ると六時を回っていた。
運転席の黒服と陽斗さんに軽く会釈をし、自宅へと俺は向った。
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