三十二話

「……刄よォ、こいつ殺しても良いだろ?

 どうせ何の役にも立たねェの分かったんだしよォ」

 灰色が全身へと広がり始めた正ノの腕を掴み、刄は制止をかける。

「……少し待ってください正ノさん。手術って観点、お手柄かもしれません」

 そう言った刄は「……少し失礼します」正ノと二土の間に入り、明らかに先程の氷の件で動揺している二土に歩み寄る。

 そして、二土の頭から爪先まで探るように全身を観察する。

「な、なんだい?」

「……腰に何か小さいブロック?みたいなのが見えます。それなりに深い所に」

「……ブロック?」怪訝そうに二土は腰を擦る。

「恐らくそれが原因でしょう。……と言っても取り除くのは現状不可能ですが」刄はため息をつきながらそう言った。

「……まぁ本題に入りましょう、僕達に力を貸してくれませんか?

 ……何をするにも現在人手不足なもので」

「おいおい要らねェだろ?超能力チカラも使えない奴なんて」―――そう正ノが口を挟んだ瞬間、正ノの腕に刄の手が触れ、そして音もなく、正ノはふっとそこから消えた。

「少し正ノさんには席を外してもらいましょう」

「……君、幾つ超能力チカラを持ってるんだい?」

「そうですね……、力を貸して頂けるならその質問もお答えします」

 二土はナイフを畳みながら、「……僕が君達に協力して得られるものは?」刄の顔に視線を向ける。

「貴方自身の超能力チカラを取り戻す為の最大限の助力はさせて頂きますよ」

 二土は頷き「……あと一ついいかい?」と続ける。

「どうぞ」

「さっきの男には君が説明してくれ」

「分かりました」刄は笑うとそう言って右手を開き二土へと伸ばした。



「頂きます」

 深い山の中にある廃墟と化した病院内で静かにその声は発せられた。

 声の主は器械棚や手術台の置かれた、この建物が病院として振る舞っていた時代は手術室だったのだろうと思わせる部屋で、焚き火をしていた。

 そうしてその焚き火で焼かれ食欲の唆られる匂いを振りまく、木の棒で固定されたブロック肉へ歯を立てる。

 曇った眼鏡をかけ、細身のボロボロの白衣姿の男は口内の肉を喉へと流し込みながら、脇においてある斧に付着した血を振ることで飛ばす。

「おいしいな……。でももうあんまりないな」男は一人でぼそっと呟く。

 その後肉が無くなるまで男は黙々とそれを口へ運ぶ。

「ご馳走様でした」食べ終わると立ち上がり、近くの器械棚に置かれたノートへとボールペンを走らせる。

 そうして書き終わった男はふうと一息をつくと「そろそろ……確保に行かなくちゃな」と言いながら、メガネを外し比較的綺麗な布が敷かれたベッドに横になった。

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