二十九話

 それから数十分が経ち、現在十人の人間が集まっていた。

 お立ち台のようになっているところには和子池が立ち、司は隣でPCの操作をしている。

 チェアには八人座っており、左奥から話している陽斗に、その話に相槌を打つ刃、更にその隣にちらちらと司へ視線を向ける芽依。

 そんな芽依の様子を隣から見て眉間をピくつかせる一人の男がいた。

 長い髪を緩く結び、白い肌に形の良いパーツが均等に並んでいるそれは美少年と言っても差し支えない面ではあった。

 が、その男の第一印象は目に集約されるだろう。

 その男の目には生気が感じられず、折角の良い風貌も淀んだ目によってかき消されていた。

 そんな男―――椿井 布司斗 ツバイ フシト―――の向かい側にはグラマーな女性が隣の眼鏡の男の肩をつついていた。


 デニムに無地のTシャツと言った一見男のような出で立ちの少したれ目の女性は、緩やかなウェーブのかかった髪を肩ほどまで伸ばしており、柔らかな雰囲気を醸す女性

 ――― 戸田 風里 トダ フウリ―――は振り返った男にくすくすと笑いかける。


 頬をかきながら照れ笑いをする優しげな眼鏡の男―――戸羽井 春馬 ドバイ ハルマ―――はテーブル上の飲み物を手に取った。

 細身のスタイルの良い外見と、眼鏡越しに見える優しげな瞳とは裏腹な、腰にはT字の形をした厳つい武具、トンファーが二つ下げられていた。


 そしてその左側、座席と座席の間には黒い眼帯をした大きな土佐闘犬がいた。

 全身に大小様々な傷があり、一際目立つのは眼帯で隠しきれていない、頬から額に入った深々とした切り傷だろう。

 そんな座った犬をケンと呼び撫でている、一人の司や陽斗と同じ色をしたスーツ姿の巨漢。

 百八十を越える司よりも縦にも横にも大きいその男は、耳に不思議な形をしたイヤホンのようなものを入れている。

 髪を全部後ろに流しオールバックにしている男―――本矢 工毅 モトヤ コウキ―――は、鋭い目付きも相まって、言われなければ本職のそれだった。

 それの隣に座っていた翔喜は犬を撫でている工毅の肩を叩き、「ぼちぼち始まるっぽいすね」と親指をお立ち台の方へ向けた。

 俺が陽斗さんの話を聞いていると、準備が終わったのか「……良し、こっちを向いてもらえるか」

 と和子池の爺さんは此方を注目しろと、軽く右手を振った。

 その声でざわついていた部屋が静まる。

 司さんがPCを触ると、部屋が暗くなり、お立ち台とテーブルの間からプロジェクターが下から生えてくるように現れた。

 そして和子池と司さんの背面にはスクリーンが降りてくる。

 プロジェクターが起動し、写し出されたのは短い金髪のタンクトップを着た男の腹から上の写真だった。

 太く発達した、筋肉の筋が浮く両腕には、入れ墨のような物が見える。

 容姿における第一印象は間違いなく、ゴロツキとかチンピラだとか半グレだとか、良くない言葉しか浮かばないそんな男だった。

「この男―――来飯 正ノライイ ショウノ―――って言うんだが、こいつも超能力チカラ持ちで……恐らくまた対峙することになるじゃろう。

 犀のような厚い表皮と怪力を発揮するみたいじゃ。

 対峙したら気を付けるんじゃな」

「あの、一つ良いか?」芽依さんは口を開く。

「どうした?」

「……いや、だな。その男に関してはつか……、由宮さんが受け持ったと聞いていたんだが」歯切れの悪そうに芽依さんは言う。

 あぁ、と答えようとした和子池より先に司さんが答えた。「情けない話だが、取り逃がしてしまってな」と司さんは肩をすくめる。

「あ、いや別に責めるつもりはないんだ。

 だが、由宮さんが失敗なんて珍しいなと」

「……まぁ実はそれが本題でな。

 どうもの影響で変な思想を持った少年が現れたらしくてのう。

 恐らく超能力チカラを持った集団でも作ろうとしてんじゃないかと睨んでおる。

 徒党を組んで暴れられたりしたら……間違いなく大事になるじゃろう」

(……?)

 何の事だろうと思っていると、陽斗さんが俺の肩を叩く。

「……大体超能力チカラ持ちってそういるもんじゃねー。数百万人に一人とか、んな物らしい」

「……そ、そんなに低確率なんですか?」

「まぁ本来はな。……だが、数ヶ月前宇宙で原因不明の光が観測されたらしくてよ、その後超能力チカラ持ちが爆発的に増えたらしいんだわ。

 その事をと呼んでんのよ」

 そう小声で伝えてくれた。

「……なるほど」

 和子池の爺さんは続けて「少年の外見じゃが……、眼鏡を掛けている以外大きく変わったところはないそうじゃ。そして超能力チカラは凍結能力と瞬間移動の最低二つは持ってるみたいじゃな」

 それを聞き、淀んだ目の少年と眼鏡をかけた青年がぴくりと反応した―――気がした。

「……まぁ今回の事に関しては、全員のスマホに纏めたファイル送るので、改めて見るように」

 そう締めくくり「司よ、後は任せた」と司さんの肩を叩き、退室した。


 和子池の爺さんが退室してから数分、ノートPCを畳んだ司さんは「おい刃、ちょっと」と手招きする。

「どうしました?」と近寄ると、「初対面も多いだろうから一応挨拶しとけ。

 もしかしたら共闘することもあるかもしれないからな」

「……あーなるほど」そう返事するやいなや、「おーい、少し良いか」部屋に司さんの声が響く。

 あちらこちらに散っていた視線がこちらを向く。

(えっ?まだ何も考えてな)

 司さんに肩を軽く叩かれ、ほら今だと合図される。「えっ、と……す、少し前に此方に来ました真九呑地刃マクノミチジンです。よろしくお願いします」

 良い挨拶を思いつかなかった俺は当たり障りのない挨拶をなんとか吐き出した。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る