五章 お初にお目にかかります
二十八話
その日は快晴で、雲に遮られることもなく、直射日光が室内を照らし、太陽が蛍光灯の仕事を奪っていた。
刃の初仕事から数週間。もう真夏と言っても差し支えない季節に入っていた。
「夏休み何すっかなー」
「俺バイトでさー」
「今年海行こうよー」
「海良いね!」
目前に迫る夏休みの話で、浮き足立つガヤガヤとした放課後の教室を抜け、下駄箱へと刃は向かっていた。
靴を履き替え校門を出ると、先程ポケットで通知のバイブが鳴っていた、黒いスマホを刃は取り出す。
通知欄にメールが一件。
送信者欄には由宮司とあり、今夜迎えに行くと一言、味気のない文がそこにあった。
「……今度はなんだ? 」
刃はそう呟いた。
むっとした風のない、熱帯夜。
俺は二階から音を立てないようにしながら外へ出る。
前回スーツの男が出てきた方向から現れたのは、司さんだった。
「待たせたな、こっちだ」
と前に見た黒いワンボックスカーへ司さんは運転席へ乗り込む。
それに続くように俺も助手席へ座ると、車は動きだす。
車内には音を下げられたラジオとエンジン音だけの静かな空間が出来上がっていた。
(なんか気まずいな。……喋った方が良いのか?)
とちらりと司さんを見ようとした瞬間、突然司さんは口を開いた。
「……前回は助かった。お手柄だったみたいだな」
「まぁ、両腕ボロボロにされましたけどね」
俺が急に喋りだしたことに内心驚きながらそう言うと、司さんは笑うと「まぁ貰える額が多いのは、そう言うことだ」俺の肩をぽんと叩く。
「あ、そういえば」
「どうかしたのか?」
「前回の俺の倒した男ってどうなったんですかね?」
「あーまぁ普通なら、
手錠と同じ金属を身体に埋められてから帰された筈だ」
「……
司さんはあぁ、と頷き「人を傷つけたりしないなら、ある程度は黙認なんだがな」
「成る程……」
気がつくと外は畑や田んぼが多数を占める、田園地帯へと車は進んでいた。
(そういや、研究所って周辺何も無かったな……。研究所ってことは今回は仕事とは関係ないのか……?)
「お、そろそろ着くぞ」
司さんはハンドルを切り、周りの長閑な田園と調和してるとは言い難い、白色の建物のある駐車場へと入っていった。
司さんと離れ、俺は案内された和子池研究所内の大きな部屋の壁に寄り掛かっていた。
向かい側にはお立ち台のようなものがある。そして前回入ったロッカーのある小さな部屋とは違い、目の前には高級そうな大きなテーブル、それを取り囲むようにチェアが並び、テーブルの上には幾つか飲み物が置いてあった。
(……これ飲んで良いのか?)
喉が乾いた俺はテーブル上のそれをちらちらと見ながら、一人葛藤する。
司さんにこの部屋に連れられて来たとき、聞いておけば良かったと若干後悔していた。
そんな時、扉が開き一人男が入って来た。
男は中肉中背で、長めの金髪を後ろに流し、片耳には光るピアス。
ほっそりとした腕が皺の寄ったワイシャツから出ており、全体的に派手な出で立ちだった。
(……誰だ?)
その男は俺に気がついてないようでそのままテーブルのほうへ向かい飲み物へ口をつけた。
そしてテーブルに上体を乗せ、おもむろにスマホを触り始める。
(……あっ、完全に話しかけるタイミング逃したな)そう思いながらその男を見ていると、男は伸びをしながら身体を起こし、此方へ身体を向け―――目が合った。
「あ、ども」そう俺が言ったのも束の間、その男は驚愕の表情で口から紫色の液体を吹き出した。
「……いるならいると言ってくれよ!ビックリした」ごほごほと咳き込む男と一緒に、床に零れた飲み物を刃はテーブル上にあった布巾で拭いていた。
「あ、あぁすみません」
「……にしても見ない顔だけど、新しい人来たって聞いたけど君?」
「あー……、多分俺です」
「そうなんや、俺
「
「……なんか固くない?たぶんタメぐらいだろ?」
「あ、俺16です」
「やっぱタメじゃん!」うぇいと手を上げハイタッチを刃に求める。
おろおろしながら刃はそれに乗る。
その後見定めるように刃を見て、「……にしても今回は女の子じゃなかったんだな、そこはちと残念……」息を吐きながら肩を落とした。
「な、なんかすみません」
「いや、刃が悪いやないんよ。……ここの女の子皆レベル高くてな。もし新しく入ってくるのが女の子なら楽しみにもなるだろ?男なら」
「……そうなんですか?」
「……ヤバイ、その辺のアイドルよりもよっぽど可愛い」
そんな時、扉の開く音がした。
扉から入ってきた人物はセーラー服に身を包んだ少女だった。
俺と同じぐらいの背丈の少女は、艶やかな腰まである黒色の髪を揺らし、切れ長の瞳で部屋の中を見て俺らの方を見ると、桜色の形のよい口唇を動かし微笑んだ。
「やぁ」
「久しぶりー」
「ど、どうも……」
少女は翔喜さんに手を振り、俺の方を向くと、
握手を交わし、飲み物を取りに行った芽依さんが離れたのをちらっと見ると翔喜さんは俺に耳打ちをする。
「な?レベル高いだろ?」
「た、確かに……」
言われた通り、確かにそうはいない容姿だろう。
お茶に口をつける容姿端麗な少女を見ながらそう思った。
「……話変わるんですけどあれって、俺も飲んでいいんですかね?」
「飲むために置いてあるんやからいいと思う」
「じゃあ俺も……」
俺はテーブルに手を伸ばした。
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