二十一話
「おや、何を考えているんだい? 」
作戦なんて立てさせないとばかりに男は此方に迫る。
男と影の波状攻撃を出来る限り避けて、
だが次第に俺の両腕は、浅い切り傷から出た血で赤く染まり始めた。
致命傷を避けるために、避けきれなかった攻撃は腕で止めていたからだ。
俺の腕からぽたりぽたりと黒いアスファルトに真っ赤な血が吸い寄せられるように落ちる。
(……痛いなクソッ)
あまり傷を見ないようにしながら、痛みを無視して、対峙している男を見る。
「大丈夫? 出血死しちゃうんじゃない? 」
男はにやりと笑いナイフを振り俺の血を飛ばした。
僕―――
(先ほど影が3つの内の1つ手首を消してから出てきていない。あんなに怪我までして急所を守ろうとしている……。ということはあの手首は外傷なんかで消されると直ぐには出せないのだろう。
……攻めるなら今だ)
僕はそう思い腰を落とし前へ出ようとした瞬間、1つ手首が此方へ突っ込んできた。
狙いは顔だろう。
僕はそれに対してナイフを振り被った。
当たる直前でするりとナイフを避け、上へと上昇する。
そして急降下し今度は脳天への拳骨だ。
(随分と急な攻勢だけど……甘いなぁ)
今度は当たらないギリギリの高度でピタリと止まり、ナイフの射程外へと逃げていく。
「そんなんじゃ僕は倒せないよ? 」
じっと手首を操る男へ視線を送るが無言で手首の様子を見ている。
すると今度はぐるぐると僕の周囲を回り始めた。
そして突拍子もなく突然足元へ飛んでくる。
「ちょっ」
ぶらん。
急なことで反応できなかった僕は足首を捕まれ空中に宙吊りにされた。
(あーめんどくさいなっ! )
苛立ちながら、その手首を
影のナイフがその手に当たろうとした瞬間、それはパッと手を離し男の元へと戻っていくのが視界の端に写った。
僕は重力に引かれ、背中から地べたへとどさりと落ちる。
(……絶対にふざけているな)
大した高さではなく怪我もなかった僕は舌打ちをしながら立ち上がり、苛立ちを込めた低い声で「……僕をおちょくってるのかい? 」と睨みつける。
少し顔色の悪くなった男はじっと此方を見て、そして口を開いた。
「……もうやめだ」
「……へぇ、諦める気になったのかい? 」
「もうこれ以上切られてやるのはもうおしまいだ、次は俺の番。存分に―――」男の背後から握り拳を作った手首が現れ、此方に飛んでくる。
「―――殴らせてもらう! 」
それは先程と同じように僕の顔目掛けて放たれた。
「そんな直線の軌道じゃ切ってくださいって言っているようなものだよ! 」
僕はその手首の軌道に被せるようにナイフを振るう。
が、その手首はナイフの当たる範囲に入る前に独りでに拳を開いた。
勢いのついた状態から開かれた拳から
反射的に顔を腕でガードする。
びちゃりと腕につく粘っこい液体。
鼻につく鉄の匂い。
直感で理解した。
(血?! ……っ、目潰しか!)
「小癪っ……な?! 」
眼前の腕を戻し、男の方を見ようとするとそこには握り拳が3つ宙に浮いていた。
「うぉおおぉお!!! 」
刃の叫び声が夜の路地に木霊する。
その声に呼応するかのように
ガードの上からでも容赦なく叩き続けるそれに、恐怖を覚えた蓮は
そうして1つの拳が綺麗に鼻先を捉えたとき、蓮は吹き飛ばされ、コンクリートへと倒れこんだ。
俺は手錠をして無力化した男を
「生け捕り……ましたよ」俺は足首を守るようにしながら、助手席へと乗り込み運転席のスーツの男に言う。
「お疲れ様です。……おや、顔色が余りよろしくないですね、大丈夫ですか? 」
「出来たら、治療して欲しいです……」
(……体がすげえだるいし腕と足首超痛いし)
「分かりました。 とりあえず応急処置を」
その男は手慣れた様子で俺の前腕部の傷口を包帯で巻いていく。
あっという間に巻かれたそれを見て、(なんかボクサーみたいで格好いい)なんて思ったりしていた。
案外余裕だな俺。
等と思っているとかくりと意識が飛びそうになる。(あ、れ? なんだ……力が入らない……)
そうして俺の意識は沈んでいった。
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