十九話

「あ、あぁごめん俺のターンだったっけ? 」そっと尻のポケットに黒のスマホを仕舞いながら、リビングに戻ろうとすると、手でそれを遮られた。

「……違うそれじゃない」頭を左右に振り、豆丘さんはじっと俺の目を見る。

「……え? 」

「私ね実は凄く耳が良いの。家の中なら電話・・の相手・・・の声も分かるぐらいに」

 俺は何も言えなくなった。

「……薄々おかしいとは思ってたよ? 私が無条件で外に出られたのはおかしいって。話着けたとは言っても出ていけただけじゃなく、ここまであそこの人が支援するのはどう考えてもおかしいって」

「……い、いや、ほらそうは言っても仕事の手伝いってだけだし? そろそろ俺もバイトしたいなーとは思っ―――」

「どんな契約? 」

(……豆丘さんを買い取ってとりあえず、働いて返すつもりです。とは言えねえよな)

 どうにかこの状況を切り抜ける方法を考える。


 ……結局思いついたのは凄く無理やりな方法だった。


「……オヤモウコンナジカンカ、カエラナクテハ」

 俺は素早く不可視の魔法の手マジックハンドを作り出しリビングの方にある俺のスマホを回収する。幸いこの状況でもリビングへ視界は通った。

 そしてもう2つの魔法の手マジックハンドで豆丘さんの両手首を掴み壁へと押し付ける。

「あっ、ちょっコラ……刃君?! 」豆丘さんはどうにか動こうとするが俺の拘束は完璧だった。

「戸締まりはしっかりね! じゃ! 」

 俺はダッシュで玄関から出ていく。

 扉を閉め、バタバタとアパートの敷地から出たと同時に魔法の手マジックハンドを消した。



 夜の11時過ぎ、黒いスマホからデフォルトの通知音が流れた。刃はそれを手に取り、確認する。メールだった。

 内容は到着しました。の1文。

 そのままポケットにスマホを入れ、窓から刃は身を乗り出す。

 予め用意していた靴を履き、魔法の手マジックハンドによる補助をしながらすたりと路上へ出た刃はキョロキョロと周りを見る。

 すると通りの角から黒服の男―――男は研究所の入り口に立っていた警備員と同じ人物―――が現れ「真九呑地刃さんですね? 此方へ」と手を向ける。


 そこには黒色のワンボックスカーがあった。

 少し戸惑うようにしながら刃はそれに乗り込んだ。

「……あの、すみません」俺は車に揺られながらハンドルを握っている男に問いかける。先程のスーツの男だ。

「なんでしょうか? 」前方から声だけ返ってくる。

「実は全く話を聞かされていなくて……。何か不明な点があったら、迎えに来た人に聞けと言われたんですよね」

「私に分かる範囲であればお答えしますよ」

「……今回俺は何をしたら良いのですか? 」俺は単刀直入に聞いてみた。

「実は少し前から、ある町で不可解な通り魔が出没しているらしいのです。

 それの調査……と言った感じですね」

(通り魔か……なら別に俺じゃなくても警察がすればいいんじゃないか? )

「……そういうのは警察がするものなんじゃないんですか? 」

不可解・・・……と言ったでしょう? 襲われた人物達が皆口を揃えて言うのが、犯人は真っ黒だったと。そして切りつけた後、音もなく消えるとの事です。警察は恐怖からの妄言だと切り捨てていますが」

「……超能力チカラ持ちが関わっているかも、というわけですか」

「はい。……後これを」

 男は空いている左手で俺になにかを投げる。

 慌ててキャッチしそれを見ると、水色の金属で出来た、おれ自身が一度付けられたことのある、超能力チカラが使えなくなる不思議な手錠だった。

「出来る限り生け捕りにしろと和子池様からの伝言です」

「……分かりました」

 俺はその手錠を手に取り上着のポケットに入れる。

「もう少しで着きますので少々お待ちを」

 それっきりスーツの男は口を閉ざす。

 次に開いたのは停車した時だった。

「この辺りです。倒した場合はこの車まで連れてきてください」そう言いながら、男は俺の座席の扉を開ける。

「そう言えば生け捕りにとは言ってましたけど……仮に殺してしまった場合とかは? 勿論殺すつもりはないですけど」ふと陽斗を鉄パイプで殴りつけた記憶が甦る。

「そのときは此方で処理しますのでご安心ください。ではご武運を」

 そう言って車へと戻っていった。


(本当にいるのか……? )

 既に車から降りて1時間は経過していた。

 この辺り、としか言われなかったため、俺は灯りも少ない、俺の足音以外音のしない暗い夜道を警戒しながら歩いていた。

 夜中と言って差し支えのない時間帯と言うこともあり人通りもなく、まるで世界で俺一人になったのではないかと錯覚するほどに静かだった。

 そんな時、少し先の曲がり角から足音が聞こえた。

(人……か? )

 少し警戒しながら角から曲がり、出てくるであろうそれを俺は待った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る