十七話

気に入られたようで肩をばしばしと叩きながら見送る陽斗に会釈をしながら、俺は段ボールと共に車に乗った。

来たときとは違い手首も足首も縛られていない為、同じ車両の筈なのに凄く快適に感じられた。

陽斗の死の偽装についての事を聞きたかったのだが、司さんは「俺にも分からん」としか言ってくれなかった。

(まぁ良いか。……にしても中身が気になる。開くのは家に着いたらって言われてるけど)そう隣に置かれた段ボールを何気なくパフパフと叩く。

「あ、そう言えば」

「どうした? 」

「いや、お二人の名前よく考えたら聞いてなかったなと。下の名前はなんとなく分かりましたけど」

「言われてみれば名乗ってなかったな。俺は由宮司で、もう一人が津院陽斗だ。

……随分陽斗と仲良さそうだったな」司さんはふっと鼻で笑う。

「いやあれは……。後頭部、鉄パイプで殴った俺に良くもまあ、あそこまで親しく出来るなとは思いますけどね」苦笑いを浮かべながら俺はそう返す。

「陽斗は刃との方が俺よりも年が近い。仲良くしてやってくれ」

「分かりました。……そう言えばお二人は――」

そうして俺の家に着くまで司さんと他愛のない話をした。



「大丈夫だった?! 」

自室に帰り、一番初めに耳に飛び込んできた言葉だった。それを発したのは豆丘さんだ。

慌てた様子で俺に駆け寄り、キョロキョロと俺の全身を見る。

何時もより遅く帰ってきた為、心配してくれていたようだった。

「大丈夫大丈夫。……それより今日さ」

「うん」

「豆丘さんが逃げてきた研究所と話が着いた」俺が段ボールを置きながらそう言うと、ぴくりと豆丘さんの動きが止まる。

「もう大丈夫。戻らなくて良いよ」俺が笑顔で豆丘さんの肩に手を置く。

「……ほ、本当に? 」

「本当に」

「う、嘘じゃない? 」

「俺が嘘ついたって仕方ないでしょ」


豆丘さんは突然ぺたりと座りこんだ。前髪がたらりと垂れ表情は見えない。

びっくりした俺はおずおずと「豆丘さん……? 」と問いかける。


「そっか……もう、私自由なんだ 」


豆丘さんは噛み締めるように言うと、フフフと不敵な笑いと共にガッツポーズを取る。

(なんだ喜んでただけか)

「まああてがないだろうし、まだここで監禁だけどね」

「あー私の自由がー」

おどけたように言う豆丘さんが面白くて、俺も吹き出す。

(とにかく良かったな)と豆丘さんの様子を見て思った。


豆丘さんの寝息が聞こえ始めたときのそりと俺は起き上がる。段ボールの中を確認するためだ。

静かに机の上の明かりをつけ、ガムテープで閉められた段ボールを開く。

中には手紙と白と黒のスマートフォンが1つずつ、どこかの鍵、そして鍵に引っ掛かるように小さな1枚の布と、更にその下に布が折り畳まれて入っていた。

(なんだこの布? )

引っ掛かっていた布を手に取り開くと、それは三角形の飾り気のない白色の――

(……パンツじゃねえか! )

慌てて段ボールへ突っ込み今度は手紙を取り中を読む。

そこには黒色のスマホはお前ので、他のは全部豆丘さんの物。

そしてスマホを起動したら読めを読め。と書いてあった。

(……読めを読めってなんだ? )

そう思いつつ手紙に従いスマホを起動する。

数十秒後、画面が表示されるとそこには電話やメールと言った基本的なアプリと、ひときわ目立つ読めと書かれたアイコンがあった。

(読めを読め……、なるほどね)思わず苦笑いしながらその読めを押す。

瞬間スマホの画面いっぱいに大量の文字が現れた。

箇条書きされているためそこまで読みにくくはないが、とにかく量が多そうだ。

俺はそれを一つ一つ読んでいった。


読み終わり伸びをしながら時間を見る。

もう2時間はそれを読んでいたみたいだ。

内容は彼女の経歴がこと細かに書いてあり、元々孤児だとか、元々超能力チカラ持ちを人工的に作り出そうとした試作品プロトタイプだとか、なんだかんだと書いてあった。

(彼女の正体が分かろうと分かるまいとも変わらねえな)

読み終わったそれを長押しし削除する。


(でも……、完璧な人の姿に戻れないのはこれから生きていくの大変だろうなぁ)


これが書かれていて、一番引っ掛かった所だ。

彼女の羽毛に覆われた腕や猛禽類の足のような手を見ているとなんとも悲しいものがある。

(……出来る限りの手伝いぐらいはしてあげないとな)

そう思いながらおれは段ボールを仕舞い机へと突っ伏した。




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