十五話
「……どういう風の吹き回しだ? 」
突然の話の変わりように困惑する。
「じゃから、売ってやると言っとるんじゃ。
お主が駄目だ駄目だとうるさいからのう」
「べ、別に俺は豆丘さんが欲しいなんて言ってな――」
「お主の手元に置いておけば、ワシから別の変態に売られることもあるまいて」被せるようにして和子池は口を開いた。
「……本気で言っているのか? 」
「当たり前じゃ、嘘なぞつかん。豆丘木葉は……まあこれぐらいでどうじゃ」
無論といった表情でタブレットを此方に向ける。
頭にニが一つとその下に零が七つ。全部でアラビア数字が八つ大きく表示されていた。
「ばっ……、学生に払えるわけねえだろ! 」額に驚き思わず叫ぶ。
「これでも本来より大分安くしたぞワシは。親に借りるか銀行でも行ってこい」
「……誰が学生に二千万も貸してくれんだよ」
「……じゃあここで働くか? ちょうど人手も足りておらんし。多少色付けてやるぞ」
先程から感じていた違和感が増大した。
(……怪しすぎる。何が目的だ? いきなり豆丘さんを俺に売るって言い出したり、金が無いなら仕事まで回す? 何考えてるんだ? )
「……お主が何考えてるのかは知らんが、即答できんようならこの話は無かったことにするぞ」
「い、いや違う。もし働くなら勤務時間とか気になるなと。あと作業内容も」そんなことを口走りながら、裏を考えながら俺はそう言う。
(目的が分からないまま、従うのは絶対まずい! でもそれ以上にこの話が無くなるのはもっとまずい! とりあえず話を続けて考える時間を稼ぐしかねえ……! )
「なんじゃそんなことか。
勤務時間も作業内容も、ワシが呼び出した時次第じゃな。
そう警戒せんでも良いぞ今時のぶらっく企業ではないからの」
「……いや安心だなぁ」(気分次第で変わるとか完全にまっくろくろすけじゃねえか……。いや、今はそんなことは良い。
それよりもこの爺さんの目的を――)
「じゃ、契約成立じゃの。司や、こやつを連れていってやれ」
「承知しました」気がつくと男は俺の横に立っており、椅子と縛り付けられていた足の縄を解き俺を担ぎ上げる。
「……え? ちょ、いや、あの」
「じゃあ言うことしっかり聞くんじゃぞ」
和子池はにこやかに手を振り俺を見送る。
「ま、まだ聞きたいことが――」
離れることでどんどん小さくなる和子池は壁が閉まることで完全に見えなくなった。
(……壁が開いて閉まったのか? )
先程の部屋から担ぎ出された時に開いた場所を見つめるが、繋ぎ目一つない壁だった。
(すげえ技術だな。……というか結局目的は分からずじまいか)俺ははぁとため息をつく。
「もうじき手錠も外せる。……すまないな」
ため息を聞きつけたのか男は静かにそう言った。
「あ、いや、平気です」
(この男……司とか言ったっけ? やけにまともだよな、腹パンはされたけど。さっきの和子池とか言うじいさんよりは、格段に話しやすそうだ)
「……そう言えば腹は大丈夫か? 」
「あ、あぁ問題ないです。それより一つ良いですか?」
「なんだ? 」
「いや今さら反抗するつもりとかはないんですけど、車中の時から
「あぁそれはその手錠の効力だ。仕組みまでは俺も知らんが、それを付けると
「成る程」
ちらりと手首のそれを見る。
材質は恐らく金属なのだろう。見たことのない薄い水色のそれは光沢もあり、蛍光灯の光を反射していた。
「良し、着いたぞ」
男はそう言い、またも先程の壁のような所にぴたりと止まる。
どうも部屋のあるところだけ白色の壁、いやこの場合は白色の扉か。それ以外の廊下なんかは剥き出しのコンクリートで出来ているようだ。
幾つかここに来るまでにも白色の扉は見かけた。
音もなくそれは開き、中に入る。
「おー司、俺のコーラ知らね……」中にいた人間は此方に手をあげ――固まった。
数瞬。
「てめえなにしに来やがった?! 」
「死んだんじゃなかったのか?! 」
俺と死んだと聞かされていた赤髪の男の叫びが同時に室内に響いた。
刃は司に手錠を外してもらい、置いてあったパイプ椅子に座り部屋の隅で固まっていた。
露骨にそちらを睨みつけている陽斗。
刃はそちらを見ないようにしていた。
「これからは仕事仲間になるから仲良くしろよ」と司が釘を刺さなければ恐らく戦闘が起きていただろう。
だが今その緩衝材となる司は不在。
和子池に呼び出されたからと、部屋から退室していた。
「……名前は? 」金属製のデスクに肘を置きながら陽斗は言う。
「……え? あ、お、俺ですか? 」刃はびくりと肩を揺らし、挙動不審になりながら人差し指で自分を指す。
「お前以外いねえだろ? 」
「あ、俺は真九呑地 刃です」
「……刃か。なぁ前回のあれどういうことだ? 」
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