四話

 ドアノブを捻り中に入ると豆丘さんは机に座り、漫画とにらめっこしていた。

「とりあえず持ってきたよ」

 俺がそう言うと此方を振り返り「ごめんね、ありがとう」と漫画を閉じ、盆を取りに来る。

「あ、それが刃君の超能力チカラ? 」

 と盆を持たせている2つの手首を不思議そうに見る。

「……まあそんなところだよ」

(やっぱ2つとかってなると見えるのか。外じゃ使えるのは1つだけだな)

「んー、さっきは3つあったように見えたけど……」

 そう言いながら盆を取ると机に置き、備え付きの椅子に座った。

 そして「あの……頂いてもいい? 」こちらを恐る恐る見ながら彼女は訪ねる。

「どうぞ」

「頂きます」と豆丘さんは手を軽く合わせ、青椒肉絲を口に運んだ。

 猛禽類の足を思わせる尖った指で器用に箸を持ち、もぐもぐと口を動かしている様子を、俺がぼんやりと眺めていると、ごくりと飲み込み「これ、凄く美味しいね」豆丘さんは此方をキラキラとした眼で見てきた。

 その視線でなんとなく気恥ずかしくなって、「ふ……普通だよ普通」と顔を背ける。

「私の食べてた物と違って食感も良いし、味もしっかりしてる」本当にお気に召したようで箸が休むことなく、盆の上をせわしなく動いていた。

「……いつもなに食べてたの? 」

「なんか良く分かんない、パサパサしたブロックみたいなのと水とかだったよ」

「……へぇ」

 なんか少なくとも、まともな人間と暮らしてたわけじゃないみたいだな。

 豆丘さんは一体どこから逃げ出してきたんだ……?


「御馳走様でした」彼女が静かに手を合わせ、呟く。

 皿の中身は綺麗さっぱり無くなっていた。

「食べ終わった? 」敷き布団を敷きながら彼は言う。

「うん。本当にありがとう」

「良いよ気にしなくて」欠伸をしながら枕を布団の頭元にぽふっと放り、机の方へと向く。

「盆片付けてくるから先寝てて良いよ」

 そして親指を敷いた布団へ指差した。 

「……もしかしてい、一緒に寝るの? 」顔を赤らめながら彼をちらちらと見る。

 ぶふっと吹き出し「ち、違う違う! 」手を左右にと振り否定する。

「……で、でもそうしないと寝れないよ? 」

「いやいや、ほら俺は椅子にでも座って寝るから、気にしないで良いって」

「じ、じゃあ私が椅子に座って寝るよ」

「いいからいいから」と彼女を布団の縁に座らせ、「じゃあおやすみ」と盆を持ち、彼は下へ降りていった。



 俺が部屋に戻ると、豆丘さんはすーすーと寝息を立てていた。

(……疲れてたんだな)

 そう言いつつ自分も欠伸が止まらず、思わず苦笑する。(俺も寝よ)

 と、冷房のタイマーを設定し椅子に座り、そして机に突っ伏した。

(なんか学校で居眠りしてるみたいだな)

 なんて思いながら俺は眠りの世界へ旅立っていった。



 無機質な電子音が周りの人間に朝だと知らせを出す。

 びくっと体が跳ね、手探りでスマホを見つけ目覚ましを消した。

「……ん」

 と体をのそりと動かし欠伸をしている男の目に覇気はない。

 眠りに落ちてから4時間も経っていないのだ。

 無理もないだろう。

「あーすげぇ眠い……」

 のろのろと立ち上がり、ハンガーにかけられた制服を手に取る。

 そして着替えようと短パンに手をかけた瞬間、彼はこの部屋に今一人じゃないことを思い出す。

 布団の方を首をやると、まだ熟睡中の豆丘木葉がそこにはいた。

 彼はそちらを気にしながら手早く、裾に足を通し袖に腕を通す。

 そうして着替えが済むと彼はため息をつき、「家での着替えで疲れたのは初めてだな……」と机の上のスマホで時間を確認する。

 いつものペースなら間に合う時間だった。

 ぐぐっと伸びをして、彼は階段を降りた。 

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