二話

 調子に乗って飛び回っていると、眼前へと大きな壁が現れた。慌てて止まり、俺は周りを見渡す。

 気がつくと俺は高層ビルの立ち並ぶ繁華街の方まで来ていたようだ。

 そして周りを見ることで目の前の物は、壁ではなくビルだと言うことが分かる。

(……流石に疲れたな、少し休憩するか)

 と高度を更に上げ目の前のビルの屋上へと向かう。

 そして屋上まで来ると裸足――靴持ってくれば良かった――で着地した。

 この能力は使い続けると、長時間集中していた時の何ともいえない疲労感が体に残る。

 たぶんある程度思考で操作しているからだろう。

 少しずつ慣らしていこう。


 なんて思いながら屋上の縁に座り、のんびりと周りを見渡す。

 下はタクシーの往来や24時間営業のコンビニ等で、深夜だと言うのに驚くほど明るかった。

 深夜に地上をゆっくりと見ることなんてなく、改めて驚かされる。

 今度は視点を左右に振れば未だに企業戦士達が、仕事をしているのだろう。ぽつぽつとビルの窓には明かりが灯っているのが見えた。

(……御愁傷様)

 なんて思っていると、頭上から声が降ってきた。


「こんばんは。こんな時間になにしているの? 」女の子の声だった。

 思わずそちらを見ると夜の黒とは対照的な、全体的に真っ白―――ノースリーブのワンピースといった服装も、鳥の翼のような両腕もどちらも白だった――な白髪の美少女がいた。

「……?! き、君はなに、……何者なんだ? 」

 予想外な事に驚いた俺は噛み噛みで何とか言葉を紡ぐ。

「 ……人に名前を聞くときは自分からだって昔から言われてるよ。まぁ良いけど。

 私は豆丘。

 豆丘マメオカ 木葉コノハ。君は? 」彼女はゆっくりと翼を羽ばたかせながら、音もなく俺の隣に着地する。

「あ、あぁ。俺は真九呑地マクノミチ ジン

「ジン君か。ねぇ、何か超能力チカラを持っているんでしょ? こんな夜中にこんな所にいて、普通なわけないし」と何が可笑しいのか、けらけらと彼女は笑う。

「まあ……ね」

 俺は動揺を隠せなかった。自分以外にもそういった能力者がいると言うことに。

「因みにどんな超能力チカラなの? 」

「……あー内緒ということで。まあ、そろそろ俺は帰るから。じゃあ会うことがあったらまた」

「あ、待って待って。あのさ、今日泊めてくれない? 私今家出中でさー」

「……え? 」


 彼女との出会いはそんな感じだった。


「い、いやー流石に俺の家は、両親いるから厳しいかなぁ。それにほら、寝る場所もないし」

「私別に、何処でも寝れるよ? 」

「……な、何かの拍子に、親に女の子連れ込んでるなんてバレたら面倒なんだ」

「絶っっっっ対バレないようにするから! ずっと飛んでてもうヘトヘトなの。だから今日だけお願い! ね? 」

(……あーこれ諦めないタイプだ。どうしようかな。逃げるって言っても、恐らく追ってくるだろうし)

 どうしたものかと考える。バレないように逃げるには……そうか夜か。

(……そう、今は夜なんだ。一瞬の隙さえ作れれば、闇夜に紛れて逃げるのもそう難しくはない筈。

 じゃあその隙をどう作るか、だな。少し古典的だが)

「……あー! 」

 俺は驚いた顔をしながら彼女の背後、誰もいない虚空を指差し叫ぶ。

「え? 」彼女の視線がそちらを向いた瞬間、俺はくるりと踵を返し、ビルから飛び降りる。

 常人ならば自殺と思われるか、もしくは不運の転落だと思われるだろう。


 だが俺にはこれがあった。

「来い! 魔法の手マジックハンドォ!」俺がそう叫ぶと、手首が何処からともなくぬるりと虚空から現れた。

 それは先程のように俺の両足の裏を掴み、一つの手首が地面と平行だった体を、立て直し垂直にする。

 空中で体勢を立て直した俺は、最短の家までのルートを考え、そして最速で実行した。


 結果として行きの半分ほどの時間で、家へと着いた。

 自室の窓際の外へと近づき、「……はー疲れた」と独り言が不意にこぼれた。

(にしてもあの子は何だったんだ? 家出と言っていたけど本当にそれだけなのか? ……なんとなく、何かから逃げている感じだったような……。まぁ俺の知った事ではないか)

 ふぁあと欠伸をしながら窓に手をかけようとした瞬間――


 俺の肩に手が置かれた。

 突然の事にぞわりと背筋が冷え、全身の毛が総毛立つ。

 弾かれるようにしてそちらを振り向くと

 満面の笑みを浮かべた豆丘木葉がそこにはいた。


 

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