第12話 永倉
「しろちゃん、案内ありがとう。ここで待っててくれる?丁度いいところにきたね。」
「それは良かった。またでかくなったか?」
煙草の火を消したこのおじさんは、元新選組二番隊組長永倉新八のことだ。頭に伸びてきた手を避けようとしてとどまる。
元新選組の面々で仲良くしてくれているのは一くん、永倉さん、それに沖田くん。沖田くん少し前に病で亡くなった。私がきちんと話をしたことがあるのは《新選組の沖田総司》ではなく《青年沖田総司》。叶えば一度剣を教えてもらいたかったものだ。敵としては、こんなに嫌な相手はいなかった。
永倉のおじさんは私と同じように正式に政府側に所属していないものの協力関係にある人物扱いだ。精兵隊というのを組織して、こちらは荒事対応が多いらしい。剣とは反対の組織だ。政府関連のおかげで知り合い、今では飲み友達。私の周りはなんでこうもやれ煙草だ酒だみたいな人が多いんだろうか。
今回永倉さんを呼んだのは、予想より相手の規模が大きかった時の保険だ。永倉さん本人は勿論精兵隊にも協力を仰ぎたい。
二人で並ぶ。
「婿養子に入った杉村家が胡蝶ちゃんが出入りしてる医者の家でな。偶に顔合わせてて、良く出入りしている蘭家のこともなんとなく知っていたんだが言う機会がなくてな、すまん。」
「知らなかったし、気にしてないよ。」
永倉さんが現れると巴さんと黒鉄くんはそのままに、他二人は立ち上がった。驚きながらも握手を交わす朱現くん。
「これはまた、随分な人を引っ張ってきたな。どういう人脈なんだ?」
「ふふん、人と仲良くなるのは得意技だからね。」
「お久しぶりです、永倉さん。お元気そうで何よりです。」
「おう、お前もちゃんとやってるかい。」
頭を下げた一くんに肩を組みだす。ちょっと嫌そう。
巴さんはまるで旧友にあったかのようだった。この二人は特に人がいい。斬りあったことがあったとしても、違う空気を纏い歩み寄ればそこにいるのは命を掛け合った友人なのかもしれないと思う。そういう人たちだった。
誰だこのおじさん顔の黒鉄くんには自己紹介をし頭を撫でる。それは嫌われそうだからやめた方がいいしやめて欲しい。
お互いに自己紹介や雑談を交えたところで、6名での話し合いが始まった。
芥の消息に関しては私と一くんの担当。もてる全ての人材を駆使して捜索に当たることを約束した。
後手にはなるが現状できる事案の対応には朱現くん、るかくんが主に担当することにした。他県に出向く必要があるかもしれない、と伝えたが快諾してくれた。
重人が集まる東京の機関の警備強化には政府組があたる。精兵隊を主に、剣や警官と連携していく。多くの人数を動員できない為、申し訳程度の強化にはなってしまう。
巴さんには築いてきた信頼関係を元に町人からの情報収集と会議場を提供してもらうことになった。
約束事を決めたい、と手を挙げたのは朱現くんだった。
「できる限り、単独行動を避けよう。」
「なぜだ。」
理由を問う一くんに視線で伝える。分かるだろう、と。あの時代、一人で《仕事》に行くことを是とはしなかった彼を思い出した。否定するものはいない。
各々連絡先を交換し、先に私とるかくんが退出する。
「頑張ろうね。次また会えたら、美味しいご飯でも食べよう。」
若い二人が退出し、緩衝材がなくなった空間には静けさが漂った。
「…姫ちゃん、大人になったなあ。」
「ええ、昨日会ったばかりですけど。」
「今斎藤と一緒に住んでんだろ?不思議な子だよ。」
「は?」
斎藤は額を押さえ、諦めた顔だ。永倉が一応手を合わせるも、一炉は斎藤に詰め寄る。その姿はまるで父親だ。
「すっごい騒がしいし。林檎ちゃん、胡蝶ちゃん。今日はごめんなさい。迷惑かけちゃって…。」
頭を下げると、気にしてないしいつもの事だよと返ってきた。それはそれでどうかと思うが突っ込んでは聞かないことにした。
気づくと空には満天の星。過ぎ去る時間は止められない。待たせていたしろちゃんはちょっと不機嫌そうだ。おやつをあげなければ。
みなさんやっとお話が済んだようだ。帰宅組と胡蝶ちゃんを送るるかくんが門をくぐる。
「次、一週間後また集まろうね。その前に何かあれば訪ねてきて。」
ひらひら手を振る。見送ってくれる巴さんたちの姿は家族を感じて、何処か寂しくなった。
「なになに、姫さんよ。結婚したくなったって?」
「おじさんうるさいよ。もう夜だから。ご近所迷惑。」
永倉さんのこれだけはどうも防げない。
ふと、隣にいる人に
「結婚する?」
と聞いてみた。一息煙を吐いてから返事が返ってきた。
「しようか。」
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