第10話 人相と画伯

「早速だけど、芥の人相教えて欲しいな。くろちゃーん。」

 物陰から姿を現したくろちゃんに場が緩む。流石。


 「大柄な男性。太刀を振るう上、二刀流。独特の空気感があって、気配が辿りにくい。あと、入れ墨が入っている。」

 紙に絵を描いてくれているが、朱現くんの絵は酷い。期待しないでおこう。

「入れ墨って京のみたいなやつ?」

「違う。手のひらや首など見えやすいところに入ってる。」

「え、お前入れ墨入ってんの…。」

 口が空いているよ、黒鉄くん。そして何も伝わらない絵。


「これだけか…。でもないよりいいね、ありがとう。すぐに捜索を手配するけど、あんまり期待しないで。ありがとう。ちなみに、朱現くん以外にそれっぽい人に会ったことある人、いる?」


 ある、と言ったのは巴さん、林檎ちゃんだった。


 数か月前、朱現くんの前に姿を現した後ぐらいの時期、それらしき人が道場に来たことがあると言った。道場で稽古を見学し、門下生と話していったそうだ。しかし、その時は帯刀していなかったうえ、芥だと名乗っていない。


 少なくとも、まだ一緒にいるときには接触してきていなかった。なんで今なんだろう。


 しかし、いくつか分かったことがある。朱現くんと巴さんの知り合いではない。私や一くんも多分知らない。朱現くんが嘘をついていて、実は芥だった線は消えた。林檎ちゃんも目撃しているから、道場を訪れたのも本当だと考えられる。一くんもそれが分かったようだ。


 うん。嫌な感じ。私にだけ接触してこない。おまけに相性は最悪そう。


 一くんと席を外し、由良と必要な情報を纏める。芥の人相、協力関係を築けたことを記載する。要人らにそれらしき人物が接触してきた、または既にされている場合はすぐに報告を挙げるように加えた。ついでに請求書。


 これは一くんの部下に回すことにした。秋田にも持ち帰ってもらい、剣でも共有する。くろちゃんに書簡を持たせたところで、襖が開いた。


「俺も協力させてくれないか。」

 そういうのは黒鉄くんだ。膝に手をつき頭を下げる。後ろから巴さんと朱現くんが見守っていた。


「俺、昔維新志士になりたかったんだ。でも危ないからって周りに入隊を認めてもらえなくてさ。」

 そう教えてくれた。鍛えた技術を人の為に使いたい、戦力を集めにきたのなら力になりたい。そう訴えてきた。分かってやれないことはない。だからといって今更道連れを増やしたいとも思わなかった。

「るかは《仕事》についても知っているし、維新志士に関して大体のことは教えてやったよ。志士に幻想を抱いている浅はかな青年じゃない。」

「でも朱現くん、京は勧められないよ。相手は人斬り。対峙して生きれる保証なんてない。」

 悩ましい。戦力を集めに来たのも事実だ。そして芥側がこちらにちょっかいかけているのは明らかだ。そう考えると彼が一人で向かってくるとは思えない。それなりの味方をつけているんだろう。ここまで狡猾にやってきた相手だ、いくらでも保証は欲しい。

 一くんに目配せすると、別に構わない様子だった。少し驚く。


 現在主力の手札として切れるのは姫崎・一炉・斎藤のみ。剣は戦闘にだす予定はないので、除外。警官も大した戦闘力は持ち合わせていない上所帯持ちも多いので、基本は除外。一くんの部下が少し回せるだろうか。加えてあてが一人だけある。しろちゃんが呼びに行っているのでもうすぐ到着するだろう。


 巴さんと朱現くん、一くんまで否定しないのなら拒みずらいところではある。だからと言って遊びじゃないんだ。

「だったら京と一戦交えてもらおうか、黒鉄るかくん。」

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