第80話 ヤマタノオロチを倒せ(その2)

「統二!! 一体何をする!?」


 萌香の悲鳴が、ダンジョン内に響き渡る。

 彼女の位置からは、俺がいきなり天叢雲剣でレラを刺したように見えたのかもしれない。


「ああ、心配するな。

 俺が斬ったのは……」


 かつん


 ゴルフボール大の青い宝玉が、涼しげな音を立てて地面に落ちる。


「……え?」


 何が起きたのか分からず、目をぱちくりさせるレラ。


 ぱきり


 宝玉が、真っ二つに割れる。

 内側から覗いたのは、複数の地脈チップと霊子コンデンサーから構成された極小回路。


(やはり……!)


 回路の構成に癖がある。

 正式な判断は雄二郎に調査してもらう必要があるだろうが、俺の予感は当たっていたようだ。


「重要証拠物件②、だな」


 倉稲ダンジョンに取り付けられていたキノコ型地脈操作機。

 そんなモノよりはるかにヤバいアイテムの存在に、思わず深いため息が漏れる。


「いきなり斬りつけてすまなかった。レラ、これをどこで手にいれたんだ?」


「あっ……はいっ!」


 俺の声に、我に返るレラ。


「確か、1年ほど前に道内の企業様から寄進として頂いたものです」


 今のレラはミニスカ制服姿とはいえ、いくつかの探索用装備を身に着けている。

 腰に巻いた幅広の皮ベルトもその一つで、ベルトにはいくつかの小袋が取り付けられている。

 俺が斬ったのは、そのうちの一つだ。


「寄進した企業の情報は分かるか?」


「しょ、少々お待ちを」


 腰に下げたポーチからスマホを取り出すレラ。

 慣れない手つきでスマホを操作すると、とある会社のHPを表示してくれた。

 壁紙が姉妹のツーショット写真なのが微笑ましい。


「『旭川ローカルクリーン』……」


 地元を営業範囲とする清掃会社で、現法人の設立年は1年前。

 もともとは地域に根差した親族企業で、1年前に買収され体制を一新したと会社概要には記載されている。


「ふむ……」


 会社情報に特におかしなところはない。

 Asahikawa 7thの清掃業務を、長年担当しているようだ。


「なんでも、商会の所有者が変わられたという事で、ご挨拶に来られた際に頂いたのですが」


「……何か変わったことはなかった?」


「うーん」


 俺の問いに、顎に人差し指を当て考え込むレラ。


「以前は非常に丁寧に洞穴内を掃除して頂いていたのですが、所有者が変わられてから少々雑になったくらいでしょうか……」


「なるほど」


 Asahikawa 7thの中に入る事の出来る清掃企業が、何者かに買収された。

 その企業が、レラに複数の地脈チップと霊子コンデンサーを組み込んだ怪しい宝玉を渡していた。


 状況証拠がそろってきたな。

 この清掃企業の背後は雄二郎に洗ってもらうとして……。


「レラ、身体の調子はどうだ?」


 改めて、彼女に問いかける


「私の身体ですか? 特に何も……って、あら?」


 こくり、と首をかしげるレラ。


「なにか、身体が軽くなったような?」


 くるりと一回転すると、曲刀を構え素振りをするレラ。


 しゃっ!


 先ほどまでと比べ、明らかに剣筋が鋭くなっている。


「統二様、これは?」


「やはりか……レラ、ヤマタノオロチを攻撃してみてくれ。全力で」


「は、はい」


 俺は天叢雲剣をレラに手渡すと、彼女の背をポンと押す。


「では……行きます!」


 何かを感じ取っているのか、勇ましく天叢雲剣を構えるレラ。

 いくら天叢雲剣を得物にしたとはいえ、先ほどまではかすり傷を付けるのが精いっぱいだったレラの攻撃だが……。


「萌香、理沙、頼む!」


「まったく、話が長いぞ統二!」


「ひいぃ、もうボロボロですっ!」


 どおおんっ!


 尻尾を斬られ怒り狂うヤマタノオロチの相手を続けていた萌香と理沙。

 魔法と格闘技のコンビネーションで、ヤマタノオロチの足を止めてくれた。


「レラ、今だっ!」


「はいっ! 秘奥義、ルプシ・カムイ・エ〇シ!!」


「まさかの妹さんの方!?!?」


 >礼奈ちwwwwww

 >↓↘→+CDのヤツなwwwww

 >それ以上いけない

 >環境依存文字やめてもろて

 >リンゴ使い発見!!

 >やっぱ礼奈ちってアラフォーじゃね?


 ゴオッ!!


 礼奈のギリギリすぎるツッコミと共に、氷雪を纏ったレラの必殺技がヤマタノオロチを一瞬で凍らせる。


「やはり、力が? ならばっ!

 これで……終わりですっ!

 はああああああああああああああっ!」


 天叢雲剣を大上段に構え、裂帛の気合で振り下ろす。


 ぱっきいいいいいいいいんっ!


 レラの大攻撃で、凍り付いたヤマタノオロチは粉々に砕け散るのだった。

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