第79話 ヤマタノオロチを倒せ(その1)

 ヤマタノオロチに対して繰り広げられる、萌香とレラの鮮やかなコンビネーションバトル。正月配信のコメント欄は、空前の盛り上がりを見せていた。


 >いや、なにこれ? 正月番組のレベルじゃないだろ!

 >今来た! クライネーズがヒドラと戦ってるってマジ?

 >ヒドラどころか、ヤマタノオロチなんだが!

 >うっそだろお前、伝説級のモンスターじゃん!

 >萌香とレラ様の早食い対決と聞いて来た!

 >なんでそうなる……

 >早食い(SSランクモンスター)

 >いつの間にか同接が500万を突破してる件

 >新年早々、今年の記録樹立じゃね?

 >今年どころか、過去最高記録なような……。

 >Wow! Miko-Miko combination!!

 >20年物ナード現る!

 >まずレラ様は巫女じゃねえww


 Asahikawa 7thの付喪神であるレラがダンジョン配信をしているという話題は瞬く間に世界中のSNSを席巻し、配信の視聴者数がとんでもないことになっていた。


 この時の俺たちはヤマタノオロチとの戦いに集中しており、後からこの事実を知ったのだが。


「次に俺と礼奈で遠距離攻撃だ! H-1と3に連射スキルを使うぞ!」


「了解だしっ!」


「トージさん! わたしは?」


「理沙はまっすぐ突っ込んでぶん殴る!」


「なるほどトージにぃ。残りの頭が理沙ねぇに喰いついた隙に撃ちまくるってことね!」

「まさかのエサ扱い!?」


「いくら理沙が頑丈でも、そんな無茶はさせられないぞ?」


 苦笑しつつ、理沙に防御術を掛けてやる。


「ヤマタノオロチは俺たちの射撃から傷ついた頭を守るため、尻尾でガードするはず。その尻尾をぶん殴ってくれ。殴った感触を教えてほしい!」


「よく分かんないですけど、了解ですっ!」


 ぐっとこぶしを握り、ポーズを取る理沙。

 ヤツのどの尻尾に例の剣が隠されているか、まだ把握が出来ていない。


 見れば、レラが斬ったH-1と3はすでに再生を始めている。

 炎術で焼いたH-2も、炎が消えれば再生するだろう。


「ヤマタノオロチの再生能力は天下一品じゃ! ヤツを打ち倒すには……」


「つーことね」


 神剣、天叢雲剣。

 そいつをレラが振るう事で、初めてヤマタノオロチを倒せるという事だろう。


「うむっ!」


 腕を組み、大きく頷くコン。

 やれやれ、とんでもない荒療治である。


「よし、行くぞ礼奈!

 連射参式!!」


「ほいっ、連射弐式!」


 魔力で生成された矢と銃弾が空中でクロスし、傷ついたヤマタノオロチの頭に向かう。


 キシャアアアアッ

 バシュッ


 俺の目論見通り、二本の尻尾で俺たちの攻撃をはじくヤマタノオロチ。


「理沙、いまだ!」


「了解ですっっ!!」


 俺の合図と同時に、大きくジャンプした理沙がヤマタノオロチの間合いに飛び込む。


「はああああああっ!」


 裂帛の気合と共に、右ストレートを左側の尻尾に打ち込む。


 どすっ!!


「もひとつっ!」


 その勢いのまま腰をひねり、回し蹴りを放つ。


 ガイインッ!!


「!!」


 理沙のスニーカーには打撃用の金属が埋め込んであるとはいえ、明らかに異質な打撃音が辺りに響く。


「そっちが当たりか! 萌香ッ!」


「心得たっ!!」


 俺の指示にすかさず反応した萌香が、理沙を飛び越え大剣を大きく振りかぶる。


「食らええええっ!! グランブレイド!!」


 ザンッ!!


 その小さな身体のどこにそんな力が秘められているのか、全身のバネを使って振り下ろされた萌香の剣閃は、大人の身長ほどの直径を持つヤマタノオロチの尻尾を一撃で切り飛ばす。


 ギシャアアアアアアアアアアッ!?


 想定外の威力を持つ一撃に、悲鳴を上げのたうち回るヤマタノオロチ。


「トージさん、受け取って!」


 ガッ!


 ビタビタと跳ね回る尻尾を、理沙がこちらに向けて蹴り飛ばしてくれた。


「よし、ナイスだ!」


 尻尾の断面には、僅かに剣の柄らしきものが見える。

 おそらく、あれが……。


「そう、天叢雲剣じゃっ!!」


 俺はこちらに飛んできたヤマタノオロチの尻尾を受け止めると、柄を掴み一気に引き抜く。


 ぱああああああっ!


 現れたのは刃渡り150センチほどの、幅広の片手剣。

 柄と刀身は半ば一体化しており、僅かに緑がかった刀身からは業物のオーラがプンプンと漂ってくる。


「統二様、それが八岐大蛇を倒す鍵となる神剣ですか」


 息を整えたレラが、俺のもとに走ってきた。


 後は彼女にコイツを振るってもらい、ヤマタノオロチを倒してもらえばミッション完了だが……。


(……んっ?)


 神剣を手にしている影響か、いつもより感覚が研ぎ澄まされている。

 レラの腰のあたりから、妙な違和感を感じた。


「……なるほど」


「統二様?」


 天叢雲剣を持ったまま動きを止めた俺に対し、不思議そうな顔をするレラ。


「レラ、その場を動かないでくれ」


「えっ!?」


 困惑する彼女に構わず、俺は天叢雲剣をレラに向けて突き出した。

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