第78話 神様配信をしよう(その3)

 キシャアアアアアアアッ!


 咆哮を上げる、巨大な蛇。

 緑がかった皮膚に、マダラの鱗。

 真っ赤な顎を開き、こちらを威嚇している。


「おいおい……」


 一目見て分かった。コイツはただの蛇型モンスターではない。

 何しろ、ツチノコのような太い胴体から、頭と尻尾が8本ずつ生えている。


「にはは! ヤマタノオロチじゃっ!」


 西洋ではヒドラとも称される、最上位クラスのモンスター。


 コンが持っていた、5つの勾玉。

 じーちゃんが錬成し、超レアのゴールデンスライムを召喚したとんでもアイテムだ。

 正にコンの切り札ともいうべきソレは恐ろしいモンスターを呼び出したらしい。


「ば、馬鹿な! Sランクに分類されるヒドラ種でも、頭の数はせいぜい3本……それが8本だと!」


 ようやく再起動を完了した萌香も驚愕の表情を浮かべている。


「……やっぱヤバいのか?」


「ヤバいどころではない! 今まで目撃されたことのない最上位のドラゴン種……SSランク、いやSSSランクかもしれない」


「マジかよ……」


「にははっ! 神話級モノノケじゃからな!」


 腕を組み、高笑いするコン。

 その青い両目はらんらんと光っている。


「レラの枷を取り除くには、これ位の刺激がないとの! にははははっ!」


「いやいや、コンち……アレはヤバいでしょ」

「すごく強そうです!」


 今まで戦ったことのない、高ランクモンスター。

 ここは一時撤退か? そう考えていたのだが。


「コン様のご高配、無駄には出来ません!

 皆様、大変恐縮なのですが……私を支援していただけませんでしょうか?」


 キリリと表情を引き締め、レラが俺たちの前に出る。


「この怪異を斬れば、私の力を抑えている枷を外せる気がするのです」


「レラ……」


 本来なら北海道を出ることがない付喪神が、意を決して倉稲まで来たのだ。

 なるべく手伝ってあげたい気持ちはある。のだが……。


「まずはヤツの尻尾を狙うのじゃ!

 そこにある神剣をもってすれば、必ず打ち倒せるじゃろう!

 トージなら、神剣の所在が分かるじゃろう?」


「……なるほど」


 ヤマタノオロチ伝説につきものである、叢雲的なアレである。

 コンから必勝攻略法まで聞いてしまった。

 レラの危機は日本の危機に繋がり、倉稲にも影響するだろう。

 覚悟を決めた俺は、みんなに陣形を指示する。


「……レラと萌香が前衛、頭の攻撃を引き付けてくれ!

 礼奈と理沙は、俺と組んで尻尾を狙うぞ!」


「統二、相手はSSランクモンスター。本気、なんだな?」


「おう、神様たちを助けてやろうぜ。

 理沙たちもいいだろ?」


「了解ですっ!」

「まあ、コンちにはお世話になってるし」


「全く……3人とも、無理は禁物だぞ」


 ため息をつきながら、大剣を抜き放つ萌香。


「皆さま……ありがとうございます!」


 一礼するレラを守るようにして、展開する俺たち。

 超高ランクモンスターとの戦いが始まろうとしていた。



 ***  ***


「レラ様! ワタシが先陣を切りますので、よろしければサポートを!」


「承知しました。私の曲刀は間合いが短いですからね」


「お願いします!」


 裂帛の気合と共に、大剣を大上段に構える萌香。

 彼女のメインウエポンは、聖騎士が持つような幅広のグレートソード。

 刀身の中央部に掘られた溝には、複雑な紋様が描かれており魔力を込めることで物理攻撃の威力を大幅に高めてくれる。


「はあああああっ! エンチャント・ファイア!」


 ブウウウウウウウンッ!


 紋様が赤く輝き、炎属性の魔力が刀身を包む。


「よし、俺も!」


 両掌をヤマタノオロチに向け、精神を集中させる。

 ヤツが動くことで生まれる微弱な地脈の乱れ。

 それに、体内に神剣を隠し持っているなら、地脈の特異点があるはずだ。


「萌香、レラ! ヤマタノオロチの頭を左から順にH-1~8と呼称する!

 H-2が4.3秒後にブレス攻撃を仕掛けてくるぞ!」


 それと同時に、先読みスキルでヤマタノオロチの行動を予測する。

 大技を使うには、必ず地脈や霊気の動きが発生する。そのパターンを読むのだ。


「!! 了解だ、統二!!」


「な!? 統二様はそんなことが出来るのですか!?」


「にはは! わらわの主人は、日々進歩しておるからな!」


「す、素晴らしい!」


 神様二人に褒められて、悪い気はしない。


「レラ、ブレス直後は両隣のH-1、H-3が使える霊気が減りそうだ。攻撃のチャンスだぞ!」


「承知しました!」


「行きましょう、レラ様!」


「はいっ!」


 間髪入れず、八岐大蛇に向かってダッシュする萌香とレラ。

 途中で軌道をクロスさせ、奴をかく乱するのを忘れない。


 クアアアアアアッ!


「くるぞっ!」


 ボオオオオオオオオッ!


 チャージを完了したH-2が、二人に向けて炎のブレスを吐く。


「なんのっ!」


 ブレス攻撃のタイミングが事前に分かっていれば、攻撃を躱すのは難しくない。

 余裕を持ってブレスを回避する萌香。


「まずは、一本っ!」


 だんっ


 H-2の直上にジャンプした萌香が、赤く輝く大剣を大蛇の首筋に振り下ろす。


「すきるぶーすとじゃっ! 攻撃力アップ(+15%)!」


 ザンッ!


 コンの赤スキルを乗せた萌香の一撃は、H-2の頭を切り飛ばす。


 キシャアアアアアアアッ!?


「炎術参式!」


 ボオオッ


 H-2の傷口を炎術で焼いておく。

 こういうのは大体再生するからな。


「ふむ、ないすあしすとじゃトージ!」


 どうやら正解だったらしい。


「次は、私ですっ!」


 予想通り、H-2の両隣であるH-1、H-3の動きが鈍い。


「はあっ!!」


 シュキイインッ!


 殆ど剣閃が見えなかった。

 青白い光が走ったかと思うと、レラの曲剣は正確にH-1、H-3の両眼を切り裂いていた。


 グアアアアアアアアアッ!!


 悲鳴と共にのたうつヤマタノオロチ。


「……やはり、萌香様のように頭を落とすところまではいきませんか」


 ヤマタノオロチの胴体を蹴り、間合いを取るレラと萌香。

 先制攻撃は上手く行った。

 次は俺たちの番である。

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