第76話 神様配信をしよう(その1)

「ここが倉稲洞穴……他の洞穴とは、ずいぶん趣が違うのですね」


「にはは! わらわとトージの力作じゃ!」


 急遽決まったAsahikawa 7thの付喪神、レラとのコラボ(?)配信。

 なぜかギャル制服が気に入ったらしいレラを連れ、俺とコン、理沙礼奈と萌香は

 倉稲ダンジョンの第八階層(お化け屋敷モード)まで降りてきていた。


「数多の化け物屋敷を参考にして改修したからの!

 ご贔屓筋の探索者殿にも『別の意味で』緊張感が保てると評判じゃ!」


 どば~ん!


「わ~! 新作! すごいですっ!」


「ぴうっ!?」


 おどろおどろしい霧が立ち込める水路から、土座衛門が出現する。

 俺とコンが協力してデザインしたソレは、超リアルな造形で初めて目の当たりにした理沙は歓声を上げ、萌香は悲鳴と共に石化した。

 相変わらずリアクションが面白いやつである。


「この地脈の属性は……いえ、これは根源たる霊気?」


「には?」


 倉稲ダンジョンを視察したい……特に配信でよく登場する第八階層を!

 とはレラのリクエストだが、こんなエンタメ色の強いフロアである。

 果たして参考になっているだろうか?


「それでレラ、そろそろ配信を始めたいんだけど、大丈夫か?」


「あ、はいっ! 問題ございません」


 ぱたぱたと両手をふるレラ。

 彼女の希望とはいえ、ミニスカギャル制服を身に着けたダンジョン付喪神様(国内トップクラス)を「新春2日目! お正月配信! お年玉からの投げ銭は慎重に!」と銘打ったユルい配信に出していいものだろうか?


「むふふ、わらわとレラでついんぎゃる配信じゃな!」


 コンも同じギャル制服姿なので、いまさらではあるのだが。


 >お、クライネーズの正月配信始まったぞ!

 >正月番組らしい適当な配信タイトル笑

 >配信予定表には載ってなかったよな? なんでいきなり?


 正月休みの昼下がり。

 みんな暇していたのだろう。コメント欄にも一気に人が増えてきた。


 >メンツはトージにコンちゃんに理沙礼奈姉妹に萌香……イツメン?

 >十分豪華ではあるんだが。

 >って、コンちゃんギャル制服!?

 >うっは!

 >まって! 見慣れない美少女がいるんだけど!

 >銀髪? 狼耳? おいおい、まさか……


 視聴者たちも、レラの存在に気付いたようだ。


「くっくっく、今日は物凄いコラボ相手がいるんだぜ?」


 俺が目線で促すと、しずしずといった感じでドローンカメラの前に歩み出るレラ(ギャル制服姿)。


「旭川洞穴が付喪神、レラと申します。

 新年の平穏をかき乱しまして、大変申し訳ございません。

 本日は私のたっての希望により、統二様、コン様の許可を頂き配信の末席に加わった次第でございます」


 丁寧な口調でカメラに向かい一礼するレラ。

 お清楚の権化のような銀髪が、さらりと揺れる。

 ……なのであるが、膝上15㎝はある超ミニスカというのはどうなのか。

 さすがにきちんとスパッツは履いてもらったが、各方面から怒られないだろうか?


 >レ、レラ様じゃねかああああああああっ!?

 >は? マジ? コラ?

 >いやいや、なんでこんなところにいるんだよ!

 >礼奈ちのコスプレじゃ?

 >いや、俺たちの礼奈ちゃんはこんなにお清楚じゃねーだろ?

 >神様が配信に出るって凄いことなん? いつもコンちゃん出てるし。

 >コンたんは特別だろwww

 >多分トージが見せつけたいだけだww

 >私の記憶が確かなら、TVのインタビューも2回しか出たことないはず。ていうか、北海道を離れた事すら……。

 >どういう伝手だよ!

 >今気づいたけどレラ様の恰好ヤバすぎひん?

 >ギャル制服お清楚www

 >やっぱ礼奈ちゃんのコスプレなんじゃ?


 コメント欄が大混乱に陥る。

 まあ、仕方のない事だろう。

 レラは殆どの時間をダンジョンに併設された神殿で過ごしており、映像に出てくることはほとんどないそうだ。

 そして礼奈の扱い……。


「彼女の写真付き御神印は100万円以上の高値で取引されているからな……」


「そ、そうなのか」


 萌香の言葉に改めてとんでもないことが起きていると実感する。


「北の守り神として、躍進著しい倉稲洞穴を参考にさせて頂きたく……皆様におかれましては、路傍の石とでも思って頂けますと」


 >そうは思えないってええええええええっ!? ×20000


 物凄い勢いてコメントが増えていく。


「ううう、ギャル=ビッチじゃないもん……」

「まぁまぁ、いじられるのも愛されキャラの特徴だよ!」

「……理沙ねぇの腹みたいに?」

「フォローして損した!?」


「くすくす、微笑ましいですね」


 理沙礼奈姉妹のじゃれあいを見て、笑みを浮かべるレラ。

 付喪神は単独で現界することがほとんどだ。姉妹の様子が興味深いのかもしれない。


「実は私の妹も……」


 どばあっ!


「むむっ! トージ! もんすたーが出たぞ!」


 レラの言葉を遮るように、縦横無尽に流れる水路から数十体を超えるモンスターが出現した。


 グルルルル……


 鵺を主力に、小鬼に猫型のすねこすり。

 モンスターの身体はおぼろげに光っていて、かなりの高ランク個体と考えられる。


「ぬぬ、わらわとレラ、二柱の付喪神がおるからか怪異どもが活性化しておるようじゃな! なかなかの上位個体じゃ!

 萌香は役に立たぬようだし、ここはわらわも助太刀して……」


 ダンジョンアプリで測定してみると、モンスターどもの平均級(レベル)は75程度。相当に高レベルの群れだ。


(ちらっ)


 背後に視線をやると、相変わらず石像のように硬直している萌香である。

 この戦いの役には立ちそうにない。


 俺と理沙、礼奈だけでは少々骨かもしれない。

 コンと協力し、ダンジョンスキルを発動させながら戦うのが得策か……。


「コン様、大変申し訳ないのですが」


 両手を広げ、すっと俺たちの前に出るレラ。


「ここは私にお任せいただけないでしょうか?」


 ぎらり


 深い紫色の瞳が、強い光を放った。

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