第67話 俺たち、表彰されてしまう

「いや~、トージはん! ホンマおおきに!!」

「協会主事の萌香氏がいたとはいえ、4人パーティで第86階層まで到達してしまうとは!」

「これで東の連中に対抗できるわ! いやほんま、ようやってくれたで!!」


「は、はぁ……それはどうも」


「なはは! 兄ちゃん緊張しとるんか? 気にせず飲め飲め!!」


 恰幅の良い浪速のおっちゃんたちが俺の肩をバシバシと叩く。


「おお、付喪神はんも一緒に、記念写真撮らしてや!

 ウチの社屋に飾るんや!」


「おっと、抜け駆けは許しまへんで! わてが先や!!」


 なんだかよく分からないままコンとステージに上げられ、ポーズを取る。


「にはっ☆」

「え、え~っと」


 パシャパシャパシャ


 嵐のようなフラッシュの閃光が俺たちを襲う。


「おっしゃ、祭りを始めんで!」

「おう、盛り上げたる!」


 ドドドドドドッ!


「「どええええっ!?」」


 何処からともなく数台の山車が現れた。

 全身を襲う筋肉痛のせいで、ほとんど抵抗もできずに山車の上に乗せられる俺たち。


「いけずな穴守グループにはうんざりしとったんや~!!」

「関西の夜明けやで!!」


「にはは、いい眺めなのじゃ♪」


 元々付喪神であるコンは、居心地がいいのか櫓の上に立って両手と尻尾を振っている。


「神様にまで乗ってもうて、完璧やんけ!」


 だんじりは、そのまま天王寺の下町に繰り出していく。


「いやちょっと待って、なんですかこれええええっ!?」


 抗議の声を上げるが、おっちゃんたちは止まらない。


 翌日、フェスの打ち上げと称してOsaka-Secondタワーのロビーで開かれていたレセプションパーティは、前日の夜からしこたま飲んでいたとおぼしき大阪のおっちゃん(関西経済界の重鎮)たちにより、制御不能のお祭りへと発展していた。


「う、うわぁ……目立たないように避難しとこうよ礼奈ちゃん」

「お、おう……さすがにモクシィアイドル礼奈ちゃんでも、あのノリにはついていけないわ」

「う、うむ……ワタシも一緒に逃げさせてもらうぞ」


 狂乱のレセプション会場から、戦略的撤退を計る女子組。

 そろりそろりとホールの出口に向けて後ずさっていたのだが。


「「あら~、お嬢ちゃんたちどこ行くんよぉ? いけずやわぁ」」


「「「ぴうっ!?」」」


 彼女たちの両肩が、背後からがっしりと押さえられた。


「あ、あのぅ……どなたさまで」


 恐る恐る振り返った理沙が見たものは……。


 がるるるるるる


「ひええっ!?」


 数十頭に及ぶ、『猛虎』だった。

 半分くらいは豹が混じっていたのだが、捕食される哀れな草食獣には関係ない事であった。


「この子ら、ホンマかわええな! お肌もすべすべやし!」

「いや~、ウチも20年前はこうやったんやけどね!」

「なにいうてんの! 会長の全盛期は30年前やろ!」

「ま、旦那といまだに現役やけどな!」

「「「がははははは!」」」


「「「えぇ……」」」


 豪快な笑い声をあげる猛虎と虎の群れ……もとい、トラ柄ヒョウ柄ファッションに全身を包んだ女性陣、関西ダンジョン商工会婦人部の面々である。


「いけ好かない東の京連中より目立たなあかんからな!」

「今年の商工会ポスターは、攻めてもええやろ!」


「いやあの、ご婦人方?」


 壁際に追いつめられている萌香。

 おばちゃんたちの両手には、トラ柄の謎衣装が握られている。

 何だろうあれは?

 水着のようにも見えるが……。


「今年は寅年やし、阪神もアレしたしな!」

「せやせや! これしかないで!」

「若手最強探索者の萌香ちゃんがコイツを着れば、世の中の男どもはイチコロやで!」

「それに、そこの姉妹ちゃんも!」


 なすすべもなく、おばちゃんたちに担ぎ上げられ更衣室に運ばれていく。


「「「みぎゃ~~~~!?」」」


 トラ柄ビキニを着せられた萌香たちは、商工会ポスター用の写真を撮られまくるのであった。



 ***  ***


「……以上の条件で、我が関西ダンジョン商工会の所有するOsaka-Secondと、穴守統二氏の所有するクライネダンジョンは、正式に姉妹ダンジョン契約を結ぶことにいたします。なお、当案件は穴守グループのご裁可をいただいており、契約代行として竹駒プロダクションが……」


「お、おふぅ」

「あ、あう~」

「に、にはは……」


 数時間後、すっかりグロッキーになった俺たちは、関西ダンジョン商工会との調印式に出席していた。


「オヤジ達がはしゃいですまんな、お疲れやで!」


 契約の詳細を詰めていたらしい雄二郎が、にやにやしながら俺たちの方にやってきた。


「くそっ、俺たちを生贄にしやがって」


「……なんのことや?

 まあ、モエちんや嬢ちゃんたちのトラ柄ビキニ姿が見れてよかったやろ?」


「それは、確かに」


「「!?!?」」


 恥ずかしそうにポーズを取る3人の様子は、とても愛らしかった。

 お堅いイメージが付きがちのダンジョン協会である。

 これで探索者や協会職員を目指す若者が増えればいいな!


「トージぃ、ワタシたちがすごく恥ずかしい思いをしてアノ格好をしたというのにぃ~お前の感想はそれなのかぁ♡」

「ほらねモエさん、やっぱこんなもんですよ」

「ウチらのポスター、さっそくメ〇カリで高額転売されてるってのに」


「??」


 ダンジョン業界のイメージアップに貢献したい。

 常日頃からそう言っていたにもかかわらず、どこか不満そうな萌香である。


「トージさん! お疲れさまでした!」


 思わず首をかしげていると、調印式を終えた美里さんがやってきた。

 手にした書類には俺のサインと実印、関西ダンジョン商工会の会長印、竹駒プロダクションの社長印に穴守グループの会長印が押されている。


「穴守グループのご裁可をいただいたうえで、萌香ちゃん主導で行われた”深度調査”。そこでOsaka-Second最深部の地脈ポテンシャルが、事前想定の10倍以上であることがわかりましたからね!」


 書類を持ったまま、鼻息荒く説明してくれる美里さん。


「すでにTokyo-First探索権の大半を所有する穴守グループです。Osaka-Secondで無茶をし過ぎると、来年施行予定のダンジョン独占防止法に抵触する可能性がある……ならば、探索権の一部を協会に預けてはいかがでしょう。私の方からそう提案させていただきました!」


「な、なるほど」


 Osaka-Secondの深層部に突入する羽目になったのは、コンの余剰地脈を消費する為であったし、深層部を封印していた扉のロックが外れたのは偶然だった気がするのだが……美里さんが上手く体裁を整えてくれたようだ。


「探索権の分配は関西ダンジョン商工会6割、協会3割、穴守グループ1割となります。トージさん所有のクライネダンジョンと共同し、東日本に比べて遅れ気味な西日本のダンジョン業界を盛り上げていこうと。

 穴守篤氏の息子である銅輔氏の熱い『後押し』を頂きまして!! 最終的には篤氏にも『快諾』して頂けました!!!!」


「へ~」


 銅輔のヤツが地域の事を考えて動くとは意外である。

 改心したのか、変なものでも食べたのか。


「銅輔氏は自身が経営される会社の事でお困りでしたからね。

 グループ全体のイメージアップになる当件を、私からも推奨させていただきました!」


「なるほど」


 美里さんに全てお任せするとはこういう事だったのか。

 たくさんの収穫を手に入れた俺たちは、ご機嫌で倉稲に戻るのだった。

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