第66話 うっかり最深部まで攻略してしまう(後編)

「にはは、これにて終演じゃ~!」


 どかーん!

 どどどどっ


 俺と萌香のコンビネーション攻撃で打ち倒され、轟音と共に倒れこむエルダードラゴン(SSSSランク)。


「ま、まさか国内で目撃情報の無かったエルダードラゴンまで出現するとはっ!

 詳細な記録を取っておかねばっ!」


 高ランクのモンスターともなると、資源コインに変わるまで時間がかかる。

 ドローンカメラと計測機器らしきタブレットを使い、エルダードラゴンの姿を詳細に記録する萌香。

 仕事熱心で結構なことである。


「むふ~、堪能したのじゃ♡」


 すっかりいつもの大きさに戻ったコンが、ぴょんっと俺の肩に飛び乗ってくる。


「にはっ、やはりここが落ち着くの!」


「だな!」


 大きくなったコンも素敵だったが、やはり少しずつ成長していく姿を見るのが良いのだ。将来に備え、もっと体を鍛えておこうと心に決める俺。


「ところで、ココでいったん最奥か」


「うむ!」


 現在の階層は第86階層。

 ボスモンスターであるエルダードラゴンを倒したのにもかかわらず、次の階層へ通じる階段が出現しないという事は、そういう事である。


「このだんじょんの成長速度はなかなかのようじゃが、今時点ではこの程度であろう!」


 ある程度の規模と格を持つダンジョンは、時間と共に成長していく。

 周囲の地脈量にもよるが、このOsaka-Secondほどの規模を持つダンジョンなら、そのうち100階層を超えるのかもしれない。


「勢いで最奥まで攻略してしまったが、大丈夫かな?」


 いまさらながらに心配になる。

 元々は大阪の産業界と篤さん率いる穴守グループが共同で深度調査する予定だったダンジョンである。


 いくら篤さんの許可(?)があり協会の人間である萌香がいるとは言っても……。


「心配は不要だぞ、トージ!」


 エルダードラゴンの記録を撮り終えた萌香が、興奮気味の面持ちで大きく頷く。

 その拍子に、金色のアホ毛がぴょこんと動いた。


「いくら穴守CEOの許可が得られたとはいえ、コンを止められそうになかったし!

 ぬかりなく美里さんに対応をお願いしておいた!」


「いや……丸投げすんなよ」


「ふっふっふ、餅は餅屋だぞ? トージ」


「開き直んな、協会主事」


 ぺしん


 堂々の丸投げ宣言をした萌香のアホ毛をチョップする。


 探索者養成校の身体測定の際、アホ毛は身長に含まれますよね!?

 と必死のアピールをしていた姿を思い出す。


「ううっ! 折角セットしたのに何をする~♡」


 ぶんぶんと腕を振って抗議する萌香だが、おでこを押さえてやればその両腕は俺に届かない。微笑ましい。


「ほら理沙ねえ、あれが自然な(以下略)」

「いやもう慣れたよ礼奈ちゃん……」

「モエちん先輩もまんざらじゃなさそうなのがヤバ目だよね」

「強敵過ぎるよぉ」


 相変わらず謎の会話を繰り広げる理沙礼奈姉妹だ。

 これは同期のじゃれあいというヤツで、深い意味は特にないぞ?


「うっ、ううう~お前は本当に~♡」


 なぜか涙目になる萌香。これもいつものルーティンである。


「よし、そろそろいい時間だし、地上に戻るか」


 俺は右手で萌香のおでこを押さえたまま、大きく伸びをする。


「腹も減ったしな」


 時刻はすでに18時。

 早く晩飯を食いたい。

 明日は午前中にフェスの打ち上げに出席し、軽く大阪観光をした後に倉稲村へ戻る予定だ。


「トージ! 今日の夕餉はなんじゃ?」


「おう、お好み焼きだ!」


「うむっ!」


 ご機嫌で俺の頭にかじりついてくるコン。


「はう~、わたしもお腹空いたよぉ。

 ていうか、身体がバキバキなんですが……これって明日筋肉痛が襲ってくる系かな?」


「そういえばあたしも右腕がヤバ目だわ」


 肩をさすりながら右腕を回す礼奈。

 そういえば俺も、いつもよりコンが重く感じるような?


「うむ! すていたすを一時的に増長させておったからな!

 明日は身体に反動があるじゃろう!」


「マジか……ねえコンち、どのくらい来るの?」


「……抱腹絶倒するくらいかの」


「「「「うええええええええっ!?」」」」


 嫌な宣告を受けた俺たちの絶叫がダンジョン内に響き渡るのだった。



 ***  ***


 同時刻。東京行き新幹線のグリーン車内。


「こ、これはまずいことになったぞ……!」


 会社の経費で押さえた特別個室の中で、銅輔は盛大に冷や汗をかいていた。


 偽装……もといバックアップIDカードを落としてしまったとはいえ、基幹エレベーターの底まで百メートル以上ある場所だった。

 床面にぶつかって粉々になるか、モンスターの腹の中に消えるだろう。

 もう一枚同じIDカードを作成し、カードの識別番号を差し替えてしまえばいい……銅輔はそう考えていたのだが。


「カ、カードの現在位置が……!?」


 念のためカードに取り付けていたGPSの位置情報を確認したところ、Osaka-Secondの第86階層を示している。

 誰かがIDカードを拾い、Osaka-Second深層に潜ったのか?


「いやしかし、そんなことがありうるのか!?」


 悪いことに列車は京都駅を発車したばかりであり、名古屋で折り返したとしてもOsaka-Secondに戻れるのは数時間後になるだろう。

 ここから確認可能なのはカードの位置情報だけであり、実際何が起きているのか確認するすべはない。


「ぐぎぎぎ……!」


 Osaka-Secondの深層探索は、父上肝いりの大型案件である。

 関西産業界との最終契約交渉が難航していると聞いた気がするが、ボクのミスで誰かに先に攻略されてしまったとしたら、大変にマズい。


「何とか隠蔽せねば……まてよ?」


 そういえば、協会からOsaka-Secondの深層部の出現モンスター調査について、許可申請が出ていたはずだ。

 フェスには協会主事の萌香も参加していた。


 ピッ


「!!」


 何とか、彼女をうまく使えないだろうか……銅輔が起死回生の案を考えていると、彼のスマホに暗号化されたメッセージが届いた。

 差出人の名前は、竹駒美里。


「竹駒美里といえば、著名なダンジョンコーディネーターではないか」


 そんな人物が、ボクに何の用だ。

 メッセージの表題は、『窮地の穴守銅輔様へ。竹駒プロダクションからのご提案です』となっている。


「い、一応見てみるか」


 少々怪しげだが、今は藁にでもすがりたい気分だ。

 指紋認証で暗号化メッセージを開く。


「こ、これはっ!!」


 そこに書かれていた内容は、銅輔にとって正に福音と言えるものだった。

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