第65話 うっかり最深部まで攻略してしまう(前編)
「にはは~! 天下無敵なのじゃ~!」
「えとえとっ……」
ドがッ!
戸惑い気味に放たれた理沙の回し蹴りが、一撃でヘルハウンド(A+ランク)をお星さまにする。
「ほれほれ、礼奈も! 撃ち方よ~い!」
「お、おうっ」
バシュン!
礼奈の銃から放たれた閃光は、ただ一射でフロスト・ジャイアント(Sランク)の上半身を消し飛ばす。
「最後はトージじゃ! 征くがよい!」
「あ、ああ」
グオオオオオオオンッ!
俺の前に立ちはだかるのは、このフロアのボスであるヒドラ(SSランク)。
黄金の鱗を持った八頭の魔竜。
俺たちのレベルでは全滅必死な相手なのだが……。
「……ひ、秘技・流星乱舞」
とりあえず、俺が使える最強のスキルを発動させてみる。
バシュバシュバシュッ
和弓から放った矢が、空中で八本に分裂した。
(なにこれ、知らん……怖っ)
先ほどドラゴンを倒した時にも思ったが、矢は礼奈の銃と違い物理攻撃である。
俺が最初に撃った矢と魔力が反応し、疑似的に分裂しているようだが流星乱舞はこういうモノじゃない。
スピードを生かして連射を重ね掛けし、飽和攻撃を仕掛ける技だったはずだが……。
ボオッ!
ビュオオオッ!
バチバチバチイッ!
ヒドラに向かって突き進む八本の矢が、それぞれ魔法の光に包まれる。
炎術に氷術に電撃術。
術式の威力すら乗せられた矢は、狙いたがわずヒドラの頭に突き刺さり……。
ズッドオオオオオオオオオンッ!!
強大なSSランクモンスターであるはずのヒドラを、粉々に吹き飛ばすのだった。
*** ***
「第八十四階層、成敗なのじゃ~っ☆」
ヒドラが消滅したことを確認し、両手を広げてポーズを取るコン。
ゴゴゴゴ……がこんっ
どうやらこの階層のボスモンスターだったらしく、鈍い音と共に次の階層へ繋がる階段が出現する。
「ま、まだ次があるのか」
コン曰く、溢れる地脈の発散のためにOsaka-Secondの未探索階層に突撃した俺たち。
探索を開始して2時間余り。
いつの間にか第84階層までやってきていた。
「84階層でフロスト・ジャイアントにヒドラ、だとっ!?
Tokyo-Firstの同階層の平均値を15%以上上回っている……な、なんということだっ!」
手持ちのタブレットに凄い勢いで何らかの情報を入力している萌香。
「なるべく詳細な情報を集め、協会本部に報告せねばっ!」
いつの間にか、いちばん前のめりになっている萌香。
出現するモンスターのレベルはとんでもないのだが、コンがチート以上のバフを掛けてくれるお陰でどのモンスターもワンパンのため、いまいち緊張感がない。
「にはは☆
はやくはやく! 次の階層に行くのじゃっ♡」
目をキラキラとさせ、俺の手を引くコン。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
コンがやる気なのは良い事だが、2時間以上も戦いっぱなしである。
全身を鉛のような疲労感が襲う。
「ううっ、ごめんコンちゃん……わたしも腰が痛くて」
「コンち、ちょい休憩キボンヌ……肩が痛いってば」
最前線で体を張り続けた理沙と魔法銃で雑魚モンスターの掃討を担当していた礼奈。
二人にも疲労の色が濃い。
……萌香?
あいつはちみっこのくせに規格外のスタミナを誇る化け物だからな。
人外と一緒にしてもらったら困る。
「ぬぬっ? おぬしらは精疲力尽かの?
ふふ、案ずるでないっ」
そんな俺たちに向けて笑顔を浮かべると、両手を広げるコン。
きらきらきら
コンの手のひらから発せられた黄金色の光が、俺たちの全身を包む。
「こ、これは……」
「筋肉痛が、治っちゃった?」
全身を包んでいた疲労感が解け消えていく。
それどころか、身体の奥底から活力が湧いてくる。
「どうじゃトージ? 意気軒昂であろう♪」
ぐっと両手を握るコン。
確かに、飯を大量に食って10時間寝た後のように、気力が全身に漲っている。
「うおお、これはまさに黄色と黒が勇気の印! 礼奈ちゃん24時間戦えちゃうね!」
元気いっぱいに飛び跳ねる礼奈。
このコンプライアンス全盛の時代に結構なことである。
それにしても……本当に礼奈は2010年生まれなのか?
「……って」
ツッコミを入れかけてふと気づく。
「には?」
先ほどまで理沙のジャージがジャストサイズだったコンだが、いつの間にか手足の裾が少しぶかぶかになっている。
身長もいくらか縮んでいるような?
「うむ! 正しく過剰な地脈を消費できている証拠じゃ!
征くぞトージ!」
コンと手をつなぎ、第85階層に向かう。
成長した姿のコンも綺麗だけど、やっぱ肩乗りコンが可愛いよな~。
萌香と同じで。
「……トージお前、また不埒なことを考えているな?」
「ぐえっ!?」
よこしまな思考を察知した萌香に成敗されながら、俺たちは次の階層へ向かうのだった。
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