第60話 理沙のゆーわく(?)
「ふひぃ、あったまります~」
メイン通路から外れたところにある休憩室のベンチに座り、ホットココアを飲む理沙。
「それにしても、こんな休憩ルームがあるなんて凄いですねっ!
自動販売機も置いてあるし」
興味深げに部屋の中を見回す理沙。
いつも見かける回復用機材のほかにも、様々な設備が置かれている。
「Oosaka-Secondはそれぞれの階層が国内最大級に広いからな。探索が長時間に及ぶこともあるから用意されてるんだ」
「ふへ~」
部屋の中には数脚の椅子にテレビ、マッサージチェアーまである。
「ちょ、超スーパー最新トレンドのタピオカドリンク自販機!? な、何故こんなことろにあるの!」
お、礼奈のヤツだいぶ流行に追いついたぞ。
だが残念だったな……田舎を除いてタピオカ屋台は減少傾向にあるし、そのかわりから揚げとおにぎり専門店が増加中だ(202X年現在)。
「わたしもお腹すいたからなんか買お~っと」
壁際には大昔の国道沿いのドライブインばりに、たくさんの自動販売機が並んでいる。
「あ、仮眠室まであるんだ……はぅ」
「こらこら、何を想像したんだ理沙。
ダンジョン内だぞ?」
「えへへ、は~い♪」
仲良く自動販売機のラインナップを確認する理沙と萌香。
「そういえば、環菜さんは休憩しないんですか?」
部屋の入り口に立ったままの環菜さんに声をかける。
「……少し、見ておきたい場所があるので」
ばたん
微妙に硬い表情をした環菜さんは、一人で部屋の外に出て行ってしまった。
モンスターの掃討はほとんど終わっているとはいえ……まあ彼女の実力なら心配ないか。
俺は自動販売機でドリンクを買い、マッサージチェアーに座ってスポーツサイトのチェックをすることにした。
「……10分400円? 微妙に高いな。
しかも当たり付き?」
さすがは、大阪のダンジョンである。
*** ***
「さて……」
辺りに人目がないことを確認し、ゆっくりと目を閉じる環裳。
我のあらゆる誘惑に屈しなかった統二だが、種族の違いという理由が大きいかもしれない。
「それなら”同族”を使うまで」
環裳が奥の手として考え出した筋書きはこうだ。
まずは九尾の力で、理沙を篭絡する。
ぶあっ
環裳の腰から白銀の尻尾が二本、扇のように広がる。
さすがに人間の小娘を操るのに、全力は必要ない。
同族の雌からの誘惑に抗えぬ統二。
手を出してしまい、律令違反として捕まりそうになる。
そこで登場するのが自分だ。
我の力と従僕である篤の権力を利用すれば、もみ消すのはたやすい。
その代償として彼は、労せずして我のものになるのだ。
……とんでもないガバガバ計画だが、稲荷神である環裳に人間の感情の機微など分からないのであった。
「まずは、統二と小娘を巣穴で二人きりにする」
ヴンッ
環裳の両目が、赤く光った。
*** ***
「ん? すまん、協会から電話だ」
ソファーでくつろいでいた萌香が、スマホを手に慌てて外に出ていく。
忘れがちだが萌香は協会外局所属で副理事待遇である。
俺たちに聞かせられない話もあるだろう。
「マジ!? このフォロワーさんって……ひゃ~っ♪」
タピオカドリンクをすすりながらモクシィをチェックしていた礼奈が、顔を輝かせながら部屋の外に出ていく。
「おいおい」
フォロワーとの会話なら、部屋の中でやればいいのに。
俺や理沙に聞かれると恥ずかしいんだろうか?
「む! すまぬトージ、わらわも厠に……。
少々時間がかかるかもじゃ」
ぱたん
自販機で買ったクッキーを食べていたコンも、トイレに籠ってしまった。
いつの間にか、休憩室の中は俺と理沙の二人きり。
ぽわわ
「ひゃうっ!?」
その時、素っ頓狂な声を上げてその場から飛び上がる理沙。
まさか、急に催したのか?
理沙の冒険着はセーラー服ベース。お腹が冷えてしまったのかもしれない。
だが残念ながら、女子トイレの個室はたった今コンが入ったばかりだ。
俺はトイレ大丈夫だから、男子トイレの個室を使え。
そう理沙に伝えようとしたのだが……。
「……へへっ♡」
妙に緩んだ表情を浮かべた理沙が、俺が使っているマッサージチェアーのところまでやってきた。
「トージさんっ……いいえ、トージおにいちゃん♡
わたしもおにいちゃんをマッサージしたいなぁ♪」
ぎしっ
「お、おい理沙!?」
甘えるような声をだし、理沙は俺の上によじ登ろうとしてくる。
理沙は長身でスタイル抜群だ。
いつもは大型犬のような無邪気な雰囲気を持っているが、こう甘い声を出されると……。
ちらっ
理沙のスカートが、いつもより短い気がする。
よく日に焼けた、すらりとした美脚が俺の目に焼き付いた。
理沙のヤツ、なんか変なものでも食べたのか?
ま、まさかさっきのタピオカが!?
ふわり
甘い香りが、頭の芯をしびれさせる。
俺はただ、混乱する事しかできなかった。
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