第55話 俺たちのブース、やっぱり大人気な件
「な、なんだと?」
竹駒プロダクションブースの反対側。
こちら側も、たくさんのファンでごった返していた。
「うおおおおっ!? 笠間姉妹だ!!」
「さ、サインしてください!」
「よいしょ、よいしょ!」
色紙や今日の入場チケットにペンを走らせる理沙。
一生懸命すぎて文字が紙からはみ出しているが、それがまた可愛いと評判らしい。
「ふふん、礼奈ちゃんからのプレゼントだし(デカ目プリぺたっ)」
「うお、懐かしい!」
「礼奈っちのレトロムーブ、いいよな~」
「あれ(さ、最新プリじゃなかったの)?」
最新アイテムを披露したと思ったらリバイバルになる礼奈も相変わらずである。
「「きゃ~! 萌香様~!!」」
萌香には、どちらかというと女性ファンが多い。
見た目はクールできりっとした美人剣士だからな。
「が、がお~」
「「可愛い~♪ 生がおーだぁ!」」
律儀な萌香は、ファンの要求にいちいち答えている。
(ううっ、これも協会所属探索者としての務め……!)
全くそんなことはないと思うが、真面目なヤツである。
「兄者、姉者、お腹がすいたのじゃ♡」
「「うおおおおおおっ!?」」
可愛くおねだりというSランクスキルを覚えたコンの前には、差し入れのお菓子が山積みにされている。
いくら神様とはいえ、食べすぎは良くないぞ。
これは持ち帰って、毎日少しずつ出してやろう。
「あ、エプロンのトージさん来た!!」
「アレやってもらっていいですか! コンちゃんタワー!!」
タイミングを見計らってファンの前に姿を現した瞬間、沢山の声が掛けられる。
「お、俺ってエプロンのトージさんって呼ばれてんの?」
確かに、コンと一緒にキッチン用品のWebCMに出たことはあるが……。
コンに手料理をふるまうほのぼのCMではあったがっ……!
「にはは?」
「ううっ」
俺はコンを肩車すると、サイン会の続きを始めるのだった。
*** ***
「なるほど……別料金を払えば獲得経験値をブーストできるんですね」
「なあっ!? シルバースライムの召喚がこのお値段で!?」
「シルバースライム契約のお客様には、倉稲村を一望できるグランピングコテージの宿泊がセットになります」
「なんと、観光まで付いてくるのか!?」
5階でユニ子さんのライブが始まり、一般ファンたちはそちらに移動した。
かわりに増えてきたのが現役の探索者たちである。
特に駆け出し~中堅クラスの若手探索者が多い。
国内には数百のダンジョンがあるとはいえ、稼げるダンジョンはそこまで多くはない。
「大手ギルドに所属するかダンジョン企業のお抱えになるかしないと、中々生活は安定しないからな」
少し難しい顔をして、腕を組む萌香。
「そ、そうなのか?」
「肉体的な衰えはスキルでカバーできる。
それゆえ、探索者の活動寿命は長い」
「鉄郎殿ら最初期世代の探索者を除くと、高度成長時代の後期に探索者になった方たちはいまだ現役……協会としても若手探索者の生活向上とレベル強化は喫緊の課題でな」
「むむぅ」
中々に世知辛い話である。
探索者養成校の卒業生は毎年200人程度。
卒業してすぐ探索者にならなくて良かったかもしれない……。
「や、やはり祖父が推進する”あの”プロジェクトに倉稲は最適……。
それに優れた能力鑑定スキルを持つ統二は教官にも向いている。
主任教官をワタシと統二で務め、二人三脚♡で……」
「あっ、ずるいモエさん! わたしもソレやりますってば!」
「す、すまぬ理沙!
抜け駆けするつもりはないのだが……確かに、フィジカルに優れた理沙は基礎トレーニングの教官に最適だな!」
「ですよねっ!!」
「????」
先ほどからこの二人は何を企んでいるのだろう?
こそこそ話を始めた二人の代わりにお客さんの相手をする。
ウチのダンジョンを使ったレベリングツアーは来月まで予約でいっぱいだが、できれば俺と同じ探索者を始めて日の浅い連中に使わせてあげたい。
「この日はダンジョン全体のメンテ(俺たちの探索時間)で休みの予定なのですが早朝2時間だけなら予約できますよ」
「「ほ、ほんとですか!」」
二人組の探索者に声をかける。
まだ若く、養成校出たてだろう。
「僕、養成校では魔法の才能アリと診断されたんですが、なかなか新しい魔法を覚えられなくて……フリーダンジョンでもレベルを上げられないんです」
「なるほど」
フリーダンジョンとは協会が管理しているレベル上げ用のダンジョンだが、出てくるモンスターの数に限りがあり、うまく立ち回らないとお金だけ払ってモンスターを狩れない、という事にもなりかねない。
「ウチは1階層2組までにしてますからね。
確実にモンスターを狩れると思います」
「それと……失礼」
せっかく来てくれたんだ。
俺は彼の”能力”を視るべく、おでこに手を触れる。
「わわっ!?」
(ふむ……)
確かに、魔法の適正はあるようだが、かなりの晩成型だ。
それよりも。
「あと3レベルほど上げると、”開錠”系のスキルツリーを得られると思います」
「え、ええええっ!?」
驚きの声を上げる若手探索者。
開錠スキルなどのいわゆる”シーフ”系スキルは発現者が少ないわりにニーズの多いスキルだ。
「どうでしょう? いまならブロンズスライムをつけて1泊2日食事つき50万でどうです? 分割払いも可能ですし、金利手数料は弊社が……」
「「お、おねがいしますっ!!」」
商談成立。
こうやって隙間時間を埋めて収益性を高めていくのだ!
「あ、相変わらず統二のヤツはとんでもないことをしているな♡」
「モエさん、ハートマークハートマーク!」
「オーナーさん! 私も見てもらっていいかしら!」
「お、オレも!」
俺が見せた鑑定スキルは話題を呼び、臨時のアドバイス大会が開催されるのだった。
*** ***
「ふぅ、だいぶ落ち着いたな……」
時刻はすでに16時。
初日の終了まであと30分くらいだ。
流石にこの時間になると、客の数も少なくなってきた。
「今日だけで70社ほど進出企業が決まったで」
「いやぁ、大商いです!! ウチとしても万々歳です!!」
「お宿の予約も、3か月先まで埋まりましたっ!」
「みんな、おつかれさん」
俺たちのブース、大成功といったところか。
明日はOsaka-Secondに潜るため、ブースは竹駒プロダクションの社員さんにお任せする予定だ。
「ホテルにチェックインしたら、飯に行こうぜ」
せっかくだから、大阪グルメを満喫したい。
そんなことを考えていると……。
「よろしいかしら?」
しゃなり
涼やかな女性の声が俺の耳に届く。
「えっ」
「ふふっ、初めまして」
そこに立っていたのは、淡い水色のスーツにぴしりと全身を包み、銀色のイヤリングをつけた理知的な女性だった。
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