第53話 フェス会場でファンに囲まれる
「……とんでもない修学旅行だな」
俺と理沙の話を聞き終えた萌香は少々あきれている。
「だろ? 無事に戻ってきてくれたから良かったけど」
ぽんぽんと理沙の頭を撫でる。
「えへへ……中での出来事はあんまりよく覚えてないんですけどっ」
「あれだけ厳重に管理されているTokyo-Firstの基幹エレベーターに理沙が侵入できたなど、にわかには信じられないが……」
「じーちゃんの話ではメンテナンス用の機械に不具合があって、ロックが解除されていたらしい」
ただ、なぜかそのログは機械に残っていなかったし監視カメラの映像にも理沙がダンジョンに入るところは映っていなかった。
「面妖な……そして、理沙が最深部で出会った”女性”というのも気になるな」
「顔は全く覚えていないんですけど……トージさんはやっぱ鉄郎さんの孫だなと痛感する出来事があった気がすごくするんですっ!」
「!! もしやこちらの線か!」
なぜか小指を立てる萌香。
「わたしもそう思います!!」
「なるほどな! 大体……」
「なんのこっちゃ?」
またもや謎の会話を繰り広げる理沙と萌香。
「むぅ」
「どうした、コン?」
会話をヒートアップさせる理沙と萌香とは対照的に、腕を組みむむむと唸るコン。
理沙の話を聞いて、何か気になる事があったのだろうか。
「8年前……東の都にあるだんじょん。
あのむずむずはもしや?」
「何か心当たりがあるのか?」
コンがここまで考え込むのは珍しい。
ひょいっ
コンを抱き上げ、肩車してやる。
「確信があるわけではないのじゃが」
俺の頭にギュッと抱き付いてくるコン。
「現界するまえに、わらわの同族の存在を、東の方に感じた気がしてな」
「それは……!」
コンは珍しい稲荷のダンジョン付喪神。
じーちゃんと理沙が出会ったという女性が、コンと同族という可能性が?
だが、公式資料上はTokyo-Firstに付喪神は存在しない。
「すまぬトージ、わらわもヒト型になる前ゆえ時系列もあいまいじゃが……。
う~、思い煩っていたらお腹がすいてきたぞ!」
がじがじ
ぶんぶんと尻尾を振り、俺の頭にかじりついてくるコン。
どうやら真面目モードは電池切れらしい。
「肉まんでも食うか?」
このままでは食われてしまうかもしれないので、先ほどコンビニで買った肉まんを差し出してやる。
「おお! ふかふか! いい匂いじゃ!」
たまらず肉まんにかぶりつくコン。
「善きかな~」
「ふふっ」
やはりコンは嬉しそうに何かを食べているのが似合うな。
「ねぇねぇ、トージにぃ、コンち! もしかしてあのビル?」
そんな雑談をしているうちに、目的地が見えてきた。
地下鉄駅に直結した、地上300メートルの超高層ビル。
ビルの下層部は大型展示場になっており、今回の探索者フェスもここで開かれる。
「Osaka-Secondタワーだな」
日本にある、もう一つの(ウチのSSS+ランクダンジョン以外で)SSランクダンジョン。
Osaka-Secondはこのビルの地下に広がっているのだ。
「お疲れ様です! みなさん!」
「おう、待っとったで」
そのビルの前で俺たちを待っていたのは、竹駒プロダクションの代表である美里さんと、展示物の作成を請け負った雄二郎。
まあ、いつものメンバーというやつである。
*** ***
「「おお~!!」」
全面ガラス張りビルの2階~5階をぶち抜きで使い、ダンジョンフェスの会場が設営されているのが見える。
開場までまだ2時間ほどあるが、入場待ちの行列はぐるっとビルを一周するほどに伸びている。
「うわ、あそこにいるの統二君じゃない?」
「あ、コンちゃんもいる!」
「肩車かわいい~!」
行列を横目に関係者用入り口に向かっていた俺たちだが、早速ファンの人たちに見つかってしまう。
配信で披露していた冒険着じゃなく、私服姿なんだが分かるもんなんだな。
「まあ、コンちゃんがいますからね」
「た、確かに」
「にはは?」
もこもこニットに身を包んでいるとはいえ、特徴的な狐耳と尻尾。
そして俺に肩車されているとなれば、すぐに分かるのも当然か。
「あ、あの……サイン貰えませんか?」
一人の女性ファンが、俺の前までやってくる。
「もちろんいいですよ!」
まだ時間はあるよな……時計を確認した俺は、ペンと色紙を受け取りサインをしたためる。
……慣れてないので字がカクカクしたのはご愛敬だ。
「わらわも♪」
準備よくポーチからサインペンを取り出すと、俺のサインの横に「こん」とひらがなで書くコン。
む、俺より上手い……。
「あとは、これじゃっ♪」
ぽんっ
どこからともなく朱肉を取り出すと、人差し指と中指にインクをつけて色紙に押し付ける。
「おおっ!?」
指を離した後に現れたのは、可愛い肉球スタンプ。
神様の神秘である。
「うわわわわっ!? あ、ありがとうございます!!」
頬を紅潮させ、何度もお礼を言ってくれる女性。
こんなに喜んでもらえると、サインをした甲斐があるな!
「あ、オレもサインしてもらっていいですか」
「僕も!」
「私も!!」
「うおっ!?」
「ふわわ!?」
「やば、あたしげーのーじんみたい!」
あっという間にファンの皆さんに囲まれてしまう俺たちなのだった。
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