第50話 8年前の邂逅(前編)
--- 時は遡り、8年前の12月。
「うわっ! すごいわ! とうきょうだよ理沙おねえちゃん!!」
「ふおお……でっかいビルが! あれって全部お店やさんなのかな三奈ちゃん?」
「あれはマンションだよ。みんなであそこに住んでるの」
「わたしたちの学校の20倍くらいあるよ!?」
新幹線の窓から見える東京の摩天楼に歓声を上げる理沙たち。
倉稲学園全校生徒総勢4名は、東京への修学旅行に来ていた。
「懐かしいな……」
俺は10歳まで都内のマンションに住んでいた。
ダンジョン研究を進める企業に勤めていた父さんと母さん。
大学で知り合って、同じ企業に就職して社内結婚なの~♪
そういつも惚気ていたっけ。
7年前のあの日も、二人仲良くダンジョンの調査に出かけて……。
「ふぅ」
東京の街並みを見て、昔のことを思い出してしまった。
「よっし」
ぱちんと頬を叩く。
今日は楽しい修学旅行。
東京生まれでお兄ちゃんな俺が、理沙たちを楽しませてやらねばなるまい!
なにしろ、自由行動時の班長という大役を仰せつかっているのだ。
「理沙、礼奈、三奈!
どこでも案内するぞ!
まずは原宿から浅草かな?」
「はらじゅく~!! るーずそっくす買っていい?」
「お、おう」
礼奈の好みはやけに古い。
「と、都会って何をすればいいんだろう~。あうう、目が回るよぉ」
「ふふっ、とりあえずトージくんに案内してもらおうよ」
自然児な理沙は、あまりの都会ぶりに目を回している。
「じゃあ、上野公園に行ってパンダでも見るか?」
「ぱんだ!?」
「トージくん、私は舞浜ランドがいい~!」
「おう、抜かりなくファストパスを取ってあるぞ!」
「「「さすが!!」」」
「はいはい、自由行動は昼ご飯を食べてからね?」
引率の先生に宥められながら、新幹線は東京駅のホームに滑り込むのだった。
*** ***
「あうう、人が、人が多いよぉ」
「もう! 理沙おねえちゃんだらしないわね!」
一通り観光名所を巡った後、俺たちは海の見える公園で休息をとっていた。
「だってぇ……倉稲の1000倍くらい人がいたよ?」
「まあ、日本の首都だからね」
ス〇バで買ってやったアイスココアを美味しそうに飲む三奈。
流石一番のお姉さん、都会の空気にも慣れたようだ。
対照的に理沙はパンダに原宿に浅草。
人波にもまれてグロッキー状態だ。
「トージおにぃ! みたみた?
ポケベルのさいしん機種!
字が打てるってすごいわね!」
「お、おう」
原宿ではちょうどレトロフェアをやっていたのだが、礼奈はそこに展示されていたポケベルを最新の機械と勘違いしているらしい。
「礼奈も大きくなったらいけいけのとれんどぎゃるになる!」
……小さい子の夢を壊すのも悪いので、黙っておくことにしよう。
「それで、この後だけど……」
時刻はすでに17時。
宿泊予定のホテルに戻り、飯を食ってもいいのだけれど。
キキッ
考えを巡らせていると、一台のワンボックスカーが公園の入り口に止まる。
車体横には『穴守興業』の文字。
「おう、ここにいたかトウジ!」
「じーちゃん?」
運転席から顔を出したのは、ダンジョン協会の会合があるので東京に出張すると言っていた、俺の祖父鉄郎だった。
「予定より早く会議が終わったからの。
お前たち、特に行くところがないなら……ダンジョンを見に行かんか?」
「「「「ダンジョン?」」」」
思わぬ申し出に、顔を見合わせる俺たちなのだった。
*** ***
「うわっ、すげぇ!」
目の前に広がる光景に、思わず歓声を上げる。
「ふふ、凄いじゃろう? 日本の発展を支えてきた最高ランクのダンジョン、Tokyo-Firstじゃ!!」
東京湾の臨海地区、国際展示場や卸売市場が立ち並ぶ一角に、そのダンジョンはあった。
周囲を航空機の格納庫のような巨大な建屋で囲まれており、建屋を囲むように穴守グループを始めとしたダンジョン関連企業のビルが立ち並ぶ。
内部では数百人の探索者がひっきりなしにダンジョンに出入りし、資源コインや素材を採取しているそうだ。
「Tokyo-Firstって88階層まであるんだね、じーちゃん!」
俺たちがいるエントランスからは、ダンジョンの入り口が見渡せる。
ぽっかりとあいた大穴の周囲にはたくさんのモニターが置かれ、階層ごとのモンスター出現状況がリアルタイムで更新されている。
「ワシが見つけた時は、10階層までしかなかったがの」
「そうえば、これを見つけたのはじーちゃんだったよね! すげぇ!!」
「ふふん、昔の話じゃが!」
髭をさすり、得意げなじーちゃん。
今から55年ほど前、新進気鋭の若手探索者だったじーちゃんは、臨海地区の埋め立て調査に同行し、海中でこのダンジョンを発見した。
当時の常識を覆す海底部に存在するダンジョン。
「最初のうちは、探索が大変じゃったのう!」
何しろ、水深30メートルにある海底洞窟の奥にダンジョンがつながっていたのだ。
最初期は中に入るのにダイビングが必要だったとはじーちゃん談。
「埋め立て工事が進んだおかげで入り口まで徒歩で行けるようになったがの」
そのあとのじーちゃんたちの活躍は、語るまでもないだろう。
史上初の赤スキルの発見。
都心を縦横無尽に貫く地下鉄用の坑道はすべてダンジョンスキルで掘られた。
産出される莫大な資源コインはダンジョン関連の研究を加速させていき……。
「およそ5年後に発見されたOsaka-Secondと合わせ、日本の高度成長を支えてきたのじゃな!」
「すげー!!!!」
その功績を買われ、穴守グループは日本最大のダンジョン関連企業へとのし上がったのだ。
ちょうど探索を終えたのか、筋骨隆々の3人組の男性探索者がエントランスに入ってくる。
その表情は充実感にあふれていて、探索者へのあこがれを強くする。
父さんがなれなかった探索者に、なんとしても……!
「そのためには、適性が発現せんとの!」
「うんっ! 毎日筋トレしてんだから!」
筋力イズパワーである。
「それに、ダンジョンの雰囲気に慣れるようにしてるからね!」
じーちゃんの屋敷内にはプライベートのダンジョンがある。
1層しかなくモンスターも出ない場所だが、毎日綺麗に掃除をし、ダンジョン内にある神棚にお参りをしている。
「うむ、いい心がけじゃ!!」
「あ、しまった」
おもわずじーちゃんと熱く語り合ってしまった。
女の子達には退屈な話だったかもしれない。
「理沙、礼奈、三奈、そろそろホテルに戻るか……って」
振り返った俺が見たのは、美味しそうにジュースを飲む三奈。
「あれ、理沙と礼奈はどこ行った?」
「ん? ついさっきまでここにいたわよ。
おトイレに行くって言ってたような……」
「まったく、迷子になるぞ?」
このエントランス部分だけでもちょっとしたショッピングモールほどの広さがあるのだ。
地上10階、地下3階の広大な建物。
たくさんの人々が行き来しており、適当に動いていたらここに戻ってくるのは難しいだろう。
「ちょっと探してきます。
もし遅くなりそうだったら、三奈をホテルに連れて帰ってやってください」
引率の先生に三奈を託す。
「ワシも手伝うぞ!」
「サンキュー!」
俺はじーちゃんと共に、理沙たちを探し始めるのだった。
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