第47話 村に鉄道が来た
「よしよし、これで階層クリアだな」
紹介動画を撮り終え、地上に戻ってきた俺たち。
「トージさん、皆さんお疲れ様です!!」
美里さんが、汗拭き用のタオルと飲み物を手渡してくれる。
「いつもありがとうございます」
こうしていると綺麗なテンション高めのお姉さんだが、日本トップクラスのダンジョンコーディネーターで会社経営者である。
マネージャーまがいのことをしてもらって申し訳ない。
「いえいえ! トージさんのダンジョンはウチの会社でも断トツの期待値ですので!!
私もダンジョンの近くにいるだけで興奮してしまいます!!」
(可愛いコンちゃん理沙ちゃん礼奈ちゃんに加えてひそかに注目しまくっていた萌香ちゃんまで!!
なにこれ天国!?!?)
「きょ、恐縮です」
いつにもまして、美里さんのテンションが天元突破している。
「んぐ、んぐ、んぐ、ふひゃあ! 探索後の一杯が最高ぅ!!」
「……なんか微妙におっさん臭いわよ理沙ねぇ」
腰に手を当てて牛乳を飲む理沙に礼奈のツッコミが炸裂する。
……同じことをしようとしていた俺は、こっそりスポーツドリンクに切り替える事にした。
「み、美里さんに用意していただいたタオル……もったいなくて使えない」
「いや、使えよ?」
思わず萌香にツッコミを入れる。
そんな俺たちにかまわず、コンを抱き上げる美里さん。
「第十階層クリアおめでとうございますコンちゃん!!
新たに獲得できるダンジョンスキルが気になりますね!!」
「うむ!!」
美里さんに抱っこされて、上機嫌のコン。
三本の尻尾をぶんぶんしながら、惚れ惚れするほどのドヤ顔を浮かべる。
「地脈力(ちみゃくぢから)をちゃーじしておいたからな! 驚天動地なすきるが出現するかもしれんぞ!」
「それは楽しみです!!」
「あ、相変わらず恐ろしいな……」
微妙に引いている萌香をよそに、ゆっくりと目を閉じるコン。
「来た来た~♪ 上がってきたのじゃ♪」
ぷるぷると尻尾が震え、コンの頬が紅潮する。
スキルが解放される合図だ。
「今回は、トージが持っている世界の〇窓からのでーぶいでーを参考にしたからの!」
「んっ?」
いつの間にそんなものを見ていたのだろう。
それなら、今回解放される赤スキルは……。
「んん~~~えいっ!」
ぽんっ
両手で印を結んだコンが可愛く気合を入れると、
自動でダンジョンアプリが起動しステータスが空中に投影される。
=======
■基本情報
管理番号:D21-000001
ランク:SSS+
所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)
階層情報:10/???(クリア済み/最深部)
■ダンジョンスキル
…………
赤スキル(施設建築)
・道路トンネルLV4……(資源コイン消費:5000)
・温泉掘削LV2……(資源コイン消費:1000)
・大型商業施設LV5(駐車場5000台付き)……(資源コイン消費:30000)
・住宅建築LV4……(資源コイン消費:1000~4000)
・鉄路LV3……(資源コイン消費:1000/㎞) new!!
…………
■資源コイン
37,200
=======
「「「おお~!!」」」
ステータスを見て歓声を上げる俺たち。
「鉄路ってことは、鉄道が敷設されるのか!」
「ふおお、倉稲に汽車が来るんだねっ!!」
「汽車って田舎者丸出しじゃない理沙ねぇ。電車よ」
「いや、陸蒸気じゃ!!」
「「「まさかの明治時代!?」」」
……コンの集めた知識に偏りがあったのかもしれない。
山高市を貫く山高本線では、数十年前まで蒸気機関車が走っていたのでそのせいかもしれない。
「はやくはやく! すきるを使うのじゃ♪ 力があふれるのじゃ♡」
「わかったわかった」
スキルを覚えると、ムズムズするらしくすぐに使って欲しがるのだ。
凄くかわいい。
「よいせっと」
俺はコンを肩車すると、スキルの発動態勢をとる。
「とはいっても、いきなり山高本線に繋ぐと怒られるよなぁ」
人の住んでいない未踏の地である倉稲山にトンネルを掘るのとはわけが違う。
「おう、トージ! 市の方には話をつけといたで!」
「市有地なら通して良いそうです!!」
「二人とも、仕事早すぎない!?」
スマホの地図アプリに、市有地の場所がオーバーレイされる。
頼りになりすぎる人たちである。
「そ、それじゃ、ここを通してっと」
市有地だけを通るように、地図アプリ上に線を引いていく。
トンネル内は、中央分離帯上に通せば大丈夫そうだな。
「ふむふむ、その道程でいいのじゃな?」
「おう、頼むぜ?」
地図アプリ上で計測した経路は28.9㎞。
本当にこんな長距離の線路を一気に引けるものだろうか?
俺は半信半疑で「鉄路LV3」を選択し、発動させる。
『資源コイン28,900を消費し、鉄路LV3を発動します』
「うむっ! 資源こいんは十分じゃ!!」
ばばっ
コンが両手を突き上げた途端。
バキバキバキッ!
地図アプリ上に引いた線に従い、台形に積まれた大量の小石が出現する。
いわゆるバラスト軌道というやつだ。
ドドドドドッ、ガチャン!
成形された2本の鉄棒がバラスト上に配置され、接続されていく。
「なんか、この光景にも慣れてきたわね」
「だな」
「線路は続くよ♪ どこまでも~♪」
(な、何故トージたちは落ち着いているのだ!?)
萌香は大規模な赤スキルの発動シーンを見るのは初めてだったか。
正直、Kon-Martが地中から生えてきた時よりインパクトは薄いよな~。
バキバキバキッ
ドドドドドッ
二本の鉄路はトンネルに吸い込まれていき……。
「……よっしゃ、山高本線手前100mまで路盤が完成したで!」
ドローンで線路の延伸状況を確認していた雄二郎が歓声を上げる。
1時間ほどの時間を掛けて、倉稲村につながる線路が完成したのだった。
*** ***
「ちょちょちょっ、ちょっと美里さん!
何ですかこの赤スキルの効果は!!
地下鉄用の素掘りトンネルならともかく、いきなり線路を引いてしまうなんてワタシの記憶が確かなら……」
「世界でも、二例目ですね!!」
「どえええええええええっ!?」
派手に驚く萌香とは異なり、俺は少々困っていた。
鉄道を引いてしまった場合、最終的にどこに言えばいいのだろう?
山高本線に接続するには、私有地を通す必要があるし。
地図アプリを見ながら考え込む。
「もしもし、ポリスメン?」
交通に関する事ならまず警察だろう。
とりあえず電話を掛けてみる。
「ダンジョンスキルで鉄道を敷設してしまったんですが、ひとまず30㎞ほど」
『な、なんですって!?』
電話口の担当者さんも驚いている。
山高本線の所有者であるJRにも連絡するように言われたのでさっそく電話を掛ける。
プルルルル……かちゃ
「山高市内から倉稲地区までの線路を寄付したいのですが」
『…………は?』
日本国内では初の事例という事で法令上の扱いなどいろいろ調整事はあるらしいが、無事倉稲までの路線が開業する運びとなった。
これで、貨物輸送がはかどるな!!
「いやお前、展開早すぎないか!?」
萌香のツッコミは、倉稲の夜空に流れて消えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます