第46話 展示用の攻略映像を撮ろう

「美里さん、こんな感じでいいですか?」


 ダンジョンの入り口でコンを肩車してポーズをとる俺。


「よい感じかと!

 あ、コンちゃんはこちらに向かって手を振ってくれますか?」


「心得た!」


 にっこり笑い、カメラに向かって手を振るコン。

 俺の付喪神様は相変わらず可愛いぜ。


「理沙ちゃんと礼奈ちゃんはトージさんの両側にお願いします!!」


「ほーい」


「ふおっ、笑顔笑顔!」


「こういう時は自然体よ、理沙ねぇ」


「なんでそんなにキメキメなの?」


 ぴしり、とアイロンの効いた制服にピカピカのローファー。

 いつも以上にアイプチくっきりの礼奈である。


「だってさ~、ついに礼奈ちゃんフェスデビューじゃん?

 ハラジュクでスカウトされてもいいように、準備は怠らないわけ」


「……フェスの会場は、日本橋だぞ? ちなみに大阪のな」


「し、ししししし知ってたわよ!?

 東京だって行ったことあるし!!」


 知ったかがバレ、慌てる礼奈。

 ”修学旅行”として東京に行ったのは礼奈が小学校低学年のころだからな。

 あまり覚えていないのも仕方ないかもしれない。


「ワタシはこれでよろしいでしょうか!」


 じゃきん、と大剣をカメラに向けて構える萌香。

 表情はきりりと引き締まっており、若手トップ探索者の風格がある。


 理沙と礼奈と並ぶと身長差もあって可愛いけどな。


「それじゃ、撮りまーす!」


 ぱしゃり


 竹駒プロダクションのブースに飾るスチルとして、俺たちの集合写真が選ばれたのだった。



 ***  ***


「わ~、すご! 自分じゃないみたい!」


「ふふっ、これでモクシィのフォロワーも万越えね!」


 美里さんから送られた完成イメージをスマホで見てご満悦の理沙礼奈姉妹。


「それでは、引き続きダンジョン攻略をお願いします!」


 第十階層まで下りてきた俺たち。

 撮影した攻略映像をブースで流すらしい。


「ほっ、今度は普通だな」


 先日の第八階層とは違い、ダンジョンの壁はオーソドックスな土造り。


「にはは! 萌香が怖がるからの!」


「そ、そそそそそそんな事はないぞ!?」


 あからさまに挙動不審になる萌香。

 連続でお化け屋敷階層を準備するほど、コンも意地悪ではなかったようだ。

 ちょっと残念。


『ひとまず、普通に攻略していただいてOKです!

 字幕などはこちらで入れますので!!』


「了解しました!」


 美里さんの指示に従い、ダンジョン攻略を開始する。


「せっかくだし、緑スキルをブーストしておくか」


 この攻略は、俺たちのダンジョンの宣伝も兼ねている。

 ちょっとぐらい派手にしてもいいだろう。


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:SSS+

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:9/???(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 …………


 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  ・経験値獲得アップ(+10%)<5%強化

  ・資源コイン獲得アップ(+10%)

  ・攻撃力アップ(+10%)

  ・防御力アップ(+3%)<5%強化

  ・魔力アップ(+10%)

  ※以下のスキルは、発動時に資源コインを消費します。

  ・魔物召喚(銀色粘液)

  ・魔物召喚(銅色粘液)


 …………


 ■資源コイン

 32,300

 =======


『緑スキル:経験値獲得アップ、防御力アップを一時的に強化。資源コイン2000を消費します』


「しれっと、とんでもない事をしているな……緑スキルの効果を一時的に強化できるなんて、実際に目の当たりにしても信じられないぞ」


「そうなのか? 青スキルとか階層クリアで強化されるだろ?

 よくある事じゃないのか?」


 実際、収穫量アップスキルは3%から50%に強化されたし。


「それは、青スキルは発動に資源コインが必要なワンタイムスキルだからだ。

 だが、ダンジョン本体効果である緑スキルは基本的に常時発動している」


「よほどの地脈量を持ち、憑神の能力が高くないとブーストなどできん。

 ワタシが知る限り、世界でもTokyo-Firstを含む数か所でしか存在しない超レア能力だ」


「へ、へ~」


 知らなかった。

 思ったよりすげぇんだな、ウチのダンジョン。


「全く……養成校の授業で習っただろうが!」


 萌香に小言を頂戴しながら、俺たちは階層の奥へと進むのだった。



 ***  ***


「ライトニング・フラッシュ!」


 ドゴーン!!


 萌香の大剣から放たれた電撃を纏った剣閃が、ボスモンスターである青龍を真っ二つにする。


 何しろこちらにはレベル152となった、最強クラスの探索者がいるのである。


 俺の級(レベル)も80に到達したとはいえ、まだまだ萌香のレベルには遠く及ばない。


「炎術参式!」

「回復術弐式!」


 得意な術で、萌香のサポートに徹する。


「ワタシとしては、探索者を始めて僅か数か月でレベル80まで上げられると立場がないのだが」


「とはいっても、ここから必要経験値が跳ね上がるだろ?

 今までのようには行かないって」


 いくら俺の成長タイプが”早熟かつ晩成”という変わった物でも、80を超えると極端にレベルが上がりにくくなる。

 萌香に追いつくには相当の時間が必要だろう。


「モエさん、残りはわたしたちが倒してしまっていいですかっ?」


「ああ、ワタシばかり倒してしまってスマンな」


「モエちんパイセンのお陰であたしたちは楽でしたけどね」


 残った数体の鬼たちに向かっていく理沙と礼奈。

 二人の級(レベル)は30を超えている。

 俺がフォローしなくても問題のない相手だろう。


「行くよ礼奈ちゃん!」


「はいはいっと!」


 ドガバキッ

 タンタンタンッ


 理沙と礼奈は鬼の群れに突撃すると、あっという間に倒してしまった。


「ふおお、理沙ちゃんレベルあっ~ぷ!!」


「あたしも、レベル上がったわ! これでますますカリスマモクシィストね!」


 二人ともレベルアップしたらしく、嬉しそうに顔を紅潮させている。


「ん~♪ なんか力が有り余っているような!」


 ごちん!


「いたたっ!?」


 理沙など、その場からジャンプして天井に頭をぶつけている。


「おいおい、大丈夫か?」


「やっぱ理沙ねぇはおつむが残念だから比重が軽いのね」


「ひでぇ!?

 逆に礼奈ちゃんは胸の辺が軽いじゃん! ほらほら、ジャンプしてみてよ!」


「なにおう!」


 いつものじゃれあいを始めた理沙礼奈姉妹。


「…………」


 その様子を、唖然とした表情で見つめる萌香。


「どうした? いつもの事だろう」


「あ、ああ」


 ウチのダンジョンと仲間たちはこれが平常運転だからな。

 慣れてもらわないと困る。


「ほらほら、撮影は終わったんだから地上に戻るぞ?」


 俺はじゃれあう理沙礼奈を止めるべく、二人のもとへ向かうのだった。



 ***  ***


(いくら経験値ブーストをしてたとはいえ、二人が倒したモンスターはせいぜいトロールクラス……そいつを数体倒しただけで、レベルが上がったというのか?

 二人はレベル30越えの中堅クラスだぞ? これもコンの力なのか?)


 この倉稲の地に来てから驚くことばかりだ。

 一度協会本部に戻り、情報を集めてみよう。

 改めてそう考える萌香なのだった。

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