第45話 村祭りとダンジョンフェス

「は~、よいさよいさっ♪」


 どんどこどんどこ


 櫓の上で、景気よく太鼓を叩く理沙。


「皆の衆、豊穣の舞を踊るのじゃ♪」


 純白の巫女服を着て、舞い踊るコン。

 扇の軌跡に合わせ、キラキラと紅白の光が夜空を彩る。


「激しく踊りたい人には、最新アイテムの貸し出しもあるわよ!」


 ファーのついたジュリ〇ナ扇子を配る礼奈。


「なっ、アレは高校時代に現代社会の教科書で見た謎アイテムではないか!?

 何か深い意味があるのか? 収穫量を増やす追加効果を持つマジックアイテムとか」


 根が真面目な萌香は、礼奈の扇子を見て深読みしている。


「いや、ただ単に礼奈のセンスが古いだけだ。

 扇子だけに!」


「……いやトージ、それはあかんやろ」

「見損なったぞ統二」


「な、なぜ!?」


 俺たちの漫才に、どっと笑いが起こる。


「うまいもんをたくさん準備したぜ!

 遠慮なく食ってくんな!!」


 かがり火が焚かれ、明るく照らされた村の広場。

 テーブルには所狭しと料理が並べられ、村人たちが祭囃子を吹き鳴らす。


「すごっ! お祭りなんて久しぶりにきたよ~」

「神様が祝福してくれる祭りなんてご利益がありそうだよな~」


 盆地の西側に新たに造成された住宅地から、たくさんの人たちが歩いてくる。


 冬の便りが聞こえてくる12月中旬。

 移住者の増加で倉稲村の人口は500人を突破し、今月の人口増加率で日本トップを記録していた(元が少なすぎたのだが)


 俺たちは新たに倉稲に移住してきた人たちと親交を深めるべく、お祭りを企画したのだ。



 ***  ***


「倉稲っていいとこですね! 空気は旨いし飯は美味しいし」


 倉稲盆地を流れる川で捕ったヤマメの塩焼きを美味しそうに頬張る家族連れ。

 水産業を営む会社の社員さんで、俺たちのダンジョンと提携すべく進出してきたらしい。


「ダンジョンの効果で、稚魚の成長も早い……これは期待できますね!」


 ダンジョンスキルを応用して掘った池で、ニジマスの養殖を始めるそうだ。


「でもちょっとまちがとおいよパパ~」


「ふふっ、できれば鉄道か高速道路を準備したいですね」


 現在のダンジョン最高到達深度は第九階層。

 コンによると、一つの節目となる第十階層で、新たな赤スキルが出そう♪との事だ。


 山高市につながる道路トンネルはあるものの、物流を活発にするにはもっと交通手段が欲しい。


「さすが穴守鉄郎のお孫さんだ!

 期待してますよ!」


 村づくりの実務は美里さんと雄二郎に任せていて、俺はダンジョンの攻略と訪問してくる探索者の案内を担当しているだけなので、褒められるとむず痒いな。


「この賑わいは、お前がもたらしたもの……もっと誇るがよい」


「そうそう、全部トージさんのおかげだもんっ!」


 三奈たちが作ってくれた食事を、手分けして各テーブルに配膳している理沙と萌香。

 この二人、いつの間にかすっかり仲良くなったな。


「ふふっ、わたしたちは戦友ですからっ♡!」


「だな、お互い協力して強大な敵(トージ)を射止めるのだ♡」


「ふむ……」


 萌香が村に駐在するようになってから、理沙も礼奈も成長速度が向上していた。

 やはり若手トップの探索者が教えてくれるのはデカいな。

 彼女たちがエース探索者として日本に君臨する日も近いかもしれない。


「ほらね、モエさんこんなもんですよ」


「奴にはワタシたちの声に込めた♡を感じられないらしい」


「なんか、♡が見えるようになるスキルって作れませんかね?」


「ふむ、それはいいな」


「????」


 なんだかよく分からないが、向上心があることは素晴らしい事である!


「……そろそろお前のこと、闇討ちしてもええか?」


 なぜかどす黒いオーラを雄二郎から感じる。


「トージさん!! 雄二郎さん!!

 大ニュースです!!!!」


 東京に戻っていた美里さんがやってきたのは、そんなタイミングだった。



 ***  ***


「ダンジョンフェス、ですか」


「はい!」


 美里さんが持ってきたパンフレットの表紙には、でかでかとその文字が印刷されている。


「二年に一度開催されている、ダンジョン関係の見本市やな。

 いつもはお堅いダンジョン協会らしく新スキルの紹介やダンジョン企業の出展がメインやが……」


 パンフレットの中身を見た雄二郎が唸る。


「今回はえらいエンタメ方面に振り切ってますね?」


「そうなんです!!」


 嬉しそうに頬を紅潮させる美里さん。

 それも無理はないかもしれない。


 パンフレットの見開きには、

『今年のフェスはクリスマスの2DAY開催!』

『竹駒プロダクションの協賛により、ダンジョンアイドルのユニ子が来場!!』

『カリスマアイドルの美声と共に、展示をお楽しみください!!』

 の文字が踊り、可愛くポーズをとるユニ子さんの写真が載っている。


「萌香ちゃんの配信が大好評でしたからね!

 協会幹部の皆様も、若者向けのフェスにするという私の提案を受け入れてくれました!!」


「ううっ、恥ずかしくてまだ見れてないんですが……そんなに好評だったんですか?」


「それはもう!

 再生回数は700万超え!

 萌香ちゃんのがおーポーズが切り抜かれて世界中でバズってます!」


「ぐえっ!?」


「にはは! あれはめんこかったものな!」


 スマホを操作し、切り抜き動画を再生するコン。


「あああ、やめてくれぇ!?」


 顔を真っ赤にして座り込んでしまう萌香。

 リアクションが面白いのは分かるが、程々にしといてやれ?


「また、2日目には探索者によるOsaka-Secondのデモ攻略を行うそうです。

 そのメンバーに……トージさんたちが選ばれました!!」


「お?」


 パンフレットの最終ページ、招待探索者リストに俺たちの名前がある。

 トップランカーに混じって、である。


「な、なんか気恥ずかしいですね」


 どうやら、今年のクリスマスは大阪で過ごすことになりそうだった。

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