第44話 統二の過去を共有しよう
「わたしが初めてトージさんにあったのは、生まれたばかりのころ。
さすがに、その時のことは覚えてないんですけどねっ」
「ふむふむ」
穴守鉄郎の長男である、統二の父親。
彼は統二を伴い、頻繁に鉄郎の屋敷に来ていたらしい。
「ご両親のお仕事は、ダンジョンを使った農地開発だったので。
ウチの父さんや村の人たちも頼りにしてたみたいですっ」
「父さん母さんたちが農園に行ってるとき、トージさんはわたしの面倒を見てくれて……おむつも替えてくれていたそうです」
えへへ、と恥ずかしそうな笑みを浮かべる理沙。
「ぬうっ!?」
それは強すぎるエピソードである。
やはり、幼なじみというのは最強カードなのだろうか。
「幼いわたしも、トージさんが遊びに来るのを楽しみにしてたんですが……15年前の秋。いきなり、トージさんが鉄郎さんの家に預けられることになって」
「ん?」
話を聞く限り、統二の父親はダンジョン関係企業の普通のサラリーマンのようだ。
いきなり息子を父のところに預けるなんて、何があったのだろう?
「わたしも、もう少し大きくなってから聞いたんですけど……」
言い淀む理沙。
「ダンジョンで発生した不慮の事故で、トージさんの両親が亡くなってしまったんです」
「!!!!」
初めて聞く衝撃の事実に、全身を硬直させる萌香。
確かに、統二から祖父の話はたびたび聞いたが、両親の話は殆ど聞いたことがなかった……。
理沙の話は続く。
「そんな事件があったのに、トージさんは以前の明るさを失わず、わたしの面倒を見てくれました。礼奈ちゃんも生まれて……わたしたち姉妹はトージさんを本当のおにいちゃんのように慕ってきたんです」
「なるほど……」
それなら、あの面倒見の良さも納得である。
背の低い自分を妹みたいにナデナデしてくることも……。
(くうっ!?)
お兄ちゃん属性のにぶにぶ男なんて、どうやって攻略すればいいのだ!
上位ダンジョンでレッドドラゴンと対峙した時に匹敵する焦燥感を覚える萌香。
(それに)
気になるのは、統二の両親が巻き込まれたという”事故”である。
通常、一般人がダンジョンに入る際は探索者の護衛が付く。
統二の両親のようにダンジョン関係企業の社員相手ならなおさらだろう。
当然、二人は”護符”を持っていたと思われ、そうそう危険はないはずだ。
(調べてみた方がよいかもしれないな)
安全になったとはいえ、その手の事故が皆無なわけではない。
一度協会本部に戻り、記録を漁ってみよう。
妙に気になった萌香は、そう考えるのだった。
*** ***
「あとは叔父の穴守篤か……」
三人の話題は、統二の親族のことに及んでいた。
「昔から篤さんはトージさんのことを目の敵にしていましたね」
「わらわのダンジョンにも何度か入ってきて、何か仕掛けをしていたようじゃ」
「ええっ!? そうなのコンちゃん?」
「わらわはまだ現界前だったからの、詳しくは覚えておらぬが……」
「大丈夫なの?」
「うむ! 異物は理沙とトージが取り除いてくれたからの!」
にぱっ、と笑うコン。
カリスマアイドルユニ子の配信を手伝った時、コンを襲った謎の体調不良。
「あ、もしかしてあのへんてこキノコ?」
「トージが言うには、何かのりみったー? のようなものらしいが」
「まったく! 余計なことばかりするねあのオジサンは!」
珍しくぷんぷんと怒っている理沙。
それだけではなく、帰省のたびにトージを呼び出しては、罵声を浴びせていたらしい。
適性の無いお前は、一族の恥さらしだ。
やはりお前は義兄の子だな!
などなど……。
「外道じゃの」
「それが両親を亡くした甥っ子に掛ける言葉か?」
「……篤さんは婿養子として穴守家に入ったそうですけどね」
「あわよくばの財産狙いか、よくある話だ」
不快そうに鼻を鳴らす萌香。
それならば、跡取りとして銅輔を育て、統二の邪魔をしていたのも合点がいく。
今回の監査も、その一環だったのだろう。
「篤さんに抗議したら、とわたしも言うんですが、トージさんには何か考えがあるみたいで」
「むぅ……確かにダンジョン業界における篤氏の影響力は絶大。
ウワサでは今の与党内にもがっつり彼のシンパがいると聞く。
慎重になるヤツの考えも分かるな」
眉間にしわを寄せる萌香。
「ワタシもできるだけ力になろう」
「えへへ、ありがとうございます」
はにかんだ理沙は話を続ける。
「いつもは陽気なトージおにいちゃんなんですが、篤さんが来た時はいつも沈んでいて……何とかなんとか元気づけたくて、甘えに行ってました」
むんっ!と両手を握る理沙。
ふわふわの栗毛が広がり、柔らかそうなバストが盛り上がる。
(ぐあっ!?)
人懐っこい大型犬を思わせる理沙。
これで甘えてくるとか反則である。
「最近は、すっかりわんこ扱いですがっ♪♪」
「……それでええのか? 理沙よ」
思わず真顔でツッコむコン。
「うぐっ……それは何とかしたいけど、わたしと礼奈ちゃんの探索者適正を引き出してくれて、鍛えてもらったし!
倉稲村は発展するしでひとまずいいかなと!」
「まて、”探索者適正を引き出した”だと?」
あまりにさらりと語られたので、聞き逃すところだった。
「はいっ!
こうおでこをぴとっ、と触られたら力がぶわ~って!」
「んなっ!?」
うらやましい……ではなく、触るだけで探索者適正を引き出した、だと?
能力を鑑定するスキルの存在は聞いたことがある。
ただ、適性を鑑定する機械は大昔からあるし、現在はダンジョンアプリでステータスが簡単に見れるため、注目されることはなく、研究も進んでいない分野のスキルだ。
「わらわと契約したことにより、トージの能力が強化されたのかもしれんの♪」
「そのせいでニブニブさも強化されてるっぽいよ、コンちゃん!」
「にはは! それは生来の物じゃろう!」
「ヤバすぎ!?」
「まったく、底知れぬな統二は……」
嘆息し、椅子に深くもたれる萌香。
「ともかく、有意義な時間だった。
あの鈍感馬鹿を攻略するために、これからも協力していこうじゃないか、理沙」
「はいっ、モエさんっ!」
がっちりと握手する理沙と萌香。
「なるほど、面白いことになりそうじゃ♡
わらわの力を駆使すればいずれ……くくくっ」
ひっそりと陰謀を巡らせるコン。
付喪神としても、優秀なトージの一族が増えるのは好ましい。
やはり自分の主人は並みの器に納まる人物ではない……改めて実感するコンなのだった。
「へっくし!」
「どーしたトージの坊主? 風邪か?」
「いやなんか、ウワサされてるみたいですね」
着々と外堀が埋まっていることに、統二が気付くことはなかった。
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