第41話 ダンジョン協会案件に出よう
「はーい、もうすぐ配信が始まりますよ!!
萌香ちゃんも笑って笑って!」
「え、ええぇ……な、なんでワタシまで出演するのですか?」
ドローンカメラの前で、困惑した表情を浮かべる萌香。
監査から10日後。
今日からダンジョン協会倉稲支所が本格稼働することになり、萌香が事務員さんを伴って倉稲村を再訪した。
「なぜこんなことに……」
その流れのまま、萌香は美里さんに捕まり、ダンジョンに連れてこられたというわけである。
「ダンジョン協会案件です!!」
「ぐうっ!?」
満面の笑みを浮かべながら、萌香の退路を断つ美里さん。
「どうしてもお堅いイメージのあるダンジョン協会ですから、配信を通じて若者にアピールしたいそうです!!
萌香ちゃんが倉稲村に赴任すると伝えたら名誉総裁からウチのプロダクションに依頼がありまして!!」
「!?!? あ、あんのじじぃ~!」
先日知ったのだが、ダンジョン協会の名誉総裁は萌香の祖父だそうな。
……孫で遊んでやがるな?
「ふふふふ、一緒に頑張りましょうモエさんっ!」
「モエちんパイセン、よろ~♪」
すっかり配信に慣れた理沙と礼奈が、制服姿で現れる。
「ううっ!?」
モエちん呼びされたとはいえ、女子中学生相手に怒るに怒れないのか頬を染める萌香。
「カカッ、二人と並んだら攫われた宇宙人みたいや……ぐほおっ!?」
余計な一言を口走り、ぶっ飛ばされる雄二郎。
養成校時代、いつも見ていた光景である。
「は、配信においては理沙と礼奈が先輩……モエちん呼びも致し方ないかっ!」
なぜか納得している萌香。
真面目なヤツである。
「そ、それで理沙、礼奈よ!
君たちは何故両手に制服を持っている?」
萌香の言葉通り、理沙と礼奈は両手に制服をはじめ様々な衣装を抱えている。
「へへ~、これはですねぇ」
邪悪な笑みを浮かべる理沙。
「私が着せたいからです萌香ちゃん!!」
美里さん、言い切りやがった。
「なあああああああああああっ!?」
「ダンジョン協会のため、撮れ高のため……私の趣味のため着せ替え人形になりましょう!!」
「うわあああああああっ!? 最後の絶対私情ですよねええええっ!」
なすすべなく三人に捕まる萌香。
面白いものが見れそうだった。
*** ***
「みんなお疲れ! トージだぜ!」
「にはは、コンなのじゃ!」
「おはようございます! 期末試験の点数が心配な、理沙ですっ!」
「あたしは安全圏だし。 カリスマモクシィストの礼奈です」
いつも通り、カメラに向かって挨拶する俺たち。
配信も今日で5回目、慣れたものである。
>コンちゃん可愛い!
>オーナー、ダンジョン行ったよ! すっごく良かった!
「お、サンキュー!」
「更なる喧伝を頼むのじゃ!」
早速書き込まれたコメントに返信する。
>理沙ちゃん、これで勉強するんだよ? >参考書
「ぬはっ!? 切実!?」
>息抜きにこれでも見てね! >ホラー映画リスト
理沙の成績の悪さとホラー映画好きはフォロワーさんの間に知れ渡り、主に年齢層高めのファンたちから人気だ。
「そ、そういえば学習塾から案件がきました……理沙ちゃんでも成績アップ!
だって」
>草
>説得力しかないwww
おかげで、理沙の学力は向上している。
素晴らしい事である。
>モクシィの利用者数が前年同月比+5%か。 礼奈っちのおかげじゃね?
「もち。 頑張ってるんだから!」
カメラに向かって決めポーズをとる礼奈。
理沙の平成中期スタイルはそれなりにバズり、モクシィのイメージキャラクターの一人に選ばれた。
>そういやオーナー、子供服のネットCM見たよ! ほっこりした~!
「お、おう」
かくいう俺は、コンのパパというキャラ付け(というか日常)がウケたのか、子供服メーカーやベビー用品チェーンの案件が舞い込んでいた。
まだ独身なのに!
ジ〇プの宣伝とか、アメカジアパレルの案件は来ないのか!!
「にはは! トージの作る御膳は絶品じゃし、いつも一緒に寝てくれるのじゃ!
大好きなのじゃ♡」
>かわいい~×5000
すっかりパパキャラが板についてしまった俺だが、俺たち4人組は竹駒プロ内でもかなりの人気を獲得していた。
「つー事でみんな。
今日はダンジョン協会の案件だ!」
>おお、協会案件!
>クライネーズもついに案件配信か!
「ダンジョン協会のイメージアップを目指して、既存階層を魅せ攻略していくぜ。
そこで、協会から派遣されたとある”大物”が仲間になってくれます」
>大物?
>お堅いダンジョン協会が、配信に参加するとか珍しいな
>だれだろ? 日本ランク1位の山田とか?
>ねーよ! それに山田じゃイメージアップにならんだろ。絵面が暑苦しすぎるww
>それもそうか
>それじゃ、可愛い女性探索者?
>協会直属にそんなのいたっけ?
コメント欄も興味津々である。
(ほら、萌香!)
俺の背中に隠れたままの萌香を突っつく。
(ふふふふっ、可愛いですよっ!)
(いやー、楽しいわね!)
「うううう、本当に出なきゃダメなのか?」
『探索者は度胸です!! 協会のイメージアップが萌香ちゃんの双肩にかかってますよ!!
さあ、子供たちに夢を!!』
美里さんから励まし(?)の声がインカムに届く。
「ぐっ……それもそうだ!」
決心を固めたらしい萌香が、力強く俺の背後から歩み出る。
「だ、ダンジョン協会外局倉稲支所所長、大宮 萌香・ヘンダーソン!
いざ、参る!!」
勇ましい口上。
だが、その冒険着は……。
もふもふのくまさん耳に丸い尻尾。
雄二郎渾身の工作により、ピコピコ動く。
理沙の中学時代の制服をもとに仕立てたセーラー服タイプの上着にスカート。
ちなみにへそ出し。
「ワ、ワタシの前に立ちはだかるものは……た、食べちゃうぞ?」
「がおー」
可愛く真顔でポーズ。
>は、はあああああああああああっ!?
>大宮萌香じゃねーか!!
>え、あの若手No1の!
>いやいや、マジ?
>も、萌香たんのコスプレええええええええっ!?
一瞬でコメント欄が爆発し、視聴者数が一気に跳ね上がるのだった。
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