第39話 若手最強探索者さん、押しかける
「皆さん、監査お疲れさまでした~」
「ありゃ? 美里さん、来られてたんですか?」
探索者ビジターセンターで俺たちを出迎えてくれたのは美里さんだった。
ここ数日はプロダクションの仕事が立て込んでいるという事で東京のオフィスに戻っていたはずだが。
「ええ! 倉稲村に移住したいって探索者の人が結構出てきてまして、説明会を開くのでその準備です!!」
相変わらずスーツをびしりと着こなして、テンションも高い美里さん。
「へ~、バイトの子たちだけじゃなくて、探索者もですか。
やっぱうちのダンジョンって魅力的なんですかね?」
「それはもう、凄いですよ!!
これだけ”稼げる”ダンジョンは希少ですから!」
「そ、そうなんですね」
ちらりとビジターセンターの建物に目をやると、コンビニとスーパーらしきお店の内装が急ピッチで進んでいる。
雄二郎によれば、移住者の増加を見越して出店するらしい。
「そういえば、コンちゃんがまた”昇級”したらしいですね!!
今度は、どんなダンジョンスキルをゲットしたんです?」
コンがランクアップしたことだけはメッセージアプリで連絡していた。
ずずいと身体を乗り出す美里さん。
「え~、シルバースライムとブロンズスライムを自由に召喚できるようになりました」
「………………は?」
ぽかんとした表情になってしまった。
そりゃまあ、こういう反応になるよな。
「く、くくく詳しく聞かせてくださいその話!!」
「にはは?」
食堂に入る前に、質問攻めにあう俺とコンなのだった。
*** ***
「これで、更なる移住者の増加が見込まれますね!!」
「住宅の建設は進めとるが、順番待ちしてもらうかもやな」
「ですね!!」
倉稲村で採れる野菜や山の幸、富山から取り寄せた海の幸をふんだんに使った料理に舌鼓を打つ。
「三奈ちゃんとこのお料理は美味しいな~いくらでも食べられるよ」
ぱくぱくぱく
「おかわりはたくさんあるけど、あまり食べすぎないようにしなさいよ?」
苦笑しながら、お盆いっぱいの料理を運んできてくれる三奈。
割烹着姿がよく似合っている。
「理沙ねぇ、また身長伸びたんじゃない?
……あと胸と腹も」
「ぬうふあっ!?」
「にはは! 食う子は育つじゃ!!」
年少組は食い気全開だ。
「ほ~、この日本酒……倉稲で作っとるんやっけ?」
「ああ。10年ほど前まで、酒蔵があったんだけど。
剛さんの声掛けで、杜氏さんが醸造を再開してくれたんだ」
「ええな!」
俺たち大人組は、晩酌モードだ。
ほんのり甘口の純米酒。
酒精がテーブルの上を漂う。
「それにしても、監査人が萌香ちゃんだったなんて驚きです!
若手探索者ランキング1位獲得おめでとう!!」
お猪口に注がれた日本酒をグイっと飲み干すと、満面の笑みを浮かべる美里さん。
彼女はなかなかイケる口なのだ。
「は、はいっ!
あ、ああああありがとうございます光栄です!!」
萌香はというと、美里さんの隣でカチコチに緊張している。
いつも自信にあふれ堂々としている萌香にしては、珍しい反応だ。
「どうした萌香? 美里さんと知り合いだったのか?」
彼女にこっそりと耳打ちする。
「知り合いも何も、あの竹駒美里さんだぞっ!!
ワタシたちの先輩で、日本……いや世界トップのダンジョンコーディネーター!
なんでお前はそんなに落ち着いてるんだ!」
「い、いやだって」
美里さんって養成校の先輩だったのか。
なんかすごい人なんだろうな~とは思っていたが。
「ワタシが探索者として壁にぶつかった時に優しくアドバイス頂いて……人当りもよく素敵で、ともかくワタシのあこがれの先輩なんだ!」
「なるほど、萌香は不愛想だもんな」
「そっちじゃないいいいいっ♡」
ぎゅううううっ
服の襟をつかみ、締め上げてくる萌香。
い、息が! ギブギブ!
必死で萌香の頭をポンポンすると、ようやく放してくれた。
からかうのは程々にしておこう。命の危険があるぜ。
「あらあら、ふふっ」
「ほら理沙ねぇ、あれが(略)」
「ふおおおっ!? わたしも
トージさん、これすっごく美味しいですっ!」
お皿に里芋の煮つけを盛り、とてとてと理沙がやってきた。
「ん、食べたいのか?」
箸でお皿から里芋を1つ掴んで、理沙の口に放り込んでやる。
「ぱくっ。
美味しいけどそっちじゃないいいいいいっ!?」
「????」
こうして、にぎやかな食事が続くのだった。
*** ***
「ということでなぁ、統二ぃ~♡」
2時間後。
デザートまで食べ終え、まったり談笑モードに突入していた俺たちなのだが。
ずずずいっ
すっかり出来上がった萌香が、一升瓶片手に俺の隣に座る。
(うわっ、酒臭っ!)
普段は真面目でお堅い萌香なのだが、絡み酒なのか。
「ダンジョン協会への報告はぁ、美里さんにお任せすることになったのでワタシは何も言わないがぁ」
まずい……萌香の目が座っている。
金髪緑瞳の美人さんな分、異様な迫力がある。
「なんだぁ、エスエスエスランクのダンジョンなんてぇ、大事件じゃないかぁ!」
そう、美里さんの方針で情報を小出しにしていたので、ダンジョン協会への報告は『推定Sランク以上、詳細は調査中』としていたのだ。
「一気に情報を出してしまうと、無用な混乱を招く……美里さんの懸念はその通りぃ!
素晴らしいご配慮!!」
コイツ、規則に厳しい癖に美里さんに言われたらOKするのな。
忠犬よろしく美里さんの言葉に頷いていた萌香の様子を思い出す。
「しかぁし!」
だんっ
一升瓶がテーブルに叩きつけられる。
ちょっと怖いんだが。
「だらしないお前が、この先何をしでかすか分からんっ!!
よって!!
ビジターセンター内に協会の事務局を置き!
わ、わわわわワタシが職員兼監査員として……お前のことをずっと監査♡するぅ!!」
「えぇ……」
「お前の屋敷の隣に家を建てるぞぉ!」
ぱたん
それだけ言うと、萌香は俺の膝を枕にして寝入ってしまった。
「すぅ……すぅ」
「やだ、萌香さん色々な意味で強すぎ?」
「……酒乱はマイナスポイントじゃない?」
「ふふふっ、萌香ちゃんにはあとでしっかり言い含めておきますね」
翌日、真っ赤になった萌香にこの日の醜態を謝られた。
だがそれはそれとしてビジターセンターの一角に、ダンジョン協会の事務所が開設される事になったのだった。
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