第38話 監査を終えて

「まったく、シルバー・ブロンズスライムを資源コインで召喚できるなんて……。

 チートにもほどがあるぞ?」


「おかげでレベルが上がっただろう?」


「それはそうだが……」


 レベルを151から152に上げた萌香は両手をにぎにぎさせながら、なんとも言えない表情をしている。


「150から151に上げるのに3か月もかかったのに……ぷぅ」


 何か気に入らない点があったのか、頬を膨らませている。

 いちいちしぐさが子供っぽいよな~、コイツ。


 萌香が華麗な剣技と魔法でスライム4体を蹴散らした後、俺たちは地上に戻ってきた。


「それで、統二はこのダンジョンを狩り場として探索者に開放しているということだな?」


「まーな。

 流石に有料だけど」


 新たな課金要素爆誕である。

 発動にはたくさんの資源コインが必要なので、2、300万円くらい頂いてもいいかもしれない。

 銀行からの融資があるとはいえ、移住者向けの住宅や公園。

 農地の開拓などお金はいくらあっても足りないのだ。


「資源コインさえ使えば、レアスライムを確定出現させるなんて……レベル上げの常識が変わる。ふむ、もしかしたら棚上げになっているあの”案件”にも……場所は十分にあるようだし」


 腕を組み、ダンジョン入口とここからでも大きく見える「Kon-Mart」を交互に見比べている萌香。

 何か気になる事があるようだ。


「それで、監査はこれで終わりという事でいいのか?」


 俺は、大きく伸びをする。

 一通りダンジョン内は回ったし、問題のある個所はなかったはずだ。

(コンがランクアップするという特大のイレギュラーはあったが)


「……はっ!? あ、ああ。

 正式には集めた情報の精査が必要だが、穴守篤氏の依頼に書かれていたような問題点はなかったと思う」


 我に返った萌香は、各種センサーの情報やメモ帳の中身を確認しながらそう言ってくれる。


「そうだな、依頼者殿?」


 そういえば、コイツがいたんだった。

 すっかり黙ってしまった銅輔に問いかける萌香。


「……依頼者殿?」


 銅輔は突っ立ったまま答えない。


 よく見れば顔色は真っ青で、小刻みに震えている。


「ば、馬鹿な……ボクの仕込みが裏目に出たのか?」


「ん、なんだって?」


 もごもごと何かつぶやく銅輔。


「も、もしこのまま父上に報告すれば。

 父上の興味は統二の奴に移るかもしれない。

 そんなもの、穴守家の次期当主として許せるはずないぞおおおぉぉぉ……」


 だっっ!


「「あっ!?」」


「出せっ!!」


 ブロロロロロロロッ!


 脱兎のごとくスポーツカーに飛び乗った銅輔は、ドライバーに車を出すように叫ぶと猛スピードで村を出て行ってしまった。


「あ、あの男!!」


 監査担当の萌香を残して。


「置いて行かれたな」


 既に辺りは、夜のとばりが降り始めている。

 ちなみに、終バスは出てしまった後だ。


「そうだな……」


 俺の車で山高市内まで送ってやってもいいが……。


「久々の再会だし、ウチに泊まっていくか?」


 同期として、積もる話もしたいしな!


「ぴいいいいいっ!?」


 俺のナイス提案に、なぜか髪を逆立てる萌香。


「な、なんと!?」

(つ、ついに行くんかトージ!!)


「ふおぉ!? 一気にトライされるうぅぅぅ!?」

「短い天下だったわね理沙ねぇ」


「あ~、それよりも」


 よく考えたら、いくら同期とはいえ萌香は正式な協会の監察官である。

 親しき中にも礼儀あり、だよな。


「「「「????」」」」


「三奈のおばさんとこの食堂で歓迎パーティをさせてくれ!」


「それに、広い内湯付きの宿を新設したんだった。

 せっかくだから泊まって感想をくれないか、監察官として!」


 どどどどっ


「んっ?」


 なぜか萌香を含め、全員がずっこけていた。


「お、お前はあああああっ♡」


「あ、そうか……萌香はベッド派だったな。

 すまんすまん、洋室も準備している!」


「そっちじゃなあああああいっ!」


 ならなんだと言うんだ?

 萌香にしては珍しいワガママである。


「う、ううううっ……こいつはこいつは本当にっ!」


「……萌香さん、トージさんは、トージおにいちゃんは昔からこうですっ!!」


 地面に跪き、頭を抱える萌香の肩をそっと抱く理沙。


「や、やはりそうなのか?」


「はい、筋金入りですっ!

 幼なじみのわたしが保証します!!」


「ううっ、理沙……君も苦労してるのだな」


「はいいいっ(泣)」


 謎の友情を育む理沙と萌香。


「……なにこれ?」


「にはは! 端から見てると趣があるのう♪」


「いったいなんだよ皆……」


 俺は首をかしげながら、探索者ビジターセンター内の食堂に向かうのだった。

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