第37話 またコンが昇級した

「むっふふ~♪」


 嬉しそうに走り回るコン。


「コンち、尻尾が!」


「にはは! 三重(みえ)の尻尾は気高き付喪神の証!

 この尻尾が、九重(ここのえ)になった暁には……」


「ど、どうなるの?」


「世界は、わらわのものじゃっ♪」


「「どええええっ!?」」


「にはは! ソレは冗談であるが。

 そなたたちと倉稲を末永く護ろうぞ!」


 両手を広げ仁王立ちするコン。

 ふわりと三本の尻尾が扇のように広がる。


「というかコンちゃん、三本目の尻尾は可愛いけど、おトイレのときとか邪魔にならない?」


「案ずるな理沙!

 わらわほどの付喪神になると、しっぽを隠すことも容易じゃっ!」


 ぽんっ


 煙と共に、コンの腰から生えていた尻尾が消える。


「これで厠も問題なしというわけじゃな♪」


「ふおお、すげぇ!」


「ていうか理沙ねぇ、最初に聞くのがそれなの?」


「!? しまったぁ!

 理沙ちゃんまたもや失点!?」


「既にコールド負けよね」


「ずがーん!」


 じゃれあうコンと理沙礼奈姉妹がほほえましい。


「なんと……ダンジョンの付喪神がランクアップしたというのか?」


「あ、ああ。今月二度目だな」


「二度目っ!?」


 白目を剥いてのけぞる萌香。

 大丈夫、俺も驚いてるぞ。


「そ、それではこの凄まじいダンジョンはあの子の……」


「そうだな、じーちゃんは俺の適正とコンの相性が抜群と言っていた。

 あと、彼女が現界する前に”盟約”を結んでいたらしい」


 この辺りは俺も詳しく知らない。

 もう少しじーちゃんに話を聞いとけばよかったな。


「そういえばお前の祖父は、かの高名な穴守鉄郎殿だったな。

 鉄郎殿の血族であり、師が見出したダンジョンか……」


 何か感じ入ることがあったのか、目を閉じる萌香。


「それならば、これほどのポテンシャルを持つのも不思議ではない、か」


 ぽん、と俺の背をたたく萌香。


「すまぬ統二、一瞬でもお前を疑っていたワタシを許してほしい」


「そんなの、気にしてないさ」


 GランクダンジョンがいきなりSランク以上にランクアップしたと聞けば、疑うのが自然だろう。


「このダンジョンは、日本の宝になるぞ」


「そうなのか?」


 倉稲という都心から離れた場所にあるのにだろうか?

 まあ、倉稲村は俺が発展させまくるけど。


「そ、それはそれとしてだな」


 一転して、あたりを窺う萌香。


「お前がこのダンジョンの所有者なのだから、第八階層は責任をもってクリアするんだぞ?」


 ささっと俺の背中に隠れる。


 ははぁ、萌香のヤツまだお化け屋敷モードなこの階層にビビってんな?


「相変わらず(小動物的で)カワイイやつ」


「んなあっ!?」


 俺の言葉に、真っ赤になる萌香。

 ……まずい、プライドを傷つけてしまったかもしれない。


「……ほら、あれが自然なイチャイチャよ。理沙ねぇも見習ったら?」


「う”っ……わたしの抱き付きも負けてないもん!」


「はい、首輪」


「だから姉の扱いぃ!?」


 にぎやかな理沙と礼奈をつれ、俺たちは階層の奥へと進んでいくのだった。



 ***  ***


「おおそうじゃ、昇級したわらわのすきるを紹介しておきたいのじゃが!」


 コンがそう言いだしたのは、あらかた階層内を回り終え、中央部にある浮島で休憩していた時だった。


「新しいスキル?」


「そうじゃ! だんじょんすていたすを開いてみるがよい!」


 コンの言葉に従い、ダンジョンアプリを立ち上げる。


 =======

 ■基本情報

 管理番号:D21-000001

 ランク:SSS+

 所在地:岐阜県山高市倉稲地区(旧倉稲村)

 階層情報:7/???(クリア済み/最深部)


 ■ダンジョンスキル

 …………


 緑スキル(ダンジョン本体効果)

  ・経験値獲得アップ(+10%)

  ・資源コイン獲得アップ(+10%)

  ・攻撃力アップ(+10%)

  ・防御力アップ(+3%)

  ・魔力アップ(+10%)

  ※以下のスキルは、発動時に資源コインを消費します。

  ・魔物召喚(銀色粘液) new!!

  ・魔物召喚(銅色粘液) new!!


 …………


 ■資源コイン

 22,000

 =======


「おおっ!?」


 ダンジョンランクは変化していないが(これ以上表示できないのかもしれない)

 新しい緑スキルが2つも増えている。


「もしかして、モンスターを選んで召喚できるのか?」


「うむっ!」


 腕を組み、額に飾りたいほどのどや顔を浮かべるコン。


「トージと出会った日に招いた金色粘液は流石に無理じゃが、亜種である銀色、銅色粘液を召喚できるぞ!」


「ま、マジか!」


 莫大な経験値を獲得できる、いわゆる「メタスラ」枠には数種類のモンスターがいて、最上級がゴールデンスライム、中級がシルバースライム、下級がブロンズスライムだ。

 シルバーやブロンズでもなかなか出会えないレア枠なのだが……。


「は? ランクアップしただけでなく新たなダンジョンスキルまで!?

 え? 階層クリアもしていないのに!?」


 俺の背中に隠れている萌香が、目を白黒させている。

 まあ、普通はそういう反応になるよな。


「当階層のぼすもんすたーとして、盛大に召喚してみようじゃないか!

 ほらほら、トージ!」


「お、おう」


 コンの言葉に従い、魔物召喚を発動させる。

 銀色の消費資源コインは1000、銅色は500みたいだ。


「じゃあ、とりあえず2体ずつ」


『資源コイン3,000を消費して、モンスターを召喚します』


 ぽぽぽぽん!


 煙とともに現れたのは、鹿くらいの大きさのスライム4体。


「ほ、本当にシルバースライムとブロンズスライムだ」


 コモン枠ならともかく、レア枠のモンスターを召喚できる緑スキルなんて前代未聞である。


「さあ萌香、倒してみるがよい!

 トージを褒めてくれた褒美じゃ!」


「な、なんとおおおおおっ!?」


 今日何度目か分からない、驚きの声を上げる萌香なのだった。

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