第36話 銅輔さん、裏目に出る(5年ぶりN度目)

「最後に現時点での最深部を見てもらおうか」


「う、うむ」


 1時間後、俺たちは第八階層まで下りてきていた。

 先日解放された、新フロアだ。


「わらわが昇級してから初めての拡張だからの!

 いささか気合が入りすぎてしまったのじゃ♪」


 両手に腰を当て、自信ありげなコン。


「お、おぉ……」


 その自信に違わない光景が、目の前にあった。


 この階層は巨大な1つの部屋で構成されている。

 どこから水が湧いているのか、縦横無尽に小川が流れ天然の迷路が広がる。


「これは、柳の木か?」


「にはは! 雰囲気があるじゃろう?」


「確かに」


 川岸には葦(よし)がびっしりと生え、視界を遮る。

 そして、うっすらと漂う怪しい霧。

 どこからともなく、おどろおどろしい太鼓の音まで聞こえてくる。


 いやほんと、どうなってるんだ?

 こんなダンジョン見たことない……。


「まるで、お化け屋敷みたいですねっ!」


「だ、だな!」


 きらきらと目を輝かせる理沙。

 彼女は怪談に目がなく、見る映画の半分以上はホラー映画だ。


「え~、あたし苦手かも。こわ~い♪

 ……と可愛く言ってフォロワーゲットっと」


 両目にわざとらしくウルウルと涙をため、モクシィ用の自撮りをする礼奈。


 そして、萌香はというと……。


「ぴいっ!?」


「ぴぃ?」


 恐怖のあまり硬直していた。


「ああ、コイツお化けの類(たぐい)ダメなんだ。

 モンスターは平気なのに、なんでかなぁ?

 そういえば……レイス(亡霊)系のモンスターは大嫌いと言ってたっけ」


 いつぞやの実習で、萌香が泣きついてきたことを思い出す。


 こそこそ


 そんな萌香の様子を見て、何か思いついたのか彼女の背後に回るコン。


「にひひ♪」


 どこから取り出したのか、竿に付けたこんにゃくという古典的な仕掛けで萌香を脅かそうとしている。


「あ、そんなことをしたら」


 ぺちょん


「には?」


「………………」


 こんにゃくが頬に触れた瞬間、萌香は立ったまま気絶した。


「ちょっ!? 萌香さん可愛すぎない?

 やべぇ! ホラー大好き系女子な理沙ちゃんまたリードされてる!?」


「理沙ねぇは犬系女子だからいいじゃない。ほら、首輪」


「姉の扱い!?」


「やれやれ」


 萌香が再起動するまで10分ほど、探索が中断するのだった。



 ***  ***


(なんだなんだ、このダンジョンは!?)


 背中の冷や汗が止まらない。

 銅輔は、自分の目に映る光景が信じられなかった。

 通常、ダンジョンの内部は石造りか土なのが普通だ。

 理屈はよく知らないが、地中にあるのだから当然だろう。


 それに、地下水脈と繋がって池のあるダンジョンはたまに見かける。


(だが、コイツは……!)


 内部に川が流れ、草原があり、木が生えている。

 冗談としか思えなかった。


(あの狐娘……)


 どれだけの力を持つダンジョン付喪神なのか。

 できれば強奪したかったが、憑神は土地と人に憑くため不可能だ。


(くそっ!)


 ピッ


 冒険着の内ポケットから小さなアラームが聞こえた。

 地脈操作機の準備が整った合図だ。


(よしっ)


 銅輔は統二達から見えないように、携帯サイズの地脈操作機を地面に突き刺す。


 改良型のコイツは、地脈の力を一時的に不安定にする。


(くくっ、統二! 貴様もこれで終わりだ!)


 ダンジョン探索に失敗した際ごまかすために重宝しているのだが、不安定で危険なダンジョンと判断されれば、協会本部から利用制限が掛かる。


 そうすれば統二は、ド田舎住みの無職となるのだ。


(そして統二に失望した萌香はボクの物になるという筋書きだ!)


 己に都合の良すぎるガバガバ妄想ではあるが、銅輔は本気だった。

 そして、つめの甘い彼は地脈操作機の設定を間違えたことに気付かない。



 ***  ***


「にはっ!?」


 怖がる萌香を庇ってやりながら進んでいると、横を歩いていたコンが突然立ち止まる。


「コン、どうした?」


 また先日のような体調不良だろうか?

 心配になる。


「ううっ、むずむずじゃ!」


 ぶわっ


 コンの二本の尻尾が総毛立つ。

 あの時とは違う反応。むしろ、興奮しているのか?


「んん~~~~♡

 力が、みなぎるのじゃっ♪」


 ぴょんっ!


「うおっ!?」


 頬を紅潮させ、飛びついてくるコン。


 これは、もしかして?


 ぽんっ!


 可愛い音と共に、3本目の尻尾が出現する。


「うわっ!?」


 間違いない、コンの力が増している!


「にははっ!」


 その証拠に、蒼い両目はキラキラと輝き、全身に地脈の力がみなぎっていく。

 今度は身体は大きくならないみたいだが……。


「付喪神コン、またまた昇級じゃっ♪」


 そういうと、コンは可愛くポーズをとったのだった。

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